第四章 新時代

第57話 集え

「大変だー! 魔王軍が、魔族の大軍が攻めてきたぞォ―!」

「そんなぁ! 王子も総司令もレツカもいないのに……」

「聞いてねえよぉ、そんなのぉ! お、俺、俺たちだけでどうやって……」

「と、とにかく戦える兵は今すぐ武装し、集結しろ!」

「そんな、た、戦うのか? 戦争なのか? そ、そんな……う、うう」


 戦の炎が既に上がっている。

 固く閉ざした帝都の大正門から轟音が響き渡っている。


「お父様!」

「おぉ、トワレ! 姿が無く心配であったが良かった!」


 マギナの転移魔法で帝都の宮殿へ飛んだ俺たち。

 慌ただしく動く城の兵たちを尻目に、トワレの姿に安堵した皇帝陛下がトワレを力いっぱい抱きしめた。


「ハビリも一緒であり何よりだ。とはいえ、このような事態になってしまったが……」


 こうなることは分かっていた。

 王子や親父や兄貴たち、帝国の大戦力が遠征に行ったときからな。

 そして前回は残存戦力のみで魔王軍と交戦。

 ネメスの覚醒もあり、何とか撃退できたが……


「うん、でも大丈夫だよ、お父様! この国にはまだまだ頼もしい人たちがいっぱいいるんだから、ねっ、ハビリ!」


 その戦いでトワレを失った。

 もうそんなことは……



「その通りだとも」



 前回、俺は非戦闘員としてさっさと帝都の住民たちと一緒に避難所へ逃げていた。

 だけど、今回は違う。

 俺も―――


「うむ、いずれにせよ帝都に駐留している全兵たちで対処及び近隣の街からも援軍を要請しておる。トワレとハビリはこの国の未来のため、急いで安全な場所へ。イチクノ、二人の護衛を。ハビリの従者である君たちや、学生の諸君も――――」


 そのとき、俺たちを「庇護すべき対象」として皇帝が告げようとするが、俺は……


「いや、何かあった時のために避難するのはトワレ。そして護衛のイチクノだけ」

「……ふぉ?」


 俺たちは!



「ソード、マギナ、ネメス、チオ、ヴァブミィ、分かってんだろうなッ!! 戦う準備はできてんだろうな!!」


「「「「「もちろんっ!!!!」」」」」



 もう、俺たちは大丈夫だ。


「ハビリ……」

「御館様……」

「な、何を! ハビリ、お前は何を言っておる! お前は、トワレの婿であるぞ! ましてやまだ学生のお前が……ここは兵たちを信じて―――」


 俺たちはもう間に合ったから。

 すると、ソードとマギナが前へ出て……



「皇帝陛下。残存する兵や他地域からの援軍との話だが……この国の主要な精鋭部隊を遠征させている現在、残っているのは大した戦経験もない兵たちでは?(実際前回そうだったからな)」


「ぬっ……そ、それは……」


「微妙な戦力だけで戦わせては、いざ陣形が崩れて魔王軍に帝都に侵入されれば、それこそ取り返しのつかない大惨事。今のうちに兵も民も関係なく、戦える勇気ある者たちを集うべきでしょうね(今頃、教え子たちも血に飢えているころでしょうし)」


「む、ぬ、ぬぅ、し、しかし、民に戦わせるわけには……」



 ありがたい。普段はスケベな二人も状況を理解し、そして俺の言葉を後押ししてくれている。

 そう、前回はまさにそれで最前線の陣形が崩れ、帝都が戦場になり、宮殿まで連中は攻め込んだ。

 ネメスが何とか敵将を討ち取って退けることができたが、トワレを始めとする多くの者たちが犠牲となった。

 それならば、今回はまず奴らをこの帝都に踏み込ませないこと。

 大正門で食い止めることが大前提だ。

 俺は前回を知っているとはいえ、それを説明できるわけもないので、ソードとマギナが「今のうちに戦える戦力を大正門へ集結」という考えが一致してくれて助かった。


「そうです! 僕たちはもう戦えます! 心の準備もできています!」

「皇帝陛下。たとえ兵じゃなくても、私の道場の猛者たちだって指をくわえているなんて御免だと思います」

「子供たちの未来のためにも!」


 ネメス、チオ、ヴァブミィも前へ出る覚悟の様子。

 ありがたい。


「まぁ、それに……なぁ? その帝都に駐留している兵たちとやらだが……」

「うぬ、ぬぅ……」


 それに……


「ちくしょー、なんでだよー! ここは帝都だぞ!? 戦場の最前線でもないのに、なんで……なんで魔王軍が……」

「帝都駐留の兵になれば、戦争にも行かずに安全だと思っていたのに……」

「殺される……殺される……」

「おい、お前たち! 何をビクついておるのだ! それでも誇り高き帝国の兵か! 逃げることは許さんぞ!」


 端々で聞こえてくる、怯えた声や混乱した声を漏らす兵士たち。

 まずい状況だな。


「無理もないでござる。今回、戦場の最前線で戦う屈強な騎士たちのほとんどが遠征に出ている……残ったのは経験の浅い兵や、駐留兵……駐留兵にいたっては『これまで帝都を攻められたことが無い』ために、戦の経験もそこまでないのが現状でござる」


 イチクノの言う通り、頼りにならなそうな連中だ。

 こんなのに最前線に立たせても、一瞬で総崩れしそうだ。

 特に今回は「突貫」、「破壊」、そして「戦闘力」に長けた屈強なオークの軍団だからな。

 それに対抗するためには、こっちも貧弱な連中たちだけじゃ駄目だ。

 だけど……


「ふ、皇帝陛下様よ。ご安心されよ。この国にはまだ、最恐の魔法学園が存在する」

「は……? 何を言っておる? 魔法学園……学生に何を!」


 自信満々な笑みを浮かべてそう告げるソードに、陛下も声を荒げる。

 そりゃそうだ。

 兵たちがビビってるのに、まさか卒業もしていない学生まで引っ張り出すなんてと。

 だけど、もうあいつらはただの学生じゃない。



「マギナよ!」


「ソード、もうとっくに呼んでいますよ。あのキャンプに参加した我がソルジャーたち全員に、集結せよと!」



 あいつらは……

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