開幕へ向かう者たち(1)
久しぶりの学校だったがアルフィス自身はさほど嫌ではなかった。
前の世界では勉強づくし。
それが嫌で登校はするものの、寝てばかりいた。
しかし魔法学校、聖騎士学校では対抗戦が始まる今はそれに向けて訓練期間で授業自体が一切なかった。
アルフィスはこのことを聞いた瞬間、踊って喜んだ。
さらに嬉しいことは"二つ名特典"だった。
二つ名を持っている学生は300組近くいるバディを相手にすることなくシードで16組まで残った中に入れる。
この対抗戦は二週間ほどかけておこなわれ、最後三日間で16組の決闘を組む形だ。
最終日が決勝で閉幕となる。
対抗戦中アルフィス達はほとんど休みのようなものだった。
「セレンが言ってたのはこういうことか!」
そういう訳ではないがアルフィスは大いに喜んだ。
そもそも二つ名を持つ学生なんてアルフィスだけで、この特例も急遽組まれたものだ。
魔人を魔法使い一人で倒すという人間は、この世界では恐らくシックス・ホルダー以外存在しない。
そんな化け物を最初から戦わせるわけにはいかないという学校側の配慮だったのだ。
アルフィスは一日目からもうその自由を堪能していた。
アゲハが未だにアメリアから教えてもらったエンブレムの使い方をマスター出来ずにいたので、ずっと特訓しておりアルフィスは一人だった。
「まぁ、信じて待つしかないわな」
アルフィスは中庭の端にあるベンチに座り日向ぼっこを楽しんでいた。
決してサボっているわけではない、やはり人間には休養も必要なのだ。
「あら、あなた……」
「ん?」
声の先を見ると、金髪巻き髪の聖騎士の学生がいた。
その後ろにはサンドウィッチを食べているまん丸に太った魔法学校生徒が一人だけいた。
「げ、ゴージャス!」
「はぁ?何をおっしゃってるのかわからないのですけど。
前回、会った時は"下級貴族の名前なんて覚えてられない"と言ってきたマルティーナだったが、なぜか今回はしっかり覚えていた。
「下級貴族には興味無いんじゃないのか?」
「魔法使いで魔人を一人で倒した二つ名持ちとなれば、流石にその名は世界に轟きますわよ」
アルフィスは言葉を失っていた。
前世では地区の不良やヤーサンの間では噂が広まっていたが、異世界転生で遂に世界進出を果たしていた。
「マジか……遂に世界が俺を認めたか……」
アルフィスは天を見上げて涙を堪えた。
そんなアルフィスにお構いなくマルティーナは続ける。
「私も水の国の北の別荘へ行った時に魔人と遭遇してしまって一人で戦いましたが、私ですら一人で勝つのは不可能と感じましたわ」
「別荘かぁ……いいなぁ。北ともなれば雪すっげぇんだろうな。久しぶりにスノボーやりたいぜ」
「お父様がいらっしゃらなかったら、私は死んでましたわ」
全く話が噛み合っていないが話が進んでいることに、後ろの男子生徒もキョトンとしながら、時々首を傾げていた。
しかし、アルフィスは強者の匂いを感じマルティーナの父親の話しに食いついた。
「お前の親父強いのか?」
「もちろん。父、リヴォルグ・ローズガーデン。シックス・ホルダーですから」
アルフィスはまたきたかとガッツポーズした。
どのみち水の国へ行く予定なのだから、手合わせできればラッキーだと思ったのだ。
「なぁマル、今度お前ん家、連れてってくれよ!」
「マ、マル?」
友達の家に遊びに行く感覚でアルフィスが無邪気に誘い、それにマルティーナが困惑する。
突然の男子からの誘いで頬を赤らめるが、変なあだ名をつけられていることが気になった。
「ま、まぁ別に構いませんけど。二つ名持ちならお父様も興味を持ちそうですし。ですけど戦いたいということであれば、やめておいたほうがいいと思いますわ」
「はぁ?なんでだよ」
いやいや、それが目的で行くんだから、もちろん戦わせて頂きます精神のアルフィス。
マルティーナはため息をつく。
「お父様はこの世界唯一の魔法剣士。どちらの力も使える宝具を所持していますから。魔法使いも聖騎士もお父様には勝てない」
アルフィスの脳は置いてけぼりだった。
魔法使いは聖騎士には勝てないという世界のはずなのに矛盾してきてる気がした。
「私は魔法使いで聖騎士に勝てるのはお父様しかいらっしゃらないと思っていましたが、あなたやアインが出てきてしまった。まぁ時の流れなのでしょう」
「アイン?誰だそれは?」
「アイン・スペルシア、私の幼馴染ですわ。なよなよしていて頼りない眼鏡小僧のはずだったのですが、あなたの後に聖騎士と決闘して勝っている」
これはまた強いやつの予感とアルフィスは心の中で喜ぶ。
「まぁとにかく来年の長期休みにでも声をかけて頂ければ、案内して差し上げますわ」
「ああ、わかった」
そう言ってマルティーナと後ろにいた男子生徒は中庭を抜け闘技場の方へと向かって行った。
「アイン・スペルシア……」
アルフィスは会ったことも見たこともない、その男子生徒に何か深い因縁を感じた。
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