未知との遭遇
アルフィスが目覚めたのは次の日の昼頃だった。
簡易ベッドが四つ置いてある救護用のテントで
寝ないでノッポとデブが近くで看病してくれていたようだ。
セレンから殴られた顔面は骨が折れていたようだが、ここにいた魔法使いが治癒魔法で治してくれていた。
「……まさか、あんなに強いとは……」
ベッドで横になるアルフィスはまだ意識が
あれだけ強いパンチを食らったのは初めてだ。
「アニキ!目覚めてよかった!」
「死んだかと思いました……」
ノッポとデブが泣いていた。
アルフィスもさすがにここまで、この二人が情に厚いとは思ってなかったからか目頭が熱くなる。
「ダセェとこ見せちまったな……」
「そんなことないっす!」
「シックス・ホルダーと戦うなんて、普通の人間はしないっすよ!男見せてもらいました!」
そう言ってさらに泣き始めたノッポとデブだったが、そこにアゲハの姿が無かった。
「アゲハはどうした?」
「ああ、アネゴならセレン姉さんの任務の手伝いで国境壁まで行きましたよ」
「最近、壁を越えてくる魔獣や魔人が多くて、大変なんですよ!」
魔獣、魔人なんて聞きなれない言葉を聞いて少し考えていた。
「……そいつら強ぇのか?」
この後に及んでもなお強い者との戦闘を望むアルフィスに二人は顔を引き
「魔獣は聖騎士と魔法使いが一組か二組いればなんとかなるかもしれないっすけど魔人は流石に……」
「魔人の強さは魔獣の数倍らしいです。でもセレン姉さんは拳一発で倒しちゃうみたいですよ」
「マジか……」
アルフィスはその魔人ってやつに勝てれば、セレンに少しでも近づけるのかと安易に考えていた。
これは強くなるいい機会だとベッドから起き上がりテントを出た。
そんなアルフィスを見て二人はすぐさま追いかけた。
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国境壁
火の国の隣は土の国だった。
壁の高さは50メートルにも及ぶが、最近は魔獣や魔人が無理やりこの壁を登ってこちらの国に来ていた。
セレンとアゲハは国境壁付近にいた。
後ろには二人の魔法使いがいる。
「実地訓練は初めてか?」
「は、はい。私はまだ一年なので……」
「そうか、確か実地訓練は二年からだったか。まぁ何事も早いに越したことはないさ」
セレンは自分の背より少し長い槍を持っていた。
槍を使う聖騎士は少ないのでアゲハは珍しそうに見るが、その槍は銀色で異様に細く、槍先は竜の牙のように見えた。
そして何のためか持つ部分の所々が刃になっており、使い方を間違えると手を切りそうな形状だった。
アゲハはこれが宝具なのだと直感した。
「学科で習ったと思うが、魔獣と魔人は違う。魔獣はさほど強くはないが、魔人は私でも強いと感じるから相当だ」
「……」
アゲハは一気に緊張感を増し息を呑む。
アゲハ自身、どちらも一度も見たことが無かったからだ。
「これも習ったと思うが魔人には魔法が効かない。エンブレムと同じアンチマジックが常に掛かってる状態だ。だから私がここに配置されてる」
「ど、どういうことでしょうか?」
「あのガキにも言ったが、私の宝具は魔法使いには天敵でね。そして魔人にも。私の宝具、魔竜牙槍ペイル・ベインの能力はこの刃で切られた相手の魔法とスキル、エンブレムを少しの間だけ封印する」
「なるほど、魔人のアンチマジックもスキルなので、それを使えなくするんですね」
「そう。魔法が入るようになれば魔人とはいえども殲滅も容易い」
セレンはニヤリと笑う。
魔法使い二人も臨戦体制だ。
日はちょうど中央に位置し、最も厚い時間と言える。
その中で、壁から黒い何かが這い上がってきているのが見えた。
「魔獣が二匹か……今日は魔人はいないようだな。我々聖騎士二人で十分だ」
「魔獣……なんと禍々しい……」
「気を抜くなよ。魔人ほどでは無いが、魔獣が相手でも聖騎士や魔法使いの死人は出てる」
そう言うとセレンは魔獣に向かって歩き始めた。
アゲハも降りてきた魔獣二匹を見た瞬間、刀を構え臨戦体制に入る。
二匹の魔獣は犬の形をしていた。
普通の犬の数倍はあろうかという大きさで、その体は人間と大差がない。
一匹の魔獣がセレンめがけて走り出し、首へ噛みつこうとしていた。
それは凄まじいスピードだったが、セレンは至って冷静だった。
「ふん!!」
セレンが思い切り槍を振り上げ、魔獣の顎に突き刺す、その勢いのまま槍は半円を描き、魔獣の頭を地面に叩きつけた。
ズドンという凄まじい音と共に地面四方に亀裂が入る。
魔獣はその一撃で戦闘不能になった。
すぐさまもう一匹がアゲハの首元を狙いに猛スピードで突進し大きく口を開けた。
「エンブレム!」
光を放った手の甲。
それと同時にアゲハの首元へ来た魔獣の顎に、抜刀し柄頭を勢いよく当て納刀する。
「天覇一刀流・雷打!」
顎が上がり宙を見る魔獣に対して抜刀の構えを取る。
そして一気にガラ空きの魔獣の首へ抜刀する。
魔獣の首は胴と離れ地面に転がった。
「ほう。最初にしては上出来だな」
「い、いえ、それほどでも……」
後ろに待機している魔法使い達も"おお!"と歓声を上げていた。
アゲハは褒められてまんざらでもない様子だ。
「カウンター系か。だが見たことがない剣と剣術だ。剣技からしても達人級の剣士から教わってるな。師匠は誰だ?」
「この剣は"カタナ"と言います。私の師はカゲヤマリュウイチ先生です。火の国の出身だと思っていましたが、ご存じないでしょうか?」
アゲハはもしここで手がかりを掴めればと思っていた。
アルフィスが言っていた、この"カタナ"がこの国の武器なのであれば先生もこの国の出身で間違いは無い。
「聞き慣れない名前だな。お前達わかるか?」
魔法使い二人は首を横に振る。
セレンは少し考え事をしていた。
「この"カタナ"という剣もアルフィスしか知らなかったんです。アルフィスが自分の故郷の武器だと」
「なるほど……まさかあのガキ……」
セレンがそう言いかけた時、遠くから聖騎士が慌てて駆けつけて来た。
「た、隊長!大変です!」
アゲハとセレンは聖騎士の方を見た。
その聖騎士は野営地の門番だった。
聖騎士の慌てぶりは常軌を逸していた。
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セレン部隊の野営地
アルフィスは野営地から出ようとしていた。
ノッポとデブが後ろから追うが、まさか国境壁まで行くのかと冷や汗をかいていた。
「ア、アニキ、危険です!」
「もし魔獣とか魔人と出くわしたらどうなるか!」
その慌てぶりは相当なものだ。
なにせ二人は魔法はおろかカツアゲもろくにできない、ただの運送屋なのだから。
「それが目的で行くんだよ」
野営地はほとんど聖騎士も魔法使いも出払っているのは三人だけだ。
もし万が一にも、魔獣や魔人と遭遇しようものなら大変だ。
「アニキ!休んでましょうよ!」
「まだ傷が治りきってないっすよ!」
二人は早足でアルフィスを追う。
そして野営地の出入り口へ来た時だった。
全く止まる気配のなかったアルフィスが立ち止まり、出入り口から数メートル先を凝視していた。
「……」
「ア、アニキどうしたんすか?」
アルフィスの目の先には異様に空間が黒く歪んだ場所があった。
姿は人間のような形をしており、のそのそと近づいてきた。
「なんだ、あいつは」
アルフィスがガンを飛ばすが、黒い人型のなにかは動じずそのまま野営地の方へ向かってくる。
ノッポとデブが足を震わせ泣き出した。
「ま、魔人だ……」
「終わりだぁ……」
二人の悲痛な声を尻目にアルフィスの心は高鳴っていた。
こんなに早く腕試しができるとは。
「憂さ晴らしにはもってこいだな……生きて帰れると思うなよ」
歩み止まらぬ魔人に対して、アルフィスも魔人の方へゆっくり歩いて向かう。
しかし、その戦いはあまりにも無謀すぎる戦いだった。
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