第三章 正史に抗う
第42話 さらなる決意
「はぁ~、終わった終わった~」
「なぁ、帰りにどっか寄ってこーぜ!」
「ねえねえ、広場にできた新しいカフェ行こうよ~」
魔法学園の本日の授業が終わり。
その瞬間に気の抜けたクラスメートたちのキャッキャッとした声が響く。
分かってんのか?
もう数日後にはこの帝都が戦場になるかもしれないんだぞ?
「ハビリ様ぁ、俺らも行きましょうぜ?」
「ねえねえ、ハビリくんも行こ! クラスの親睦を深めるのに必要な―――」
これじゃダメだ。
今は時間がない。
「坊ちゃま、帰りましょう。このような小娘どもからの乱交の誘いなど乗る必要はありませぬ。オーソドックスからベリーハードな要求も小生の体一つで事足ります」
もうすぐ戦争だってのに……
「しつれいしまーす! あ、ハビリせんぱーい、あの~、今日は僕と一緒に帰りませんかぁ? あの、そのぉ、広場に新しいカフェができてェ、僕先輩と一緒に行きたいなぁ~って」
肝心の勇者がこれなんだからよぉ!
勝てるわけがねえ。
付け焼刃でもいいから、気持ちだけでも……
「お前らぁあああ、それでいいのかぁあああああ!!!!」
「「「「「ッッ!!??」」」」」
俺は教室で立ち上がって声を荒げた。
そしてホームルーム終わりで無人となった教団の前に立って、ネメスも含めて全員に言ってやる。
「今、この国は王子を始めとする主要戦力が人類領土の奪還のために大遠征をしている! そんな中で国に残った俺たちが、次代のこの国を、そして人類を支える戦士となる俺たちが、こんなノンキでイイと思っているのかぁ! もしだ、万が一だ、この手薄となっている帝都に魔王軍が襲撃でもしてきたらどうなる! 残存する騎士団員たちで対処できなかったらどうなる! 家族を、子供たちを、民を、それを守るのは俺たちしかいないんだぞぉ! もっと緊張感をもって、放課後は自己鍛錬に励むとか、それぐらいの心構えが無くていいのかぁ!」
前回の俺なら絶対に言わないような鼓舞の言葉。
だが、実際に今はこれぐらいのことを言って、俺以外にも認識してもらわないとマジでやばい。
トワレ、チオ、ヴァブミィが前回とは違うことになってしまったこと。
ネメスも真面目にやることはやってはいるが、前回よりも弱い。
マシなのは、ソードとマギナぐらい……だが、戦い以外はこの二人はなんかヤバいのだが……
いずれにせよ、俺も前回よりはマシになっているとはいえ、ずっと隠れてたり戦わなかったりなので、戦争の経験も、ましてや六星魔将との戦闘経験もないので、実際に自分がどれだけやれるのかも分からねえ。
だからこそ、こいつらにも少しでも戦力になってもらわないと、マジで国が亡びる。
「ハビリ様の熱血がまた……」
「う~ん、でもさぁ、私たちも一日中授業頑張って疲れてるし……」
「ねぇ? これ以上はちょっと……」
「クラス委員長でもあり、名家で才能もあるハビリくんほどじゃなくても、私たちも頑張ってるし……」
「少しぐらい息抜き……」
とはいえ、それでいきなり変わるほど単純じゃない。
そもそも実際にこいつらはこいつらで普通の同世代以上にしっかりやってはいるんだ。
中には、俺とネメスの決闘やらで色々感化されて、けっこー授業もマジでやってたりする。
魔法学園の座学はかなりハードだから、一日で疲れるのも頷けるわけで、だからこそここからさらに自己鍛錬というところまではなかなか……
(坊ちゃまの相変わらずの真面目ぶりに可愛くて今日も小生は濡れる。まぁ、実際にあの豚軍団が帝都を攻めてきて色んな女たちが犯されたりするのだろうが、頭さえ叩き潰せば問題ない。あのイーディは肉弾戦は確かに強力だが、小生ならば討ち取れる……そうすれば、あとは坊ちゃまからのご褒美で……うぇへへへへへ♥ 抜かずの10発を前菜に何してもらえることやらぁ♥ あと、この前のように小さくした坊ちゃまを小生の方から……ぐひひひひ♥)
でも、前回のオーク襲撃。アレで確かに撃退はできたものの、トワレは死ぬし、帝都の民たちもオークの被害にあった。
ハッキリと把握はしてないが、中にはオークに犯される奴らもこの中にいるかもしれない。
そういうクソみたいな行為は俺も含めてこの世界ではどうにかしなけりゃならねえ。
だからこそ……
「俺は……お前たちに誰も死んでほしくねーんだ! 悲しい思いをしてほしくねーんだよぉ!」
「「「「え……」」」」
「そして、誰にも何も失ってもらいたくねえ! 家族を、兄弟姉妹を、そしてお前ら自身もだ! 今のこの国は、誰かが何とかするんじゃなく、俺たちが何とかしなくちゃいけないんだと俺は思っている!」
「先輩……♥ はぁ、やっぱり先輩カッコいいよぉ♥」
「だから、もう十分頑張っているの、もう一歩先まで頑張ってみねえか!」
と、俺は吠えるしかなかった。
他にこいつらのやる気を出させる方法を俺は知らん。
「とにかく、カフェだのなんだの俺は行かねえ。お前らも息抜きするのはいいけど、色々と考えてくれよな!」
とりあえず、言うべきことは言った。
「あ、坊ちゃま、お待ちを」
「先輩~、待ってくださいよぉ~帰るんですか?」
教室を出ようとする俺の後を慌てて追いかけてくるソードとマギナ。
帰る?
その前に……
「教会だよ。ヴァブミィに手土産もって謝罪に行ってくる」
「「え!?」」
「んで、そのあとはチオの様子もな」
「「えええ!?」」
たとえ無理だとしても足掻いて何としても立ち直ってもらわねえと。
そう思った時……
「まぁ、でもさー、やっぱりハビリくんの家みたいに~、金持ちで~、才能もあって~、慕ってくれる女の子たちもいる恵まれた環境の人が言っても~、説得力無いっつーか~、それなら私たちも~、なんかヤッた分のご褒美も欲しいよね~って」
「「「?」」」
そのとき、教室で一人の女がそう口にした。
色々と盛られた髪飾りをした、ふわふわ灰色ロングの女子の褐色肌で化粧も派手な他国出身の留学生。
名は……
「んだよ、ヤルィマンヌ」
ヤルィマンヌ・ユルイ、だったか?
「あーしらも、色々とココロザシってーの? そういうのあるわけで~、まぁ、頑張ってるわけだけど~、相応に頑張ってるわけで~、名家の貴族や天才さんたちの基準で言われて怒られても納得できないってーの? だから、そんなにあーしらにももっとやれってーなら、そりゃご褒美でもないとさ~」
ご、ご褒美? なんでこいつらの父さん母さんでもない俺がご褒美なんてやらないといけないんだ?
「おい、そこの態度も股もゆるそうな女。坊ちゃまに失礼だぞ? 自分たちの将来のことであろう? なぜ貴様らが自分たちの頑張りに坊ちゃまが褒美などやらねばならぬ? なら、小生が欲しいぐらいだ」
そこでソードが遮ってヤルィマンヌを睨むが、ヤルィマンヌはヘラヘラした様子。
「だな。つーか、だいたい褒美って何がだよ。何か俺にくれって言ってんのか?」
いったい何を? そう思った時、ヤルィマンヌはニタリと笑って……
「あーしら学生が欲しいものって言ったら……たとえば女子は超名門貴族の御曹司たちとのお見合いパーティー企画とか、伝説の魔導士タカスイエッサーが開発した超希少な魔法美容薬をくれるとかぁ~、んで男子はぁ……エロい娼館のお姉さんたちとリゾート地でバコバコ馬車ツアーでヤリ放題とかぁ?」
「……はぁ? そんなもんが―――――」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
そんなのがいいのか? と思った瞬間、明らかに教室のクラスメートたちの空気が一変した。
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