第23話 勘違い

「じゃあ、先輩も授業頑張ってください」

「おー」


 登校日。周囲の視線がウザイ。

 俺と使い魔ポジのソードと、ルンルン気分のネメスと一緒に登校だからだ。

 そもそもソードが思春期の男や女たちには思わず振り返ってしまうような大人な魅力とセクシーさがあって注目を集めてしまうのに、先日の俺の事や、ネメスが試験で目立ったこともあり、そんな俺たちが一緒に並んで登校する光景は他生徒たちから大注目を浴びていた。

 ネメスは特に気にしないようで、それどころかこれからの学校生活をワクワクウキウキした様子で自分の教室に向かっていく。

 そして、ネメスが離れたからと言って、俺への注目が減るわけでもない。

 さらに……


「さて、坊ちゃま。邪魔がいなくなりました。移動は小生が四つん這いの雌馬になりますので、容赦なく跨って尻を叩いて頂きたい」

「しねーよ、そんなのぉ!」

「しかし、小生の位置づけは使い魔! 在校生の中には、自分の使い魔に跨って―――」

「そういうのは、グリフォンとかそういう騎獣の類だろ! お前は―――」

「何を、小生は獣! 跨るもよしな淫獣であります!」

「しないって言ってるだろうがぁ!」

「はう、怒られたらお仕置きお仕置き♥」

「しないっ!」


 と、さらりと周囲に人が居ようとお構いなしに変な発言をぶち込んでくるソードも問題。


(ふふん、坊ちゃま……小生は大将軍襲来前のドスケベライフも諦めませんよ? こうして声を大にすることで、周囲も坊ちゃまと小生の関係性を理解されるでしょう。小生が坊ちゃまの所有物の雌玩具であり、用途は何でもござれで、スケベなことももうしまくるぐらいの仲であると思わせねば。もうこれ以上、余計な虫がよらぬように……)


 とにかく、家でも学校でも気が抜けないということで、何だか本当に疲れる……


「あっ、おはようございます、ハビリ様!」

「ハビリ様!」

「あっ……ハビリくんだ……ねぇ?」

「うん。あ~……おはよう、ハビリくん」


 そして、俺の予想を超えて変化はまだあった。



「……え?」


「ぬ? こ、これは……」



 教室に入った瞬間、何だかクラスの連中が俺に声をかけてきた。

 いつもゴマすりのように寄ってきていた奴ら以外も……特に女子とか、俺に目を付けられるのを恐れて自分から寄ってこなかったはず。

 なんで?


(ど、どういうことだ、前回の学校生活……坊ちゃまはドスケベ変態クソ野郎として認識され、クラスの女子共も犯されるのを怯えて……まぁ、坊ちゃまが学園内でスケベしたくなったら小生が空き教室や用具室や屋上やトイレで全部受け止めていたのだが……一体これは!?)


 とにかく珍しい状況だ。ほんとどういうことだ?


「な、何だよお前ら急に……」


 すると、俺の言葉に連中は互いに見合ったりして、ゴニョゴニョしている。

 何なんだ?


「え、えっと、ほら……ク、クラスメートだし……挨拶は普通じゃない?」


 と、クラスの女子の一人が代表して俺にアタフタしながらそう言ってきた。



「いや、俺が普通じゃないんだし……ほら、俺って……七光りのバカ息子のクソ野郎じゃん? 入学したときとか、『グワハハハハ~、俺はえらいんだー』みたいな……やべ、はず、あ~もう、忘れてくれぇ!」


「「「「「………………」」」」」


「とにかくさ、俺最低だったじゃん。何で話しかけてくるんだ?!」



 入学直後の頃からの自分の態度を知っていれば、いきなり声をかけてくるのはおかしい。

 俺は今となっては自分でも恥ずかしいぐらいのイキがってた小物ぶりの時を思い出して頭を抱えてしまう。

 だが、とにかくそれぐらいのことをした俺なんだから声をかけてくるのはおかしい……


「ぷっ、ぷくくくく」

「は、はは……あはははは!」

「おっかしー! 自分で言っちゃうんだぁ~」

「ねぇ、これさ……だめ、笑っちゃう!」


 と、急にクラス全員が腹抱えて俺に笑い出した。

 なんで?


「なんかさー、っていうか自分で七光りのバカ息子って言っちゃうんだね~」

「だよな、俺らは……まぁ、うん……ほんとな?」

「なんか私たちの方こそ、ハビリくんをすごい誤解してたかも……ごめんね」

 

 誤解? 何を誤解?



「この間のさ、新入生のネメスちゃんの件、私たちも見ていたの……それで、何だか私たちはハビリくんのことをスゴイ誤解してたって思って……」


「ハビリくんは本物の勇者を目指していた……だから、僕たちに対してもワザとああいう態度を取ってたんだろ?」


「うん。権力とか恐怖に怯えて縮こまって何もできない人たちは勇者に相応しくない……そういうことでしょ?」


「本物のハビリくんは……勇者を目指し、その胸にスゴイ熱い想いを秘めている熱血くんだったんでしょ?」



 そんなわけがないでしょ?


「だから私たちは……その、そんな才能とかあるわけじゃないけどさ……でも、できる限りのことはしようって思ったの……この間のハビリくんとネメスちゃんを見て」

「そういうことです、ハビリ様! 僕たちはハビリ様についていきますよぉ!」

「うん、だから私たちも頑張るって、そういうことで、よろしくね!」

「あははは、何をよろしくか分からないけどな~」


 これは、何だか意外な展開になってしまった。

 まさか前回とこんな所まで変わってしまうのか?

 こいつら、何を勘違い……


「そ、そそそ、そんなこと言ったって、お、お前ら、なんか、俺のこと勘違いしてるしィ、お、俺、悪い奴だしイイ!」


 いかん、顔が熱い。何か変に緊張して呂律も回らん。

 するとそんな俺にクラス中がまた笑った。


「あはははは、照れてる~!」

「うわ、なんか本当にハビリくんの印象変わっちゃった!」

「ははは、なんか、友達に……僕たちなれないかな?」

「ハビリさん!」

「ハビリ様!」


 俺との距離を全員が一気に詰めて来て、持て囃してくる。

 これまで、俺の親父や兄貴の権力目当てにすり寄ろうとしていた奴らもいたけど、全然様子が違う。



「ちが、お、お前ら、み、見てみろよ、ほら、俺は学校に奴隷の女を連れてくるドスケベな最低な奴だぞ! じょ、女子とか、え、エロい事俺にされちゃうぞ?!」


「ッ?! 坊ちゃまぁ、自分でドスケベと言われるのでしたら、そろそろ本当に小生に手を出してくだされぇ! 一体いつまで小生は膜を保持していれば良いのでしょうかァ!?」


「ふぁぁあ?! お、おま、何言い出すんだソードぉ!?」



 何とか勘違いを解かねばと思ってソードのことを話したりするも……


「えっ!? うそ……私たちてっきり……既にハビリくんは奴隷お姉さんとそういうことしてるのかと思ったけど……」

「ハビリ君……あんな綺麗な奴隷に手だししてないんだ……え? ハビリ君って、紳士?」

「ぼ、僕がハビリくんなら初日に手だししてた……」

「ふふ、ひょっとしてハビリくんって……まだ童貞だったり? やだ……なんかすごい可愛く見えてきた♥」

「それに、実際家柄も最高だし……あれ? ハビリくんって超優良物件だよね?」

「ね~、いいよねぇ~」


 何か余計に勘違いのドツボに嵌られたというか……


(ッ!? 何だと!? 前回からノーマークだったクラスの小便娘たちがここに来て坊ちゃまに淫猥な想いを抱き始めた!? 何ということだ!? トワレ姫同様の尻軽共が……奴らまで坊ちゃまに言い寄れば、学園酒池肉林……ぐぅ、坊ちゃまは小生のだというのに!? 学園まで危険ではないかッ!)


 俺の学園生活もまたどうなっちまうんだ?

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