魔人殺しのセレン
野営地に到着したのはラザン出発から三日目だった。
荷馬車は御者席にノッポとデブが座り、荷台にアルフィスとアゲハが乗っていた。
一つ村を経由して左に逸れ一日進むと、その野営地はあった。
規模的にはかなり大きく、周りには木で柵が張られ、小さい村ほどある野営地だった。
入り口には聖騎士と魔法使いが一組みおり、見張りをしていた。
「お!ここか!」
「かなり大きい野営地ですね」
荷馬車が止まると二人は降りて入り口に向かい、ノッポとデブが乗る荷馬車もその後に続く。
「なんだ、お前達は?」
聖騎士の女性が鋭い目つきで睨む。
魔法使いもかなり警戒している様子だ。
「いきなり訪ねてきて申し訳ありません。こちらにセレスティー家の令嬢がいらっしゃるとお聞きしたのですが」
アゲハがかしこまって尋ねる。
これは事前に打ち合わせしていたことだ、口を開けば災難のもとであるアルフィスには黙っているように言い聞かせていた。
「確かにここにいらっしゃるが、貴様らは何者だ?」
「私達はレイア・セレスティーの友人のアゲハ・クローバルと申します。そっちはアルフィス・ハートル」
「ハートル?あのド田舎の貴族か」
「ここもあんま変わらんだろ」
聖騎士がアルフィスを睨む、アルフィスも負けじとガンを飛ばしていた。
アゲハはアルフィスを
「レイア・セレスティー、ここにいるセレン・セレスティーの弟君の友人なのですが、取り次いでもらえないでしょうか?」
アゲハは丁寧に語ると、聖騎士と魔法使いが顔を見合わせ、魔法使いの方が、ちょっと待ってろと野営地の奥に消えた。
数分すると入る許可が出たのか、アルフィスとアゲハ、ノッポ、デブの四人は野営地の中へと進んだ。
テントは十張りは超えており、聖騎士と魔法使いが数組いることがわかった。
その一番奥の大きいテントの前には聖騎士が二人、入り口に立ちアルフィス達を睨む。
ノッポとデブはぶるぶると震えているが、アルフィスはポケットに手を入れ眠そうな顔であくびしていた。
そのテントの中から一人の女性が出てきた。
「お前らがレイの友人か。レイが友人を作れるようになったとは驚きだ」
ボサボサした真っ赤な長髪で少し黒が混ざる。他の聖騎士とは違い膝丈までの赤いチャイナ服のような服装。
スカートの横部分は両腰まで切れているスリットで露出度が高かった。
上半身には軽めの鎧を
ニヤリと笑っているが、その威圧感は虎でも逃げ出しそうな凄まじいオーラを放っている。
「あんたがセレン・セレスティーか?」
「いかにも私がセレン・セレスティーだ」
アルフィスが睨むが、それを受け流すかのように口元は笑っている。
一方、アゲハはセレンのオーラに圧倒されていた。
「会ったばかりで無粋だが、戦いたいと言ったら、この場でやれるか?」
「ほう。私と戦いたい?そういえばレイの手紙にあったのはお前か」
テントの入り口にいた聖騎士二人は息を呑む。
アルフィスの言動があまりにも信じられず、またセレンがやる気なのも信じられなかったようだ。
「いいぜ。私で良ければやってやる。こっちへ」
そう言うとセレンは野営地の中央へ移動する。
アルフィス含めた四人もセレンについていく。
中央付近には聖騎士、魔法使いが数組いた。
一体何が始まるのかと騒ついていた。
「あんたシックス・ホルダーなんだろ?宝具とかいう武器は使わないのか?」
中央の広い場所に到着し、アルフィスの問いかけセレンが振り向く。
セレンは手ぶらで剣すら持っていなかった。
「魔法使い相手に私の宝具は流石に可哀想だ。手紙で読んだが、お前、素手で戦うんだって?なら私も素手でやるよ」
「マジか」
「ああ、エンブレムも発動しない」
アルフィスは絶句する。
いくらシックス・ホルダーと言えど魔法で強化された肉体相手にエンブレムも使わずに、さらに素手で戦うとは舐められたものだ。
アゲハの時もエンブレムは使われていないが、武器は持っていた。
武器も持たず、エンブレムも使用しないのであれば相手は普通の人間とかわらないではないか。
アルフィスのこめかみには血管が浮き出ていた。
「アゲハ、コイントスを頼む」
「え、ええ……」
アゲハはアルフィスとセレンの間に入る。
そしてコイントスの準備に入った。
二人の距離は10メートルほどある。
「決闘形式か……懐かしいなぁ。聖騎士学校にいた時はよくやったもんだ」
「吠え面かくなよ」
その言葉を聞いたセレンはまたニヤリと笑う。
周りの聖騎士と魔法使い達の緊張感は凄まじいものだった。
そしてアゲハが勢いよくコイントスをする。
コインが地面に落ちた瞬間、アルフィスはすぐさま魔法を発動した。
「複合魔法……!」
同時に足元に赤い魔法陣が展開しすぐ消える。
魔法陣が消えたと同時にアルフィスも姿を消した。
セレンの目の前に現れたアルフィスの右ストレートの顔面狙いだった。
だがセレンの目は完全にアルフィスを見ていた。
アルフィスの動きを捉えていたのだ。
セレンは左の
ドン!と凄まじい音と風圧がセレンの髪を少し揺らしたが、全く動じていない。
アルフィスのパンチは全く効いていなかった。
「なんだ?このへなちょこパンチは……」
セレンも渾身の右ストレートを振り抜いてアルフィスの顔面を殴る。
ズドン!という音と共に数メートル吹っ飛ばされたアルフィスはなんとか足を踏ん張り耐えた。
だがアルフィスの足は震えており、立っているのがやっとだった。
「がは……」
アルフィスはこのパンチを受けてセレン・セレスティーとの差を悟ってしまった。
差を知るのに長時間にわたり打ち合う必要なんてない。
それなりの強者であれば一瞬でわかってしまうものだ。
かろうじて立つアルフィスの姿を見て周りがざわつき始めた。
「隊長の拳を食らって立ってるやつなんて見たことねぇぞ……」
「あいつ魔法使いだろ?……しかもまだ学生とは……」
「魔人殺しの
セレンの顔からも笑みは消え、真剣な表情に変わっていた。
「驚いたな。その若さで、私の拳を受けて立っているとは……末恐ろしいガキだ」
「く、くそ……」
アルフィスの中で色んな感情が渦巻いていた。
宝具もエンブレムも使わないのにこんなに強いのかと。
さらにシックス・ホルダーはこれほど強いのに火の王はもっと強い。
アルフィスは完全にこの世界を舐めていたことを痛感し放心状態だった。
「気にやむことはないさ、私の拳をまともに受けて立ってたやつはお前で二人目だ。お前は強くなる」
その言葉を聞き終えた瞬間、アルフィスは立ったまま気絶した。
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