第24話 ざーこ

「というわけで、クラス委員長は多数の推薦により、ハビリくんになります」


「ふぁっ!?」


「「「「「わぁあああああ!!!!」」」」」



 担任の言葉と共に教室の椅子からズリ落ちる俺。

 だが、そんな俺を無視して教室は拍手喝采。何で?

 

「がんばって、ハビリくん!」

「私たちのクラスを……何だったら私たちの学年を引っ張ってください!」

「僕たちも協力するからね!」


 新学年になって、最初のホームルームでクラス委員を決めるというこれまでの人生で俺にとっては無縁のイベント。

 そもそも俺は学園に関するイベントも役職も、当然クラスのことも、これまで一度も関わったことなかった。

 そんな俺がいきなりクラス委員長?


「なお、クラス委員長は早速今日の放課後に、全学年の全クラスの委員長と顔合わせの会議があるので、ハビリくんは出席するように」


 あれぇ? 俺が女を犯さず、ちょっとネメスに喧嘩売らなかっただけでこんなことになるなんて……もう、未来が全然分からねえ!












「なんでこんなことに……」


「坊ちゃまの人望故です(なぜこんなことに? 妙な雑務が増えては、仮に坊ちゃまのドスケベマインドが覚醒されても、放課後のハメハメドスケベタイムを削られてしまう……いや、家に帰ったらマギナやトワレ姫という邪魔がいるが……しかし、雌穴だらけの魔法学園も危なすぎる)」



 放課後、俺はクラス委員の集まりとやらに向かうため、ソードを付き従えながら、こんな展開になってしまったことに頭を抱えていた。

 クラス委員って、とりあえず成績優秀なメガネかけた奴がやるもんなんじゃねえのか?

 ってか、クラスの奴らもリーダーシップがどうのこうのと……



「私に触るんじゃないわよ、ブ男ッ! 死刑! ほんっと、汚い! 豚! ざーこッ!」


「ぐべあっ!?」



 と、そのときだった。


「な、なんだぁ? ……あ……」

「ふぅ……(やれやれ、あやつか……ここで関りを持ってしまう訳か……)」


 一人の男が顔に痣を作って廊下を転がり、それに対して拳を突き出したまま鼻息荒くした一人の女がいた。

 オレンジ髪のツインテール

 声も態度もエラそうな貧乳。


「なーにが、親睦よ。男なんてどーせクソ雑魚ばっかのエロ野郎よ。男がこの私に話しかけるんじゃないわよ! ましてや雑魚なんて視界に入る前に死になさいよ!」


 八重歯をキラリとさせながら、虫でも見るかのように憎悪の目で男を見下すその女生徒。

 


「丁度いいから教えてあげる! 私はチオ! チオ・アヘイク! 男なんて大っ嫌いだから気安く話しかけたらぶっ殺すから! ……あ、でも女の子は友達になってね♪」


 その場にいる男全員に殺意を持って言葉を放ち、だが同時にその場にいる女たちには打って変わってニコニコの微笑を見せる。

 誰が見てもクソ生意気な一年の変なメスガキなんだが……


(チオ……何度か姿だけは見たが、こうして小生はまたこやつとも関りを持つことになるわけか……二度目の世界でも元気そうで相変わらずだな……)


 前回、ネメスやトワレと共に奇跡の黄金世代と呼ばれた天才児、チオ。

 ここで俺も関わることになったか。

 

「なな、なんだね、っ、き、君は! ちょ、ちょっと肩に触れて話しかけただけで、ぼ、僕のお顔を……僕の凛々しい鼻を……ズバリ、許せないでしょう、ベイビー!」


 と、そこで殴られた……あ……こいつ確か、子爵家の子息のハナオ? げっ、俺よりも一個上の最高学年じゃねえかよ! 

 一年のガキが最高学年の貴族を殴るとか……


「生意気で世間知らずな下級生に、少しお仕置きしてあげよう! これはズバリ正当防衛だ! 集え、岩の鎧ッ!」


 と、そこでハナオが校舎内で教師の許可なく禁止の魔法を放ちやがった。

 岩で体を覆う鎧……って、王子の下位互換なんだが、それをチオは鼻で笑い……



「だから何? 先輩? 貴族? そんなことでしか自分を語れないザコザコなんかがエラそうにすんじゃないわよ! あんた―――」


「いくぞ、僕の―――え?! は、速ッ!?」


「落第よッ! 魔壊拳ッ!!」


「ッ!?」



 そして、高速の踏み込みでハナオの懐に潜り込み、魔力を込めた拳一つで岩の鎧ごとハナオを殴り飛ばしやがった。



「うーわ……」


「おやおや」



 俺もソードも思わず半笑い。

 これが、奇跡の黄金世代の一人、天才魔法格闘家・魔拳士・チオ。


「分かった? ざーこ」


 心底男嫌い……の一方で、前回はネメスに惚れていたようで、学園内でよくトワレと一緒にネメス争奪戦を繰り広げてたよな。

 学園の男どもの中でネメスにだけ唯一の笑顔を見せて、くっついて、デレデレして……だけど他の男には厳しくて……俺にも……


――あんたみたいのを、七光りのバカ息子って言うんでしょ? おまけにあいつに惨敗してダッサーイ、やーい、ざーっこざっこざっこ!


 なんて、クソムカつくことを言ってきた女だ。いや、まあ、実際に俺はバカ息子でダサくてザコザコだったんだけども!

 ほんとこいつはネメス以外には……あれ? でも、ネメスって実際は女だよな?


(ふっ、前回は本当に大変だったからな……病的なまで男嫌いだったチオが唯一惚れたのがネメス殿……ネメス殿に必死にアプローチしたものの、実は女だったと分かった時の衝撃は……しかし、ライバルでもあり親友でもあったトワレ姫の死もあり、チオは初恋を捨てて、ネメス殿と真の友情を……っと、そういえば、この世界では既にチオはネメス殿が女だと知っているわけで、トワレ姫も入学してこないわけで……どうなるのだ?)


 もう、ネメスは女であることを公表しているし……どうなるんだろ?


「ん? なーに見てんのよ。何か文句でもある……あ……あんた……ふ~ん」

「あ?」


 と、そこで、チオは意外にも俺を見て、少し企みのある笑みを浮かべた。


「あんたもクラス委員長なんだ。へぇ~」

「あ、あんたって、俺か?」

「そうよ。あんたよ。本当は男なんかと会話も嫌だけど、あんたは正直雑魚じゃなかったっぽいし、少しだけ興味あったのよね~」


 やはりここも前回と違う。こんな形の会話から始まるとは思わなかった。



「まっ、雑魚じゃないけど、私よりは弱いから、会話ぐらいしか許さないから、変なことしようとしたら、ほんと殺すから気を付けなさいよ」


「あ゛?」



 でも、前回と同じでカチンときた。

 こいつ、前回最後はどうなるっけ? 


「わぁ~~~~、せんぱ~~~い♥」

「……あ……」


 そのとき、物凄い猫なで声であいつがこの場に入って来やがった。

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