第21話 似たもの同士

「どうしようか、ベル」

「いや、あなたのお兄さんのわがままでしょ。だったら」

「元を辿れば、あなたの親友のわがままだよ」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 後ろでお互いを見つめ合い、慰め合うようにお互いの肩をぽんぽんと叩く二人。

「おお〜ジャパニーズ百合ですね〜」

「「いや、違うから!!」」

 ロザリーのツッコミに同時に返す。

 本当によく似た二人だと、ロザリーは微笑む。そして何より、凄く葉月が人間っぽい。

「仕方ない、出来るだけ考えながら、同時進行して、二人に諦めてもらう言葉も考えよう」

 果たして、どっちの方が大変なのだろうか。二人はあえて口に出さない。

 鈴華はメガネをクイっとあげる。

「ようは大事にせずに、女の子の方法を助ける方法を探せと?」

「そうだね」

「簡単です!ジャパニーズ口封じ。組織滅亡」

 いや、大事にはせずにって、言ったじゃないか。

「ロザリー。あなたの考えはいつも無茶苦茶なのよ」

 正面突破。玉砕覚悟での特攻。

 彼女の猪突猛進の性格には助けられたこともあったが、頭を抱えた方が遥かに大きかった。

 正反対の性格のミモザと対立することも多く、その度に葉月が仲裁していた。

「事故に見せかけて、女の子が勝手に逃亡したってことにすれば?」

「恐らく女の子にも探知魔法が施されていると思う。わたしたちがいつでもビナーの場所がわかるみたいに」

 なるほど。ようは取り外し不可能な発信機ということかと、鈴華は理解する。

「つまり、少女には死んでもらう‥‥‥‥ねぇ、葉月たちの戦闘力って、どれくらいなの?」

 急にゲームみたいなことを聞かれて、首を傾げる。

「アンを誘拐?した奴ら襲える?」

 鈴華の言いたいことはわかった。

「野党を装えと?」

 さすが異世界帰り。言い方が古臭い。

「まぁ、そんなところ。そこでどさくさに紛れて、少女を殺したふりをする」

「探知魔法はどうしようか?」

「ファ、ファンタジー世界の知識が正しいかどうかはわからないけど、より強い魔法を被せれば」

 ようは探知魔法を更に上回る同じ系統の魔法を被せれば、その魔法の効力は消えてしまうのではないかという、思いっきり想像上の知識だ。

「確かに、そういう類の魔法もありますね〜」

「だったら」

「残念ながら、私たちのパーティに使える人はいません。ビナーがいましたから」

 彼女の能力は言ってしまえば、パーティーメンバーの通信と居場所の把握。彼女一人いれば、スマホの電話機能と居場所情報をお互いに共有できるのだ。しかも圏外も電波状況にも影響されない。

たとえ、どれだけ離れていても。

だが、その有用性に気づく人は向こうの世界ではほとんどいなかった。

情報を制したものが戦いを制する。

異世界ではその考えがまだまだ希薄だったし、それに葉月じゃなければ、その能力には気づけなかったのだ。

「今は、そんなことよりも作戦立てないと。

 このままじゃ私がお兄ぃを、ベルが如月さんを必死で説得するという方法しか残らないよ」

 できないことはないのだが、時間はかかりそうだし、信頼関係に傷を残すことになり、今後の活動に大きく支障をきたしてしまうかもしれない。

 しばらく車の中を沈黙が包んでいたが、鈴華が口を開いた。

「ねぇ、さりげなく流してたけど、敵の中にも異世界帰りの人がいるってことだよね?能力使えるってことは」

「え?まぁ、そうかな。雇われの可能性は高いし、脅迫されているのかもしれないけど」

 前にも言ったが異世界に渡れるのは十八歳まで。つまり能力を使っているのは子供なのだ。

「しかも一度、挑戦をして挫折した人たちだから。使えるというより、使わないという方が正しい言い方ね」

 記憶というものは厄介で、なんでもかんでも結びつけてしまう。能力一つ使うだけで、一緒に思い出したくない記憶が想起されるために。

 だから、微々たる力があっても使わないのだ。使えないのだ。たった一度使っただけで、精神を壊したという事例も報告されているぐらいに、異世界帰りの人たちにとって、能力とは諸刃の剣なのだ。

「ということは、わたしたちが手を打ったところで、それに対抗してくることは少ないってことだよね?」

「まぁ、恐らくは」

「‥‥‥ねぇ、葉月。確認とそれとお願いがあるんだけど」

 そう言って、ニコリと微笑んだ鈴華を見て、葉月は『あ、身震いって、こういうこというんだ』と新鮮な感想を抱いた。

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