第58話 幕間・六星最高最強至高超絶激烈奇跡のワタクシ

「おーっほっほっほ、全速前進粉砕突撃大喝采ですわァ~! ついにこのワタクシの初陣! そして伝説の幕開けなのですわ~!」


 帝都の大正門を攻撃している魔王軍の後方で、将であるセフレーナは高笑いしていた。


「そーれにしても、歩兵の下僕の皆さんはまだ門を開けられないんですのぉ? この黄金に輝くセフレーナ魔界女騎士団の出番はまだですのぉ? 『ナオホ副長』状況報告なさい!」


 一方で、未だに帝都の外で待機の状況に少しずつ苛立っては来ていた。



「将軍。流石に人類の中でも最大級の国家である帝国帝都の正門。そう簡単に破れるものではありません。魔法障壁も施されておりますので、半端な魔法では弾かれます。上空も同じように魔法障壁があり、グリフォン部隊やガーゴイル部隊などは手を焼いています」


「むきー! それが何だというんですの! この軍はワタクシが率いているんですの! つ・ま・り・遮る壁を簡単に蹴散らせない者たちが悪いんですわ!」


「申し訳ありません。正門も魔人兵たちが総出でぶつかっていますが、そう簡単には……しかし、幸い事前情報で帝都に駐留している兵の数やその力、さらには援軍がかけつける時間などは分かっております。まだ時間的にも余裕がありますので、じっくりやって――――」


「何を言ってますの! そ~んな地味ィ~なのはワタクシらしくありませんわ! 華麗に優雅に秒殺圧勝をしてこそ、ワタクシにふさわしい初陣と伝説の幕開けになるのですわァ!」



 セフレーナに片膝ついて状況報告をする女騎士。高身長のショートカットの美形で、男装している令嬢のようにスラリと、そして中世的な容姿に、魔界では女たちですら惚れてしまうほどの人気を誇っていた。

 彼女もまた、女であろうと騎士としてこの戦国の世で名を馳せたいと思っていたが、セフレーナの副長に任命されたことで、これまで長い間戦の経験がほとんどなく、だからこそこの初陣には燃えている一方で、慎重にならねばならないと緊張もしていた。

 それゆえ、手堅く教科書通りの攻め方をしていたのだが、それをセフレーナは良しとしなかった。



「ま~ったく、魔王様から渡された雑兵の方々はぜ~んぜん使い物になりませんわね。せっかく下賤な兵たちにふさわしい力仕事をさせてあげていますのに、これなら我が最強のセフレーナ魔界女騎士団だけの方が良かったですわ~!」


「い、いえいえ、我々はあくまで部隊であり、軍ではありませんので……数千の兵や、ましてや国を堕とすのは流石に……それにあの大正門はかなりの強固で―――しかし、もう間もなくです! 門さえ破れば、あとは我らが大暴れするだけです!」


「ですわ~、まぁ、仕方ありませんわね。下僕さんたちのお仕事を待って差し上げますわ~オーッホッホッホ、寛大なワタクシですわ~! そして、準備も!」


 

 そして、そこで扇で己を仰ぎながら、セフレーナが再び笑った。


「さア、ワタクシの最強愛馬の『キューピッド』! そろそろ出番が来ますわ~!」

「ヒヒヒーーーン!!!!


 そして、セフレーナがそう呼ぶと、セフレーナが居る本陣の裏から、全身真っ黒い体毛に覆われた黒い翼の馬の怪物が現れた。



「さぁ、キューピッド、ワタクシたちの伝説の幕開けですわ~。あなたも魔界ニンジン欲しければ、頑張るのですわ~」


「ヒヒーン♪」


「こら、顔を舐めるのはやめなさいといつも言っていますわ、キューピッド! いくらあなたが雌馬とはいえ、キッスをすれば結婚で、コウノトリさんも勘違いして子供を持ってくるかもしれませんのよ?」


「しゅ~ん」


「だからキッスはダメですわ! ワタクシは心から愛する人と出会ったその時にこそ、この唇を捧げて結婚し、コウノトリさんから子供を授かるのですわ~♥」



 自身の騎獣と戯れてそのような会話をするセフレーナに、ナオホは頭を抱えた。


(やれやれ、将軍は箱入りすぎるゆえに本当にキスで結婚で子供ができると思っていらっしゃるからな……戦経験も実績も明晰な頭脳もあるわけでもない世間知らずなお方……しかし、それでも六星……万万が一この方の身に何かあれば私の首も飛ぶ……私を気を引き締め……はぁ……サイインと同じように転籍を希望するか? しかし、六星の副官というポストを捨てるのも……)


 と、心の中で溜息を吐く。

 すると……


「相変わらず可愛いねぇ~、あたいらの姫は~」

「っ、サイイン……耳元でしゃべるな!」

「悪いっすねぇ~副長さん」


 色々と悩んでいたナオホにコッソリ近づいて耳打ちするのは、同じセフレーナの騎士団所属のサキュバスのサイインだった。


「……サイイン……お前は本当にこの戦が終われば転籍を?」

「ええ、そうっすよ? 将軍にはまだ言ってないっすけど」

「……せっかくようやく戦に出られるようになったというのに」

「悪いっすけど、それでもあたいはもう騎士団の空気に耐えられないんっすよ。どいつもこいつも箱入りチックで猥談にも乗ってこないし、将軍に至ってはスケベなことを何も知らない無垢な方。かわいいっすけど、これならオークたちと普段から下品に会話したりヤリまくったり、襲った街を凌辱したりの方が、あたいの求めているもんでしてねぇ」

「……下品な奴め」

「でも、副長は副長で生真面目だけど、もっと熱く戦える軍の方が良かったすよねぇ? たとえば、今まさに最前線で帝国のブドーやらエンゴウやらレツカやらが戦ってる戦場の方が。だから本当は転籍したいって思ってんじゃないすかぁ?」

「…………」


 サイインの言葉に否定できないナオホであった。

 いずれにせよ、今回の戦が無事終わり、任務を達成できたということでセフレーナの軍が今後どうなるか……それによって今後の身の振り方も考えようとナオホは思っていた。



「オーッホッホッホ、さぁ、行きますわよぉ、キューピッド! こら、また舐め……キッスは結婚相手のみでないとしないとワタクシは言っているではありませんのぉ!」


「しゅ~ん」


「さぁ、セフレーナ魔界女騎士団全員集合ですわぁ!!!!」


「「「「「大将軍、今ここに!!!!」」」」」



 しかし、このとき、この場にいる誰もが想像もしていなかった。




 もうすでに、セフレーナ、ナオホ、サイインも、そして他の女騎士団たちも、今日この日から己の人生が大幅に変わってしまうことになることを。






――あとがき――

果たして彼女たちの未来はいかに!?


また、上品版のノクターンの方も別途宜しくお願い致します。


https://novel18.syosetu.com/n0125ia/

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