第5話 次の一手
「流石に大胆に動きすぎ。ミモザに怒られる」
幼女こと、リタは葉月にそう言いながら、先程コンビニで買ったビスケットを、まるでリスのように小さな口で、カリカリ。それでも物凄いペースで先ほど買ったのに袋の中は半分以上ない。
「ふぁいじょうぶ、ふぁいじょうぶ」
葉月の方も、一緒に買った肉まんを幸せそうに口いっぱいに頬張りながらそう答えた。
口の中をほうじ茶で流し込んでから再び口を開いた。
「来る前にも言ったけど、こっちの世界の常識じゃ、私たちの力に理屈をつけることができないから。
だから多少派手にやったところで、問題ないわよ。むしろあそこで少しでも躊躇っていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
私たちの目的の最優先事項はあの子の命を守ること。そのためなら、多少派手に動くこともやむなしよ」
日はすっかり暮れてしまい、すっかり人も車も少なくなった裏路地。隣を歩く葉月の顔を見上げるリタ。だが、暗がりでよく見えないが、なんとなくわかる。きっと笑っていると。
「良い、リタ。私たちは絶対この目的を達成しないといけないの」
確かにスマホが発展したこの時代。誰もがカメラもビデオカメラも常に持ち歩き、ボタン一つで世界中に情報が拡散できる。こんな目立つことをしていたら、一攫千金を狙って、面白半分に自分達を調べる輩が出ないという保証はないし、下手したら敵にも居場所を知られるリスクもある。
「それでも、突き進むわよ」
街頭に照らされ、リタの目に映った葉月の顔は一緒に旅をしたあの時と一緒。
常に真っ直ぐ、自分達の進む道を見据え、落ちこぼれの自分達でも歩める道を照らしてくれた。そしてどんな苦難が立ちはだかろうとも、彼女は笑っていた。
「わかった。リタ頑張る」
目の色も口の形も変わらない。他の人から見れば無表情でも葉月には、リタが言葉通りに意識を変えたことがわかり、その頭を何度か撫でる。
「よろしくね」
「うん。蓮、役に立たないから」
「だね」
苦笑いを浮かべて、コンビニに寄ると言ったら「俺は帰る!」と凍えながら、早々に帰った兄を思い出しながら脳裏に二つの懸念を浮かべる。
一つはまぁ、仲良くする必要がないのでそこまで気にする必要はないし、いざって時には無理矢理にでも言うことを聞かせるつもりなので、そこまで問題はない。
いや、問題はあるのだが、それは今解決出来る問題でも、考える問題でもないので、脇に置いとく。
「問題はもう一つだよね」
妙に勘が良い。しかも最も厄介なことが葉月と同じで、あっさりと常識を捨てられる人。
この手のタイプは下手な言い訳は効かないし、上手く誘導ができない。
「はぁ〜みんなお兄ぃみたいな頭の良さだったら楽なのにな〜」
うんざりしたように溜め息を吐く葉月だったが、
「なんか楽しそうだね」
その顔が笑っているのを気配でわかる以上に葉月は満面の笑みだった。
「まぁね。ずっと人ならざるものたちと対立してきたし」
人間とのばかし合いは常に政治や法律、最悪国家が絡んできた。とても窮屈。だけど、今回の相手は純粋なる知的好奇心。最も厄介で、最も綺麗な感情だ。
スマホを取り出して、去り際に隠し撮りをした写真を眺める。
「西九条鈴華ちゃんか。良いお友達になれそう」
スマホの画面に照らされた葉月の顔を見て、リタはげんなりする。
『やぁ、リタ。葉月の魔力が急に上昇したんだけど、何かあったかい?』
頭の中に響いたその声に、葉月に聞かれないように答える。
「また、葉月の悪い癖が出てる」
『ああ、なるほど』
常に最善手を打ち続ける葉月だが、とある感情が彼女の中を支配した時、それをあっさりと切り捨てて、どこまでも遠回りをすることだって辞さないことがある。
『楽しそうなおもちゃでも見つけた?』
尋ねられたリタは肯定も否定もしなかった。だが、それが全ての答えだった。
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