第22話 英雄の欠落

「あれ、おはようございます。先輩もひょっとして朝の特訓ですか?」

「あ……よう……まぁ、そんなとこ」


 ソードとマギナに負けられないと俺も特訓で外に出ようとしたら、訓練用の木剣片手に持って外に出ようとするネメスと遭遇。

 どうやら、考えることは同じで、ネメスも何だかんだで気合入ったようだ。


「そのぉ、先輩さえよければぁ、ぼ、僕と一緒にやりませんか?」


 おい、「ヤリませんか」って顔を赤らめてくねくね可愛いなこいつ勘違いするだろうが特訓だよな何の特訓ってか落ち着け俺。

 ただ、やはりソードとマギナと違い、こいつはちょっと危ないかもしれん。

 現時点で前回のこの時期より弱いんだから。

 それに、朝の訓練やら気合を入れるのはいいんだが、俺と鉢合わせした瞬間にクネクネモジモジ雌猫の甘えた空気を醸し出しやがった。


「い、いや……俺の特訓は秘密の特訓だから……」

「ええ~~……ぶぅ、先輩のケチンボ!」


 頬を膨らませて可愛いなこいつ、もう完全に女として生きるつもりなんだな!

 正直、前回こいつとは全然仲良くなかったから細かいとこまで知らないが、確かにこいつは仲間とかには甘いところはあったかもしれんが、甘ったれではなく、学園でもかなりストイックに訓練していたのは視界に入っていた。

 その時のような闘志が今のこいつには感じられん。

 正直、奇跡の黄金世代の筆頭となるこいつには一番強くなってもらわないといけないのに、今は不安しかない。

 そして……


「ふわーあ、みんな早いよ~、おはよー」


 そんなやりとりをしていたところ、寝起きのトワレが寝間着姿のまま姿を見せた。

 

「トワレ姫、おはようございます!」

「あ、おはよう……ございます、姫様」


 こいつ、お姫様なのに、寝起き姿で現れて……いいのか?


「むむー! ハビリッ! 敬語! 姫も不要ッ!」


 と、すぐに目をパチッと開けてネメスのように頬を膨らませて俺に詰め寄ってきた。


「い、いや、それは二人の時で……」

「二人の時だよ♥」

「いや、ネメスが……」

「ふたり♥ あ、ネメスいたの~?」


 と、イジワルな笑みを浮かべるトワレに、ネメスがまたムムッとなる。

 いや、前回ベタ惚れだったはずなのに……


「むぅ、姫様イジワルです」

「ごめんごめん~。でもさー、二人の時だけじゃなくて、家の中ならやっぱりいいでしょ? ハビリ」

「いや、まぁ……あ~、もういいや」


 とりあえず、もうメンドクサイから従うことにした。


「二人は朝の特訓? ソードとマギナも朝から頑張ってるみたいだし、みんなえらいね~」

「まぁ……トワレもどうだ?」

「え~、私はいいよー。それより~、朝のお目覚めのチューくらいは欲しいな~、ハビリ♥」

「……はぁ?」


 何言ってんだよ、このお姫様は。

 こいつも黄金世代の一人として活躍するってのに、能天気だな。


「そんなんでいいのかよ。トワレも勇者を目指すんだろ? だったら、少しは鍛錬―――」

「え? ……勇者ぁ? 私が? なんで?」

「……え? 何でって……」


 アレ? だって、そうだよな? 

 トワレは前回、魔王軍に殺されはするも、それまでの間は魔法学園ではネメス達と一緒に奇跡の黄金世代と呼ばれ……魔法学園で……


「あっ!!!!」

「ふぁ?! な、なに、急に大きな声出して~」

「先輩?」


 い、今、俺、とんでもないことに気づいたというか……


「トワレッ!」

「ふぁ、ふぁい! な、なに?」

「お前……魔法学園に編入するとかないか?」

「はぁ? 急に何でよー、入らないよー!」

「い、いや、だっ、だって……」

「そりゃーさー、私がハビリと同じ学年だったら、同じクラスに入ってイチャイチャ~とかも面白そうだけど、私はハビリの一個下だから同じ学年になれないし、それなら入っても仕方ないでしょ?」

「ッ!?」


 前回、トワレは魔法学園に編入し、権力使って無理やりネメスと同じクラスになった。

 ネメスに一目惚れしたから。

 ネメスとの接点を作ったり、アプローチのためにトワレは魔法学園に無理やり入ったんだ。

 そしてそこで才能を開花させて、ネメスと一緒に黄金世代に……いやいや待て待て、そうなるとこの場合……



「勇者になるとか魔法学園に入るとかするぐらいなら、私はハビリが学校に行ってる間に、イチクノとマギナと一緒に花嫁修業でもしているよ♪」


「ッ!?」



 今回のトワレはネメスに惚れてない。俺の婚約者になった。そしてその俺とは別に学園行かなくても既に同棲状態だし、俺とトワレは歳が一個違うので同じ学年にもなれないんだし、無理に魔法学園に入る理由もない。

 つまり……


「こ、これは……」

「むぅ、どうしたの? ハビリ」

「先輩?」


 これは……奇跡の黄金世代の一人が欠けてしまったということにならないか?!

 まずい、それは非常にまずいぞ!

 前回トワレは魔王軍の大将軍に殺されたとはいえ、それでもその途中のトワレが居るからこその学園全体の特別イベントやらが開催されたりってのがあって、そのイベントでもネメスは強くなりながら活躍して……アレ? ……ヤバいッ!


「お、俺は、俺はトワレと同じ学園ライフを過ごしてみたいんだが、それでもダメかッ?!」

「うぇっ?! きゅ、急にどうしたの、ハビリ……」

「学年は違っても、ほら、家の中だけじゃお互いのことを完全に分からないかもしれないし的な、ほら、お互いのことをよく知る上でとか……」

「え、う~ん……魔法学園かぁ……」

「そ、そうだ、なんだったら飛び級で俺の学年に編入でもよくねーか?!」


 トワレが魔法学園に入らないと、黄金世代が形にならない。

 だから、形だけでも何とかトワレに魔法学園に……


「ん~、でもダメ。私は私で仕事もあるし……それに、無理やり編入してしかも飛び級とか、私はそういう権力乱用は嫌いなのぉ」


 は? こいつどの口が……でも……


「あ、ひょっとして私の魔法学園の制服姿を見たかった? んふふふ~、じゃぁ~あ……今度制服着るだけならしてあげよっか?」


 ヤベエ……英雄一人減ったんだが……



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