第6話 神隠し

「やっぱり、そう簡単には見つからないか」

 アンを家に送り届け、家に着いてからずっと、かれこれ三時間鈴鹿はパソコンの前でネットサーフィンをして、藤堂兄妹のことを調べているのだが、芳しい結果は出ないでいた。

「あの兄妹が普通じゃないのは確かなんだよね〜」

 何かしらの事情を抱えて、アンに接触してきているのは確かだ。そして何度も彼女を救ってくれているのも事実。しかも文字通り身を挺して。

「いや、藤堂君の方は嫌々みたいだけど」

 いやそんなことはこの際どうでもいいのだ。問題なのは得体の知れないということだ。そこに善も悪も関係ない。

 人間何より怖いのは知らないことだ。

 鈴華の好きな言葉の一つ。と言ってもラノベからの受け売りなのだが。

 だから彼女は知ろうとすることに労力を厭わない。

 不思議に思ったこと、疑問に思ったこと、とにかく調べる。幸いネットで簡単に調べられて、ある程度の蔵書もタダで閲覧、借りられる時代。そこまで労力をかけなくても、調べられる。

 そして今回もまた、一介の高校生でも調べられる範囲で調べるつもりだった。

 正直、ここまで調べて一つも情報を得られなかったら、それは知ることに身の丈に合わないことだと諦めることもあるのだが、今回は決して引くことなく一心不乱に調べ続けた。

 親友に大きく関わることだと言うこともあるのだが何より、

「私の血がひくなって叫んでいるんだよね〜」

 ファンタジーオタクの血が。

 簡単に見つかるとは思っていないが、いつの間にか時計は今日の終わりを告げて、次の日を示した時計を見ると、徒労に終わったこの時間が疲れとして、押し寄せてきた。

「あ〜」

 ストレッチするように、凝った肩を大きく回し、眼鏡を外し乾いた目に目薬を刺して、何回か瞬きをした。

「やっぱりそう簡単に見つからないよね」

 とはいえ真正面から聞いたところで、絶対はぐらかされるだろうし、あの不思議な力を映像に残して、突きつけたところで、下手したらあの奇妙な能力で記憶を消されるかもしれない。

 じゃあ、どうするか?

 答えは一つ、信頼を得ること?いや違う。

自分を売り込むこと。価値をつけること。

 そのためにはまず、相手を知ること。

 椅子に深く腰掛け、天井を見上げ、口を半開きにし、ボ〜っと天井を見上げる。

「もし、本物だったら最高なのにな〜」

 彼女がライトノベルにどっぷりハマったのも、こうやって常識外れのことをあっさりと事実のように自分の中に落とし込めることができるようになったのも、とある小説と出会ったからだ。

 それは投稿サイトに公開されていた異世界ファンタジー。異世界に転生された主人公が仲間と共に魔王に立ち向かうという、今や王道中の王道と呼べるもので、その小説と出会った三年前もそこまで珍しいものじゃなかった。

 だが、読んでいて妙に生々しかったのだ。

 多種族との交流、訪れる様々な村や町、危険が支配するダンジョン。何よりも魔王軍との戦闘シーン。

 そのどれもがリアリティがあって、読んだ瞬間にそのまま鈴華もその場に居合わせて、一緒に異世界を旅したそんな気持ちになったのだ。

 レビューも悪くなかったし、鈴華のように引き込まれた人も多かった。なのに、その小説は突如投稿サイトから姿を消した。しかも旅の途中で。

 当然他の投稿サイトや出版されてないのかを隈なく調べたが見つけることもできなくて、いつの間にか簡単なあらすじと、衝撃を受けたことは覚えているのだが、詳細もほとんど忘れてしまい、タイトルすらも思い出せないでいることに、自分のことなのにかなりショックを受けた。

 だが、内容の端々はまだ覚えていて、確かにその小説が存在したのは紛れもない真実で疑ったことはない。

「そういえば、確かあの中に」

 異世界転生したその先の世界で、数年前に突然失踪したクラスメイトと再開したという描写があったことを不意に思い出して、

『藤堂 失踪』

 しかしヒットはなかった。なら。

『藤堂 神隠し』

 ヒットはしなかった。だが、不意に数年前に書かれたと思われるとある個人ブログが目に止まった。

『クラスで人気者の〇〇さんが急に学校に来なくなった。なのに、学校の先生もみんなも誰もが彼女のことを覚えていなくて、不思議に思い彼女の家に行った。だけど、彼女の両親も全く彼女のことを知らなくて、以前に一度だけ入れさせてもらった部屋は確かにあったのだが、そこは空き部屋になっていた。

 まるで神隠しにあったように、彼女は忽然と姿を消しました』

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