その名の意味

セントラルに到着したアルフィス達。

ここまでは一切寄り道せずだったので皆疲労していた。


アルフィスとアゲハは何日か休んだら特訓しようと打ち合わせしていた。

長期休みもまだ少し残してある。



セントラル南東門



行商や旅人が列をなし、そこにアルフィス達がいた。

セントラルには許可が無ければ入らないため、舎弟二人ともここでお別れだ。

別れを惜しむノッポとデブは号泣していた。


「お前達、世話になったな」


「アニキに色んなこと教えてもらって……もうこの世に未練はないっす……」


「男の生き方教えてもらいました……」


二人の号泣はあまりにも異様で注目を集める。

しかしそんな人の目なんて気にしてないアルフィスも天を見上げて涙を我慢していた。

アゲハはそれを困惑の表情で見つめている。


「お前らは一生、俺の舎弟だ。何か困ったことがあればすぐに手紙送んだぞ!」


「はい!」


「お世話になりました!」


そう言うと二人は荷馬車に乗り、故郷へ帰って行った。

アルフィスは二人の姿が見えなくなるまでそれを見つめていた。


「そういえば気になったのですが、あのお二人のお名前はなんと言うのでしょう?」


「……わからん」


アルフィスは真顔で答え、その返答にアゲハは言葉を失っていた。



列が進み、セントラルに入るための門前に到達したアルフィスとアゲハ。

そこに横から貴族用の馬車が列を無視して門前まで来ていた。

それを見たアルフィスのイライラは最高潮だった。

なにせここまで来るのに三十分は待っていたのだから。


「おいおい、順番守れよ」


「あれはかなり身分の高い方だと思います。仕方ないですよ」


アゲハはそう言ってなだめるが、アルフィスは全く納得いっていない。

貴族用の馬車のドアが開くと、そこから出てきたのは聖騎士団長のノア・ノアールだった。

身長が140センチほどで金髪のショートカット。

服は聖騎士学校生徒と同じ服で、その上から軽装の鎧を着ていた。

もう一人聖騎士が出てきたが、ノアの剣と思われる大剣を抱えていた。


「いやぁ長旅だったな。ん?」


ノアは背伸びしながら、異様な視線を感じ横をチラ見した。

そこにはガンを飛ばしてるアルフィスとキョトンとしているアゲハがいた。


「どこの世間知らずかと思ったらチビじゃねぇか」


アルフィスがノアに聞こえるように、かなり大きい声で発言する。

アゲハ含め、お付きの聖騎士や周りの行商人すら凍りついていた。


「だれがチビじゃ!このガキが!」


「ガキはてめぇだろうが!」


明らかなる水と油だった。

これは収まりが効かなくなると判断したアゲハが割ってはいる。


「アルフィス!団長に向かってその言葉は使いは失礼です!」


「知るか!そんなもん!」


「……アルフィス?お前がアルフィス・ハートルか」


怒り心頭だったノアはアルフィスの名前を聞いた途端、冷静に戻る。

そして細目でアルフィスを下から上へ舐めるようにして見ていた。


「なんだよ気持ち悪い!」


「お前がセレンから二つ名をもらった男子生徒か。セレンに幾らやったんだ?あいつは金に目がないからな」


「そんな金があるわけねぇだろ!魔人をボコしたら、勝手に名付けられたんだよ!」


「ほう。魔人をか。何人で倒したんだ?十人くらいか?」


その馬鹿にした口調はノア自身のプライドの高さを物語るようだった。

アルフィスの我慢は頂点に達しそうだ。


「一人でだよ!」


「はぁ……?あーはははは!笑えん冗談はやめろ。魔法使いが一人で魔人を倒せるわけないだろうが!」


もっともな話しだった。

魔法使いがアンチマジックを持つ魔人と戦って一人で勝つのは不可能というのはこの世界の常識だ。

そこにアゲハが申し訳なさそうに口を開く。


「あ、あの聖騎士団長殿、今のアルフィスの話は事実です……」


「は……?」


ノアは空いた口が塞がらなかった。

魔法使いが魔人に一人で勝つなんて自分の目で見なければ到底信じられない。

しかしノアは一転して真面目な表情になる。


「なるほど。まさかこんな奴が二つ名を持つことになるとはな……これで魔法使いも聖騎士もあと一人か」


「ん?どういう意味だよそれ」


ノアはその発言に驚く。

隣にいる聖騎士も空いた口が塞がっていない。

アルフィスは、また変なこと言ったかと動揺した。


「お前はなにも知らんで二つ名をもらったのか!?二つ名持ちはシックス・ホルダー候補だ!二つ名持ちが四人揃った時点でトーナメントをやるんだよ!」


「なんだそれは……そんなの聞いてねぇぞ!」


ノアはため息をつき、アゲハも呆気にとられていた。

アルフィスはセレンから"二つ名はいずれ役に立つ"と言われていたが、これでは難が増えてるだけな気がした。


「今、魔法使いも聖騎士も二つ名持ちは三人いる状態だ。それぞれ後一人出れば、その時点で即招集されてトーナメントをやるのさ」


「ちなみに最後に選ばれた者の出身国でおこなわれるんですよ」


アゲハがしっかり補足してくれた。

しかしアルフィスは完全に置いてけぼりだった。


「魔法使いの方はシリウスのじじいが引退したがってるからな。丁度いいじゃないか?」


「誰だそりゃ」


「もう私は驚かんぞ。お前は何も知らんやつと認識した。シリウスはこのセントラルを作った大魔法使いで最強のシックス・ホルダーだ」


アルフィスは衝撃を受けていた。

また強い奴が現れたと。

しかもシックス・ホルダー最強ともなれば完全に王の次であり人類代表で間違いない。


「とにかくセレンの顔には泥を塗るなよ。あれでも同期なんだ。"魔拳のアルフィス"だったか?その名、覚えておくぞ」


そう言ってノアはお付きの聖騎士と共にセントラルの門をくぐって行った。

また強い奴が現れた衝撃で聞き流したていたが、ノアはセレンの同級生だった。


「ちょっと待て、あいつら今何歳なんだ……?」


真顔になるアルフィス。

ノアが20代なのかセレンが10代なのか、アルフィスの頭は完全に混乱していた。

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