第41話 幕間・迫りくる六星大魔将軍(三人称視点)

 人類と魔族の間で繰り広げられる、長く、そして壮絶な戦の歴史。

 その歴史の節目に常に登場するのが、『六星魔将軍』と呼ばれた魔王直轄にして魔界で選りすぐられた六人の忠臣。

 その一角にして、『狂気』の二つ名を持つ、残忍な常に血に飢えた将軍が居た。


「あのブドーやエンゴウ、レツカたちが精鋭を引き連れて国を離れたぁ!」


 執務室で己の軍の幹部を集めて吼える、大柄のオーク。

 その名は、『イーディ』。

 全身鋼の筋肉を搭載し、巨大な牙と野生的な鋭い瞳を持ち、その口角が吊り上がった。

 だが……



「つまり、こちらも総力戦って……なるところだが……魔王様の狙いはむしろ、帝国の主力である精鋭部隊不在の帝都を、むしろ堕としちまえってことよぉ!」


「「「「おおおおおお!!!!」」」」


「他の星たちが連合を迎え撃ち、その隙に別働隊が……ってとこなんだが!」


「「「「とこなんですが!」」」」


「…………俺たちは先日の戦争での独断行動が問題視されて『半年間』の謹慎処分! つまり、今回の作戦には一切かかわれずに休暇だコンチクショー!」


「「「「ぬおぉおおおおおお~~~~!」」」」



 盛り上がり、そして最後にイーディは涙を流し、幹部たちも涙を流しながらガッカリしたように項垂れた。


「ちくしょー! 帝都だろぉ! あそこには金目のものがワンサカあるだろうによぉ!」

「都会の人間の女共をヤリまくれると思ったのによぉ!」

「うぅ~~、暴れてえよぉ、暴れてえよぉ!」


 人類に恐れられる六星の一角の軍。それは特に領土侵略の際に人間たちに対する度を越えた行為のために、常に人類から恐れられていた一方で、軍の規律として度々問題視されていた。


「じゃあ、将軍……俺らはこんなおいしい話にも指くわえてるんすか!」

「仕方ねえ……魔王様直々の謹慎だからよぉ……俺たちは『半年間』軍事行動ができねえ!」


 そのため、魔王からもついに半年間の戦争禁止処分を与えられてしまったのだった。


「し、しかし、そうなると誰が?! 俺たちは抜きにしても、帝国に壊滅的なダメージを与えられる絶好の機会じゃないすか!」

「三星で迎え撃ち、残り一星で強襲するとかじゃねえか? 連合軍が総力で来るとなると、かなり厄介だな。ちっくしょ~だぜ!」


 と、歴史に残るような転換期の場面に一切かかわることのできないイーディは投げやりになって嘆いた。

 すると……



「おーっほっほっほっほっほ! そういうことですわ、オークさん方ぁ~、そのためについに満を持してワタクシの出番なのですわ~~!」


「「「「「ッッッ!!??」」」」」


「だいたい、あなた星の計算もできませんの? 星は五つではなく、六つ! しかも一際眩い星がいましてよ!」



 高らかに、そして陽気に笑う女の声。

 むさ苦しいオークたちはギョッとした顔をして一斉に振り返ると、執務室の扉には、眩い黄金の甲冑を纏い、その左右に花びらを舞わせる二人の魔界女騎士たちを侍らせた、長い金髪ロールを靡かせて、鋭い角を額から伸ばした魔人族が立っていた。

 


「な、お、おま……『お嬢』!?」


「「「「「セフレーナ大将軍!?」」」」」



 驚愕の表情になるオークたち。

 その反応に余計に気を良くした女は更に高笑いした。



「おーっほっほっほ、そうですわー! 魔王軍の最終兵器にして最強にして可憐にして優雅にして女神たる、魔界一の美貌と頭脳と力を持つ、六星魔将最強のセフレーナ・ミストレス! ついにワタクシの出番なのですわー!」


「「よ、お嬢様素敵、ワンダホー!」」



 配下の女騎士たちがパチパチ拍手して更に盛り上げる。

 その状況にオークたちは言葉を失っていたが、ハッとしたイーディが慌てて言葉を発する。


「ま、待て、お嬢! ほ、本当に魔王様が、出陣命令を出したのか!? だ、だって、おま、一度も戦争の経験もないのに!」

「おーっほっほっほ、戦争の経験が無い? 違いますわ! ワタクシは秘密兵器ですわ! だからこそこの大事な一戦まで温存されていたのですわー!」

「い、いやぁ、で、でも……」

「男がブヒブヒ嫉妬は醜いですわ~♪」


 と、笑うセフレーナに対し、一同は……


(いや……お嬢の前任の親父様が魔王様に長年仕えた右腕であり、魔界随一の貴族であるがゆえの七光り登用……娘の方は実際にはヘッポコ、おバカ、美貌以外に取りえのない無能じゃねえかよ! 魔王様も本来そういう登用はお嫌いだが、実際にミストレス家自体の名が絶大であることと、その莫大な資金力もあり、仕方なく名前だけの六星の肩書を与えただけで……六星といいながら、実質戦争は五星だけで……ええ? お嬢を使うぅ?)

 

 と、イーディは頭の中で色々と考えた上、最後は頭を抱え……



「魔王様も頭を悩まれたか……って、俺たちが出陣できてれば何の問題もなかったのによぉ!」


「あら? むしろ、よろしかったのではなくてぇ? あなたたちのようなお下品な方たちではなく、ワタクシたちのように華麗でグレートな美しき軍こそふさわしいと思いますわー!」


「ぬっ……」


「というわけで、あなた方はワタクシの歴史に名を残す偉業を楽しみにお待ちしていることですわー! おーっほっほっほ!」



 そんなイーディに言いたい放題しながら、セフレーナは配下の二人を連れてその場を後にした。

 執務室にはセフレーナ登場用に投げられた花びらだけが残り、少しの間をおいてオークたちが眉をしかめて……



「だ、大将軍……だ、大丈夫っすかねぇ? あの方本当に……」


「いや、まあ、とはいってもお嬢の率いる軍自体は有能なエリートたちが集う『セフレーナ魔界女騎士団』……頭がバカでも部下が有能だから……主要戦力のいない帝都に壊滅的なダメージを与えるぐらいできるだろうという、魔王様の最大限の配慮かもな。それに、人間共もある意味でお嬢はノーマーク。そもそも六星の中で一度も出陣していない軍ってのも世論の目も厳しいかもだしよぉ……」



 と、色々と不満を口にしながらも、何も出来ない状況に、オークたちは歯噛みするしかないのだった。

 すると……


「そういうことだぜぇ、イーデェのダンナぁ~あたいはもうご無沙汰すぎて枯れちまうよぉ~」


 と、その執務室にまた新たな一人が現れた。

 それもまた女。

 セフレーナが引き連れていた魔界女騎士たちと同じ鎧を纏い、背中に悪魔の羽を生やした魔族。


「あ? お前かよ……サキュバス~」

「ったく、名前で呼んでくれよぉ、旦那ぁ~。あたいには、『サイイン』って名前があるんだからよ~」

「何か用か?」


 魔王軍の大幹部相手にも気安く接するサキュバスのサイイン。

 その姿に更に眉を怪訝にしかめるイーディに……


「考えてくれた? あたいを旦那の軍に入れてくれるってことをよぉ~。お嬢様の軍はお上品な処女ばかりでよ~、エロい会話も陵辱も大嫌い、そもそも出陣無いし、戦争で人間の男どもをヤリまくるっていうあたいの望みが全然叶えられねーんだよぉ~。あんたらとは気が合いそうだし~、なんならたまにあたいの身体で相手してやってもいいんだぜ~♥」


 それは所属する軍からの移籍志願を怪しくいやらしい笑みを浮かべて申し出るサイイン。

 

「つっても、俺らは半年間戦争できねえぞ?」

「わーってるよぉ、でも半年後ならいいんだろぉ~? な? な?」

「いや……だが……」


 その申し出にあまり気が進まなそうなイーディ。周りのオークたちも同じ反応だ。

 するとサイインは頬を膨らませて……


「はぁ? なら、旦那ぁ~、取引はどうだ~? あんたのイ「のばあ!」ポをあたいが治し――」

「あー、分かったよぉ! まー……正規の手続きをして……あまり俺の軍を使い物にならなくしなければ……」

「おー、まじい、愛してるぅ、旦那ぁ~!」


 と、無理やり話が決まってしまった。

 それに気を良くしてサイインは足取り軽く背を向けて……



「じゃ、あたいは初陣だしヤリまくってくる~♪ んで、帰ってきたら転籍よろしくぅ♥」



 と、最後に投げキッスをして、サイインは去っていった。














 そして、その頃地上では……



「ぬおおおおお、どうすりゃいいんだぁ! ネメスの強さ微妙! チオとヴァブミィが登校拒否! トワレは訓練せずに花嫁修業! こ、これで……これで……」



 悩めるハビリは本来の歴史の流れを知っているが故……




「これでどうやってあの六星魔将のイーディを撃退すりゃいいんだよぉ!? あの強力なオークの軍団が、半年後ならまだしも、来週以降にはいつ攻めてくるか分かんねんだろ!? こ、この戦力で……どうすりゃいい!?」




 本来の歴史からズレ、さらには王子や父や兄たちの遠征が「半年」早まった。

 その「半年」が非常に、そして絶妙に魔王軍側でもズレが生じしてしまうことになるのだった。








――第二章 完――


こうして前回の知識をまるで生かせないまま……果たしてどうなることやらで、第二章を終わりとします。


引き続き本作をよろしくお願いいたします。


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