第59話 開戦

「ダメです、もう正門が持ちません!」

「防空防壁も連動し、こ、このままでは全ての障壁が破壊されます!」

「まずいぞぉ! 何としても持ちこたえ、そして全兵を正門前へ集め、魔王軍の侵入を何としても防ぐのだ!」

「や、やばい、殺されちまう……い、今のうちに家族だけでも……」

「魔人部隊……ガーゴイル……ゴブリン……うぅ、それにこれらの大軍を率いているのは、おそらく大将軍級……ひィィイイ!」


 魔王軍の侵入を防いでいた正門や上空の結界も間もなく崩れる。

 そこに集っている兵たちに「来るなら来い」、「返り討ちにしてやる」、と鼻息荒くする者はいない。

 誰もが壊れかけの大正門をただ祈るようにしか見ていない。

 だからこのままじゃ簡単に総崩れになるのは目に見えている。前回もそうだったように。


「ちょっとぉ、大丈夫なの? これ……」

「彼らにも、もう少し勇気があるのならば……」

「でも、これが戦争の恐怖なのかもしれないね」


 そんな一同を、先に駆け付けたチオ、ヴァブミィ、ネメスが神妙な顔を浮かべる。

 俺も三人に頷き、だからこそ俺らがやらなきゃならないと改めて思わされる。



「城壁の上でマギナが準備し、ここぞというところでドカンってやってくれる……が、その前に俺たちでここで時間を稼がねえとな」


「「「了解!」」」



 それにしても、前回は避難所で隠れていた俺が、二度目は奇跡の黄金世代であるネメス、チオ、ヴァブミィとこうして肩を並べることになるとはな。

 おまけに前回と関係も大幅に変わってるしな。

 でもだからこそ、同じ結果にはさせねえ。

 勝利は変えず、その上で爪痕は残させない。

 でも、そのためには、もうちっと他の連中にも―――



「そう、まさに総力戦。吾輩も命を懸けねばな……未来のためにも」


「「「「えっ!!??」」」」


「「「「「うぇええっ!? え、え!?」」」」」



 その時だった。

 これには俺たちも驚いた。

 なんとこの最前線の場に、帯剣して甲冑に身を纏った皇帝陛下が直々に現れているからだ。


「なっ、こ、皇帝陛下!?」

「ばかな、何故陛下がここに!?」

「陛下、ここは危険です! 今すぐ避難を!」

「おい、近衛兵たちは何をしている! よりにもよってこの場に陛下を……」


 そう、今にも大正門が崩壊し、魔族の大軍が流れ込むのも時間の問題の中、まさかこの大帝国を統べる皇帝自らがこの最前線に顔を出したのだ。

 さっきまで怯えて混乱していた兵たちも更にパニックになっている。

 だが、陛下は真っすぐな目で……



「逃げるものか。この国に住む全ての民のため、更には未来を担う子供たちのためにも! この国を守護するために戦う勇敢なるそなた等と共に戦うため、吾輩は来たのだ!」


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


「吾輩も仲間に入れ、そして戦わせてくれ! 吾輩の宝であり誇りである、戦士たちよ!」



 驚いた。前回はこんなことはなかったと思う。

 確か前回は、トワレが頑なに前線へ飛び出し、陛下は避難した。

 国を担う皇帝と姫の両方が何かあってはならないとし、たしかトワレが陛下を説得して指揮官として戦場へ出た。

 だが、今回は違う。

 トワレが避難し、代わりに陛下が前へ出た。

 そしてそれは……



「「「「「うぉおおおおお、陛下と共にィいいいいいい!!!!!」」」」」



 怯えていた兵たちの戦意を上げるのには十分すぎる効果だった。


「陛下……」

「ふん、この戦で勇敢な学生たちまで命を懸けると言っておるのだ。吾輩が逃げてはおれぬわぁ! っと、しかしハビリ、お前たちはまずい状況になればすぐに退避せよ。トワレを未亡人にしたくないのでな」

「ははは……」


 と、ヤル気満々の様子の陛下に笑っちまった。

 なんか俺、ちょっと初めて陛下のことが好きになったかもな。

 俺もアガる。

 そして……



「子羊共ぉぉ、そこをどけええぇぇええええええ!!!!」


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 こっちも間に合った。


「な、なんだこいつら?」

「え、さ、さぁ、見ない顔……新兵か?」

「いや、ま、待て、見ろ! アレは貴族の子たち……ん? いや、面構えが……」

「ほ、本当だ、ってか……学生!?」

「なんか、物々しい空気だ……いったい……」

「おい、そこのお前たち、ここで何をしている! 非戦闘員は早く避難所へ―――」


 現れたのは数百人の悪魔たち。

 帝国を陥落させに来た大軍相手には数の上では話にならないかもしれない。

 しかし、戦う面構えでこの場に集った俺たちに、一切の怯えも恐怖もない。

 ソードを先頭に、地獄を潜り抜けた面々が並び、崩壊寸前の大正門を前にし……



「貴様らぁ! ついにこの時が来た! 貴様らが蛆虫から戦士となり、そして兵器となる瞬間! 滅ぶか、殺すかの二者択一! 貴様らの選択はなんだぁああああ!!!!」


「「「「うぉぉおおおお!!!! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ!」」」」


「貴様らは戦いに来たのか!? 倒しに来たのか!?」


「「「「「コロセ! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ!」」」」


「ならば殺せぇ!」


「「「「ウーラーッッ!!!!」」」」


「この絢爛豪華な帝都の大地を魔族のクソどもの血肉に染め上げ蹂躙しろぉおおおお!!!!」


「「「「ウーラーッッ!!!!」」」」


「敵は魔王軍! 大魔王だろうと六星だろうと、全員まとめて――――――」


「「「「かかってこいやあああああぁぁぁぁあああ!!!!!」」」」」



 吹き荒れ、そして爆発する圧倒的な戦意を超える殺意。

 その強烈な空気にその場にいた兵たちは腰抜かしそうになりながら絶句していた。


「な、え? ちょ……先輩、何なのよコレ! み、みんな、ってか、私のクラスメートとかもいるけど、どうなってんの!? いや、顔つきまで変わってんだけど!?」

「何という凶暴で強烈な……しかも……皆……強いです!」

「あはははは、チオさんとミィさんがそう思うのは無理ありませんね。でも、そういうことです。僕たちはソルジャーになったんですよ」


 これまで登校拒否していたために、皆の変わりようにチオとヴァブミィも驚き隠せず唖然としてやがる。


「な、なんだ……こ、こいつらは……」

「わ、分かりません……隊長……彼らは一緒に……戦うのでしょうか?」

「ぬぅ……だが、この気迫……そして溢れる魔力は……!」


 そして兵たちもこの謎の軍団をよく分からず混乱している様子。

 だが、これで整った。



「ッ、大正門が崩壊します! 大正門崩壊と同時に連動している防空障壁も! 総員、防衛準備!!!!」


「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」



 そして、ついに始まる。

 巨大な大正門に亀裂が走り、そして大きな穴を開け……



「「「「「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」」


「行けぇええ、突破せよぉ!」


「おお、暴れろぉお! 殺せぇぇええ!!!」



 武装した暗黒の甲冑兵たちが一斉に雪崩れ込んできて―――



「蒼炎ッッ!!」


「大魔螺旋ッ!!」


「ジェノサイドストラッシュッッ!!」



 俺、ソード、ネメスが真っ向から強烈な一撃を放って飛び込んできた数百人を一瞬で吹き飛ばした。



「さぁ、開戦だッ!!」





――あとがき――

ノクターンノベルズを読んで、またこっちを読んでいる方……コレ……一応同じ作品ですよ?

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