第12話 最悪な目覚まし

土曜日の朝。昨日あんなことがあったのだから、一日中惰眠を貪っていたかった蓮だったが、息苦しさで目を覚ました。

 能力の連発に自分にしては勤勉に役目を全うしたものだから、疲れから金縛りのような類にかかったのだろうかと目を開けたが、息苦しいのも至極当然で、幼女が自分のお腹の上に座り込んで、クッキーを食べているからだ。

「‥‥‥何をしている」

「お菓子を食べている」

 当然そんなことを聞きたい訳ではないのだが、彼女が別にすっとぼけてそんなことを言っている訳ではないことがよくわかっているので、蓮は溜息と共に正常なコミュニケーションをとることを諦める。

「とりあえず、退いてくれないか?」

「じゃあ、少しずれて」

 何故にこいつのためにベッドの半分を譲らないといけないのだ。

「地べたに座ればいいだろう」

「この部屋クッションない」

 友達のいないボッチの部屋にそんなものあるワケがない。住み始めてまだ一ヶ月も経ってないというのだから。この部屋には、いやこの家には必要最低限のものしかない。

「だから、ここに座っている」

 人の腹の上をクッションがわりにするな。

「とにかく退いてくれ。いくらお前がちっこいからって、重い」

「起きるなら、退く」

「‥‥‥‥‥‥」

 枕元にあるスマホを見る。朝の八時。後、十二時間は余裕で寝られる。

「無理だ。さっさと帰れ」

「グラビィティ」

 リタがそう呟いた瞬間、彼女の体重が一気に重くなる。

「うぐっ」

「起きる?」

 可愛らしく首を傾げているが、今蓮の腹の上にのるリタの体重はおよそ三五キロ。充分重いのだが、この能力はマックス値までいくと意図も簡単に床が抜けることを知っている。しかし。

「断る」

 それでも起きたくない。

 しかし当然、彼女の体重は重くなる。五十キロ。軽めの成人男性が今蓮の上に乗っている。だが。

「断る」

 それでも尚彼は睡眠をとる。もはや安眠なんてもの望めないというのに。

 それでも意地を張るのはここで譲ったら余計面倒な要求を押し付けられると確信しているからだ。

「うぐっ」

 一気に体重が重くなる。しかも本来柔らかいはずの幼女のお尻がまるで岩のようにゴツゴツした感覚になる。真綿を絞めるように重くなるリタの体重。

 常識的に考えれば、蓮の生命の危機やベッドが潰れるか、とにかく床が抜けるようになるまでは流石にやめるはずなのだが、彼は知っているこの幼女に常識は通用しない。

「わかった。ギブアップ!!」

 流石に一生床に臥すことになるとか、何より借家のこの家を傷つけたりしたら、葉月に何をされるかわかったものじゃない。

「うん」

 リタは頷き、能力を解いてようやく蓮は解放される。もし、ここでもう一度寝たら、どんな暴挙に出るかわかったものじゃないので、二度寝はできないのでゆっくり起き上がる。節々が痛い。

「いたたた。それでお前は何しに来たの?」

「葉月に会いにきた。でも、葉月昼まで用事があるから、それまで遊んでもらえって」

 まるで姪が遊びに来たようなシュチュエーションにゲンナリする。

「じゃあ、昼になったらまた来いよ」

「お腹すいた」

「俺にたかるつもりかよ」

 ただでさえ、毎日のように面倒な女の相手をしているというのに。

「ああ~俺の平穏ライフはいつになったらくるんだよ」

 あの日、葉月に連行されたのが、そもそもの始まりだった。

 でも、そんなこと今後悔しても仕方ないので、何かを抱えるたように重い体を、蓮はベッドから引き離す。

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