第54話 一緒に食べよう

「マーマとお姉ちゃんが仲良くしてくれないと、ぼくいやだよー」

「「ッッ!!??」」


 どうだ! 言ってやったぞ! 子供っぽく、そして悲しそうに弱々しそうに、ヴァブミィに。

 するとヴァブミィはデレっとしながらも涙を浮かべ……


「ハーくぅん……ハーくん! ごめんなちゃいね、マーマがわるかったでちゅ! こわくないでちゅ! マーマは喧嘩なんてしないでちゅよぉ! んちゅ♥ んちゅ♥ ぺろぺろぺろぺろ♥」


 良かった……ヴァブミィから溢れる殺意が飛んでいったようだ。

 胸の谷間に抱きしめられ、顔を掴まれて唇や頬にキスの雨を連射され、顔中を舐め回され、体中をくすぐったいぐらいに弄られているが、とりあえず「誰かが死ぬ」とかそういう最悪の事態は避けられた。


「じゃぁ、マーマ、イチクノお姉ちゃんと仲良くしてくれる?」

「ちまちゅよぉ! マーマはハーくんの御願いならみんな聞いちゃいまちゅよぉ~♥」


 そして同時に、ヴァブミィのコントロールの仕方が分かったかもしれん。

 どうやら「かわいくお願い」するなら聞いてくれるみたいだ。

 もっとも、この濃厚すぎる猥褻行為に目を瞑ればだが……



「お、御館様……」


「イチクノ……あ~、イチクノお姉ちゃんも、それでいいよね?」


「ッッ!?」



 俺はイチクノにウインクして「分かってるよな?」と合図を送る。

 一応、ヴァブミィの前では子供を演じるために、イチクノにもお姉ちゃん呼びで子供っぽくする。

 その俺の意図に対し……



「しょ、承知……」


「うん!」


「はぅ!?」



 流石にイチクノは理解してくれたようで、俺は笑顔で頷いて……ん? なんか、イチクノが物凄く息荒くなって、目が……



「はあはあはあはあはあはあはあ……ヴァ、ヴァブミィ殿、と言ったな……拙者も、その、御館さ……いや、ハーの御願いを断れぬでござる」


「まぁ、私もです!」


「い、色々と失礼をした……許して欲しいでござる」


「それは私もです! 子供の前で私ってば……恥ずかしいです。そうだ、今後は親しみを込めて、『ミィ』とお呼びください」


 

 いずれにせよ、よしキタコレ! 仲直り成功だ!

 イチクノとヴァブミィが和解してくれた。

 そして、これは大きな前進だ。

 ヴァブミィがこのまま味方に、そしてイチクノも強いと分かったことで、これほど頼もしいことは無い。

 ネメスが若干物足りなくて、トワレが戦力外でも、魔王軍と戦える戦力を確保できてきている。

 これなら……よーし、ここはトドメを刺しにいく!


「わーい、やったー! ぼく、友達に優しいマーマ大好きー!」

「はうわッ!?」

「それで強いマーマもスキー! 魔王軍を倒して勇者みたいになったら、もっと好きー!」

「はわわわわわぁああああ!?」


 よっしゃぁ、食いついたぁ! ここまでヤレば大丈夫だ!

 これでヴァブミィも勇者を目指して己を高める鍛錬の力を入れるはず! 俺、頭良い!

 最初はどうなるかと思ったが、これでヴァブミィの問題は解決—―――


「……イチクノさんと仰いましたね……」

「うむ、ミィ殿……」

「もう、私は堪えきれません。一秒も」

「奇遇でござるな、拙者もでござる」


 え? どういうこと? え? やっぱり仲良くするのが嫌ってことか? 今の流れで何で?


「ハッキリ言いますが……私は一人での方が良いのですが……あなたもそれは看過せず……恐らく邪魔をするのでしょう」

「うむ……拙者ももう耐え切れぬでござるから、それは許さぬ」

「ええ、ですから……提案なのですが……ここは仲良く―――」


 すると、ヴァブミィは俺を抱きしめながら、イチクノに対して……




「一緒に食べませんか?」


「異議なしだ」




 は? 食べる? 何を? 仲良く? なんだ? 親睦を深めるためにお菓子でも食おうってことか?



「都合よくこの寮……新たに再利用しようという計画があり、ベッドを綺麗にしましたし」


「うむ、ではさっそく♥」


「ええ……あなたとは話が合いそうですね、これからも宜しくお願いします♥」


「うむ、友よ」



 何? ベッド? なんだ? するとヴァブミィが俺を抱きかかえながら建物の中へ……その傍らにはイチクノが……そして……


「シスター・ヴァブミィ♥」

「うふふふふ♥」

「えへへへ♥」


 そして入り口には先ほどまで腰を抜かしていたシスターたちが……今はもうモジモジと顔を赤らめて……


「わ、私たちも一緒にいい?」

「私たちも~食べたいな~って」

「だめ?」


 皆で仲良くお菓子を食べよう……?


「ダメです。今日は私とイチクノさんの二人までです……が、それでお姉さまたちに恨まれるのはイヤですし……」

「うむ、拙者たちが食べ終わった後でよければ……でござるな」

「「「きゃ~~~♥♥♥」」」


 良く分からんまま、俺は抱っこされながら室内へ……部屋……ベッド……アレ?


「ハーくぅん、ごはんの……お乳の時間でちゅよ♥」

「ハーよ、いっぱい飲んだらお眠の時間でござる♥」


 おやぁ? ヴァブミィが……イチクノが……服を脱いでぇ、ヴァブミィは胸のサラシをシュルシュルと解いて、イチクノは色っぽい下着姿になって秒で下着も脱いで……ッ!?


「ひっ、いや、ちょ、まっ!!??」


 その瞬間、俺はこれから起こる未来を理解した。

 このままではまずいと思い、逃げようとするももはや不可能。



「「それでは、いただきます♥♥♥」」


「ぁ――――――――――――――ッッ!!??」


―――♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥






 俺は食べられた。





 何時間も。





 ドサクサ紛れに教会のお姉さんたちも最後は……もう、最後は俺も理性を失い―――




 俺も食べ返した。








――あとがき――

相打ち

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