第53話 狂気と忍
「シスター・ヴァブミィ! 何の騒ぎ……なっ!?」
「これは……それに、あの子供は……あっ、こ、この前の!?」
誰もいないはずの寮から次々とシスターたちが……おい、イチクノ!?
一番いたらダメな奴らのいるところに逃げ込むんじゃねえよ!
「ハーくぅん……ここにいたんでちゅね♥」
「あ、ヴぁ、ぶみィ……」
それにしても、なんでよりにもよって、こいつがここにいるの? いや、マジで何で?
なん―――
「んちゅぶるちゅぶ♥」
「ンぶっつ!?」
「うひっ♥ ハーくぅん、すべすべぇ♥ このお肌、ぷにぷにィ、まーまのでちゅよぉ♥ ハーくんはマーマのでちゅよぉ♥♥♥」
「ひゃ、や、めろよぉ!?」
考える間もなくキスされ、顔を嘗め回された。
やばい、怖い。喰われ―――
「お館様に何をするでござる!」
「じゅるるる♥ あ゛?」
そのとき、クナイでヴァブミィを斬り裂こうとしたイチクノが割って入る。
それをヴァブミィはシスターとは思えない速度で、俺を抱きかかえたまま回避。
「お館様は姫様の良き人であり、拙者を孕ませる御方。これ以上、狂った淫獣は不要でござる」
「ッッッ!!??」
いや、お前を孕ませるとは……しかし、それがどうやらヴァブミィの琴線に触れたようだ。
「よきひと? はらませ? ……何を仰っているのですか! ハーくんはまだ子供です! 孕ませエッチは早いに決まってます!」
いや……俺……お前より年上。
「まだまだお勉強が必要なんです! 女の子とのエッチも私が教えてあげないとだめなんです! いえ、その前にハー君はまだマーマのお腹から生まれてないから、マーマの子宮から出ないとダメなんです! マーマの子宮から出るラブラブなこともしていないのに、他のどこの馬の骨かも分からない女の子を? それなのにィ……それなのにィ……ダレ? ナゼウバウノデス? ワタシノハー君ヲォォォ!!」
どこの馬の骨も何も帝国のお姫様とその側近で……
「な、んという禍々しい魔力でござる……」
とはいえ、やはりここら辺は奇跡の黄金世代の一角になれる才の持ち主。
「判決・死刑ッ!!」
いや、それどころかキレたらネメスのように覚醒を……
「な、なぁ、ヴァブミィ! まずはあんたもちょっと落ち着――――」
「ギッ!」
―――ぱちん
「……え?」
「お館様!?」
俺を抱きかかえたまま、ヴァブミィが恐ろしい形相で俺をビンタした。
なんで?
「ハーくん……なんでちゅか、その口の利き方は! あんたじゃなくて、マーマでちょう!」
「……はぁ?」
「マーマに向かってあんたなんて、ハーくんは悪いこでちゅよ! マーマはハーくんのこと大好きで、本当はこんなことしたくないんでちゅよ? でも、ハーくんのためでちゅ!」
「…………うわ……」
ダメだこいつ……せめてこの狂った感じをどうにか魔王軍に向けられないものか……
「誰であろうと、拙者と姫様のお館様を穢して傷つけ者は許さぬでござる!!」
「あ゛? ワタサナイ!」
「ふっ、学園も卒業してない小娘が……ほざくなでござる」
「ッ?!」
だが、それを俺に思わせたのは、ヴァブミィだけでなく……
「な、い、イチクノ?」
「……寒気……この私が……」
イチクノ。
鋭い眼光から震えあがるほどの殺意が場を包み込む。
「わ、な、なんです……これは? シスター・ヴァブミィ」
「ひィ、こ、こわい、あの女性は一体……」
その殺意の空間に、シスターたちも腰を抜かして怯えている。
これがイチクノの……
「忍法・風刃五月雨ッ!!」
「ッ、魔法風障壁ッ!!」
次の瞬間、かまいたち、そして突風が吹き荒れる。
それは、互いの風属性の魔法と術がぶつかり合ったためだ。
「忍法・大地烈斬ッ!!」
「なっ、足元が割れ……ッ! ぐっ、不届き者! 神罰をッ!」
「忍法・火球連弾」
「え、ちょ、ま、ッ!」
ヴァブミィが防御の体制から反撃に打って出ようとしたところで、イチクノが即座に別の術を休む間もなく繰り出してくる。
その速度。
その容赦のなさ。
その隙の無さ。
ヴァブミィも顔が引きつり汗が噴き出てる。
「イ、イチクノ……」
そして、俺も驚いた。
いや、国の姫の護衛も兼ねた側近なんだ。
弱いはずがないんだ。
たとえ、ヴァブミィがいずれは奇跡の黄金世代の一角となる才能の持ち主でも、現段階では、キレも経験値も……
「苦無四面包囲!」
「ぐっ、全方位からナイフ!? は、速い!」
イチクノの方が押している。
強い。
ってか、このイチクノを初対面の時にアッサリと取り押さえたソードとマギナっていったい……
「さぁ、お館様を離すでござる。さすれば命までは取らぬ」
「ぐっ……」
「これから拙者がお館様とお試しの伽をするでござる……邪魔にならぬうちに立ち去るでござる」
「ッ!?」
いずれにせよ、今の時点ではイチクノの方が強そうで、俺も助かる?
だが……
「ハーくんと伽イイい?! マーマだってまだハー君としてないって言っているではないですかぁあ! ぁぁぁあああ゛あ゛あ゛! ニクイッ! ニクイ! ぁぁあああああ、もはや神の声すら不要なほどのぉおおおおおぉお!!!!」
「ぬっ、ま、まだ、魔力が上がるでござるか……」
ヴァブミィもまだまだ引き出されていないだけの力があるようで、更なる禍々しいオーラを全身から解き放つ。
なんかもう、これ、このまま魔王にでも変身するんじゃないかってぐらいに。
だけど……
「ジュラララララララ!!!!」
「拙者の将来計画を邪魔させぬでござるッ!!!!」
この、常人離れした力でぶつかり合う二人……もう……この力や狂気は是非に魔王軍にぶつけてほしいものだ……ってか、一緒に戦って……一緒に―――
そのとき、俺の脳裏にあるアイディアが浮かんだ。
そうだ、この狂気の力をぶつけるべきは魔王軍。
しかし、今のヴァブミィは聞く耳持たない。
だけど……
「ぐっ……『マーマ』、喧嘩はやめろ……やめてよぉ!」
「ッッッッ!!!???」
「ぬぅ!? お、御館……様?」
恥ずかしい。顔から火が出るほど。だけど、これなら届く。
これならヴァブミィに俺の声は……
「お、おれ、いや、僕のマーマは正義の味方じゃないとやだぁ! 魔王軍を倒せるような勇者じゃないとぉ、やーだー!」
「ッ!?」
「イチクノ……イチクノお姉ちゃんも強いし、だから協力して魔王軍を倒せる、仲間と一緒に頑張るマーマじゃないとやだぁ!」
こ、これ、気持ち悪い。こんなことをガキのフリしてやらないといけないなんて――――
「ハーくぅん♥ まぁ♥ まぁ♥ まぁまぁまぁまぁ♥♥♥」
だけど、効果は抜群だった。
「お、御館様ぁ♥ お、お、おねえちゃ……ふぉぉ♥」
抜群すぎた。
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