第12話 「恋は戦争ですよ」

 仕事を終えた我々が向かったのは、馴染みのある飲み屋。

 いつものように個室へ通された我々は、いつものように適当に注文を済ませる。

 それぞれに好みのお酒が入ったジョッキを持ち、何故か分からないけど代表して乾杯の音頭を取ることになった我……わたしはこう高らかに宣言するのです!


「第1回アイネさんとクロウさんをくっ付けてラブラブにしてしまおう大作戦! その作戦会議スタートです!」

「いぇーい! パフパフ~!」


 盛大にぶつかるジョッキ達。

 でもその数は2つ。

 とてもテンションを上げるべき席なのにこの場の空気について来れていない人が存在していた。

 それは……何を隠そうアイネ先輩その人!

 恥ずかしそうに頬を赤らめながらもどこか引いた目で。関わりたくなさそうな目でわたしとリナ先輩を見ている。


「あの……軽く飲みたい、ということで集まったのでは?」

「何言ってるんですかアイネ先輩! リナ先輩がこのタイミングで軽く飲み行きましょうと言うことはですよ。アイネ先輩の恋路を応援するために会議をするぞ! って意味に決まってるじゃないですか!」


 ですよねリナ先輩!

 確認するように視線を向けてみると、リナ先輩は何度も頷いてくれていた。

 どうやらわたしの解釈は間違っていなかったらしい。

 いや~わたしの後輩力も磨かれてきましたね。


「それならそう言ってくれてもいいと思うのですが」

「いや、そう言ったらお前来ないだろ。心の準備が居るとか言って別日にしようとするだろ?」

「そ、そんなこと……」


 アイネ先輩って本当にクロウさん絡みになると弱いよね。

 普段はあんなにも鉄壁なのに作戦会議しようとするだけで心の準備が必要とか。

 まあそんなんだから数年前から好きだって自覚しているのに進展がないんでしょうけど。

 でも個人的には、そのヘタレっぷりにお礼を言います。ありがとうございます。

 だって先輩がヘタレじゃなかったら……こんなに面白い状況に関わることが出来ませんでした!


「せっかくクロウの旦那が普段のお礼がしたいって自分からお前の方に歩み寄ってくれてんだぜ。このチャンスを逃す手はねぇだろ」

「私は別に頼んでませんし……当たり前のことしていてお礼されるのは申し訳ないというか」


 うわぁ……普段はあんなにも頼れる存在として大きく見えるアイネ先輩が、今はちんちくりんのわたしよりも矮小な存在に見える。

 何でこの人はこんなにも消極的というか、自分に自信がないのかな。

 顔面偏差値で言えば誰もが認めるレベルで美人なのに。それでいて女性の理想かってスタイルも持っていて。性格だって細かいところとかあるけど、それは真面目なだけだから問題ない。

 一般女性よりも遥か高みの次元に立っているというのに……

 はたから見ている分には楽しいので問題ない。けどリナ先輩のポジションだと楽しいよりもじれったいって感情が強くなって爆発しそうではある。

 わたしはどう転ぶにしても今のポジションを最後まで守っていたい。


「はあぁ……お前、本当に旦那と恋人になりたいとか思ってんの?」

「な……なれたら良いなとは思ってますよ」

「なのに今手にしてるチャンスは、当たり前のことをしただけなので必要ない。本気でそう仰っているのでしょうか?」

「……だ……だって」

「んだよ?」

「ふ……ふたりでで、出かけるとかなったら……はず、恥ずかしいじゃないですか」


 真っ赤になった顔を見られたくないのか、ジョッキで顔を隠すアイネ先輩。

 その姿に思わずキュン! です。可愛い、この人とても可愛い。

 綺麗なのに可愛さまで持っているとかどこまで女の嫉妬を煽る存在なのだろう。

 わたしに少しでも女としての対抗心があったらケンカを吹っ掛けてると思う。

 けど、実際のところは。

 初対面の時から「あ、敵うものがない」って悟っていたから現状はただただ可愛いとしか思ってないんですけど。


「そういう姿は今じゃなくて実際に出かけてからやりやがれ!」

「こんな姿を見せられるわけないでしょう!」

「何でだよ!」

「恥ずかしいからですよ! クールで知的みたいなイメージ持たれてたら一瞬で崩壊ものです。そんな状態に陥ったら恥ずかし過ぎて私は逃亡しますよ!」


 ダメ発言をここまで自信満々に言うのはおかしいと思う。

 恥ずかしいと思う感性とか、好きな人には良いところを見せたい。そういう部分は理解できる。

 けど、恥ずかしいからといって逃げるのはダメだ。これだけは絶対にダメだ!


「そこで逃げ出したらクロウさんとは破局ですよ!」

「え」

「いいですかアイネ先輩、普通に考えてみてください。デート中に相手が逃げ出す。そんな事態になったら自分が何かしてしまったのか、嫌われてしまったんじゃないのか。そういう風に大体の人は考えてしまうはずです」


 ダメダメなアイネ先輩を知らないクロウさんなら。

 アイネ先輩と付き合いの長いクロウさんならば。

 そんなことをしても亀裂が生じない可能性もありますけど。意外な一面を知れた、とか急用があったんじゃないかって感じで済ませてくれそうですし。

 まあそれはあくまで可能性。なので置いておきましょう。このヘタレに変なところだけ希望を持たせるのは良くないと思いますし。


「そ、それは……」

「なのでもしもデートが決まった場合、何があったとしても……恥ずかしさで死にたくなるようなことが起きたとしても。途中で帰ってはダメです。またギルドで、と挨拶を交わすまではやり遂げないと絶対にダメです」


 一緒にご飯に行って、その後に別れる。そのときに挨拶を交わす。

 そんなに難しいことは言っていないはずなのに……どうしてアイネ先輩はこんなにも湯気が出そうな顔で頭を抱えているのだろう。


「リナ先輩、わたしっておかしなこと言いました?」

「うんにゃ」

「なら何でこんなにもアイネ先輩はダメダメになっているんでしょう?」

「それはまあ、こいつが真のヘタレというか……かなりのむっつりスケベだからやべぇくらいのピンクな妄想してんじゃねぇの?」


 なるほど。

 確かにそれなら納得できる。


「納得できる、みたいな顔しないでもらっていいでしょうか! 私、そんなこと考えてませんから!」

「えっ、考えないんですか? 好きな人とキスしたいとかアイネ先輩は思わないんですか?」

「そ、それは思いますけど」


 じゃあ考えてるってことじゃないですか。

 いや……いやいやいや。

 キスしたい程度なら素直に答えてくれる。

 ということは……


「アイネ先輩、もしやあの一瞬の間でクロウさんとの夜の営みまで考えちゃったんですか?」

「――ィ!?」


 あ、これは図星だ。

 この人、普段感情をしっかりコントロール出来ているだけにこんな風に表に出ちゃうとすごく分かりやすい。


「も、もう帰ります!」

「いやいやいや、お前が帰ったら今日集まった意味がねぇだろ!」

「そうです! この程度のことで逃げ出していたらクロウさんと結ばれるとか夢のまた夢ですよ!」


 ピタッと動きが止まるアイネ先輩。

 わたし達が拘束する前に部屋から出るのを踏み止まったあたり、クロウさんへの想いだけは本物らしい。

 さすがにここで逃げるようなら応援するだけ無駄。

 いっそ他の人にクロウさんをおすすめしてラブラブになってもらう方が、今後のことを考えるとアイネ先輩のためとも言える。


「あのなアイネ、別にアタシらはエッチな妄想すんなとか言ってるわけじゃねぇ」

「ですです。そんなの誰だってしますよ。というか、実際に恋人になったらそういうことしちゃう関係になるんですからイメージトレーニングは大切です」

「そこまで付き合う前から想定してる奴は少ねぇと思うが……まあいいや。アイネ、別にお前の考えるようなことはおかしなことじゃない。当たり前のことだ。だからそこを気にするのはやめろ」


 じゃないと話が進みませんもんね。


「てなわけで話を戻すというか、本題に入っていくわけだが……ぶっちゃけクロウの旦那にはどういうお礼をしてもらうのが良いと思う?」

「あまりお金が掛かるようなことは個人的に」

「ヘタレ発情魔は黙ってろ。てめぇに発言権はねぇ」


 話し合う内容って私に関することですよね!?

 と言いたげなアイネ先輩。だけどここはリナ先輩の言葉が正しい。ヘタレ発情魔という発言をスルーしてしまうくらいには冷静さがない状態だから。

 まあ冷静さがあっても恋バナするうえでは邪魔になるだけなのでどっちにしても置物にするでしょうけど。それはそれ、これはこれということで。


「サーシャ、お前はどう思う?」

「そうですね……正直な話、アイネ先輩のポンコツ具合からしてあまりハードなものはダメだと思います」

「ポ、ポンコツ?」

「だな。かといってお菓子とかをもらうだけだと進展する可能性はゼロだ」

「す、数パーセントくらいはあるのでは?」

「ねぇよ!」


 つうか、お前は黙ってろ。話が進まないだろ!

 と追撃するかと思いきや……


「お前マジで旦那から女として見られてねぇから!」

「だだだ、誰がそんなこと言ったんですか! 適当なこと言ってたらさすがの私も怒りますよ!」


 アイネ先輩、その顔はすでに怒ってます。


「旦那本人からそう聞いたんだよ。アイネのこと狙ってたりするか聞いてみたら即行で否定されたわ」


 いつ、どこで、そんな話をしたんだろう。

 わたしの記憶が正しければ、エルドナさんって人が顔を出すようになってからあまりギルドに来なくなったような。

 わたしが休憩中とかに来てたのかな?

 それともわたしが帰った後とか?

 でもリナ先輩とはずっと勤務時間同じだったし……本当にいつクロウさんと会って話したんだろう。


「理由を聞いてみたらアイネは冒険者なんて眼中にないだろ、だとよ」

「そ、それって……」

「そうだよ。お前が新人時代から数年前まで度々口に出してたことを旦那はばっちりと記憶してる。それが原因でお前と恋人になれるとか微塵も思っちゃいねぇ。つまりお前と旦那との関係はゼロどころかマイナスでスタートしてんだ!」


 自業自得とはいえ何て厳しい戦いなんだろう。

 普通なら……アイネ先輩に人並みの度胸があれば、多分だけどどうとでもなりそうな問題ではある。

 でもアイネ先輩は恋愛面において異常なほどヘタレ。

 そのレベルは、普段の感じからして受付嬢の仮面を付けていないとまともに会話すら出来ないほど。

 それくらい好きなら他の人に取られる前に行動しろって言いたくもなる。

 けど、それが出来るなら現在進行形でこんな会議は開かれていない。


「となると……最低でも一緒にお買い物とかしてから食事まではしないとですね」

「ああ。旦那に受付嬢以外のこいつを見せないことには進展の『し』の字すら出やしねぇ」

「出来るなら……どうにかこうにかして一緒にベッドインまで行かせたいところ」


 そのためにはどういう作戦を練れば……うん?


「おふたりともどうかしました?」

「いや、その」

「ベ、ベベベ……ベッ……!?」


 アイネ先輩は絶賛ピンクな妄想中と。

 まあ人一倍知識だけはありそうですし、騒がれても邪魔になるだけなので好きにさせておきましょう。


「リナ先輩、何か言いたいことがあるならどうぞ。大切な会議なんですから思ったことはバンバン言っちゃいましょう」

「あ、いや、まあ……別に会議の中身的にはどうでもいいことなんだが。お前、可愛い顔してなかなかに言うことヤベェな」

「え?」


 どこが?

 もしかしてベッドインって部分?


「そんなおかしなこと言ってます? 数少ないチャンスをものにしつつ、飛躍的に関係性を進めるには、夜の営みにまで手を出せた方が良いと思うんですが」

「それは……そうなんだけどよ」

「わたしが思うに……ぶっちゃけクロウさんって、そこまで行っちゃえば責任取ってくれると思うんですよ」


 責任の取り方が恋人になることなのか、結婚を前提にしたお付き合いなのか。

 はたまた最初からお嫁さんにしてくれるのか。

 そのどれになるのかは分からないけど……まあどれでも結果的にはオーケー。アイネ先輩がクロウさんと結ばれるということには変わりない。


「そりゃあ旦那なら肉体関係まで持った相手なら責任を取ろうとはするだろうよ。だけど……このポンコツに初回のデートでそこまでやらせるのは不可能じゃねぇか?」


 ……そうですね。

 具体的な話は一切していないのにこれまで以上に顔を赤らめてますし。何なら壊れた何かみたいに言葉にならない言葉まで漏らす始末。


「でもリナ先輩」

「何だよ?」


 アイネ先輩は……

 いえアイネ先輩もですが、リナ先輩も含めて分かっていないことがあります。

 それは……


「恋は戦争ですよ」


 あ、この顔は分かっていそうで分かっていらっしゃらない顔だ。

 なら仕方がありません。言いたくはありませんが、1から10まで言ってあげましょう。


「いいですか? 現状ではアイネ先輩に恋敵はいません。ですが! クロウさんという存在は全体で見れば数少ないAランクの冒険者であり、それでいて受付嬢にも優しい常識人です」


 多分うちのギルドの場合、長年働いている人はアイネ先輩がクロウさんに気があるんだろうなって分かっているのでしょう。

 分かっていなかったとしてもヤバい時はリナ先輩が対応しているのでしょう。

 だから受付嬢でクロウさんを狙っている人はいない。今後出てきたとしても我々の手で対応が可能です。

 心の声のように言っていますが、実際にはここまで声に出しています。

 今のわたしは自分の感情を素直に吐き出す機械に等しいので。なのでぜひ最後までご視聴ください。


「しかし、幸か不幸か……いやアイネ先輩からして見れば不幸でしょう。最近のクロウさんは、ギルドからの専属クエストで色んな冒険者に会っています。しかもよりにもよって、その全てが顔面偏差値が高い美人さん。心が弱っているところを助けられた女性は、助けてくれた殿方に好意を抱きやすい。もしかしたら訳アリさんの中にアイネ先輩の恋敵が生まれているかもしれません!」


 ちょっとそこ! わたしの話を聞いてます?

 別にリナ先輩は聞いてなくてもいいですけど。当事者であるあなたが、アイネ先輩が「そんなわけ……」みたいな顔をするのはダメだと思うんですが。


「何ですかその危機感のない顔は」

「いえ……嘔吐物をぶちまけられたり、暴力行為に快感を覚える変態さん相手にあの方が好意を持つとは思えなくて」

「それはクロウさん側の考えですよね? 相手の方が本気になってたら意味ないですよ。生理的に無理でもない限り、ガンガンにアタックされたらクロウさんの心境にも変化が起きるかもしれませんし」


 というか……


「今さらっとおっぱいのあるイケメンさんのこと省きましたよね? あの人に関してはクロウさんは悪い印象はほとんど持っていないのでは?」

「そ、それは……」

「そういや……えっと、リクスだっけ? そいつってクエストって形で旦那とデートしてたんだろ?」


 え、マジですか?


「マジマジ。女性らしさを磨くために男性側の意見が欲しいって流れでそうなったらしいけど。この前のアイネがすげぇ不機嫌でさ、そんときに話を聞いたから間違いねぇよ」


 うわ……リクスさんって人が恋心芽生えさせてたら終わりの展開じゃないですか。


「リナ先輩、もういっそそのリクスさんって人を焚きつけた方が良くないですか? アイネ先輩を応援するよりテンポ良く物事が進みそうなんですけど」

「え、ちょっ、サーシャさん?」

「あーそれもなくはないな。こうもヘタレだとマジで応援するのがバカらしくなるし」

「リ、リナ? 何で急にそんな流れに……ふ、ふたりは私の仲間じゃなかったんですか!?」


 いや、仲間ですし仲間でありたいとは思ってますよ。

 でも……ぶっちゃけ、口先だけで行動しない人をいつまでも応援したいかと言われるとそうではないので。人って頑張ってる人を応援したり、助けたくなるものなんですよ。

 なので現状のアイネ先輩は……その……


「率直に言って頑張りが足りてないです」

「そんな……こ、これでもギルドに来てくれた時は真っ先に挨拶を」

「ぬるい! そんな頑張りでいったい何が変わるっていうんですか!」


 何も変わらないでしょ!

 だってそれで何かが変わっているなら。

 すでにアイネ先輩とクロウさんの関係は変わっているはずだから。


「アイネ先輩、あなたは自分の生まれ持った美貌や女性らしい肉体にあぐらをかいているんじゃないですか? 大切なのは見た目じゃなくて中身、なんてことを言う人がいますがね。確かに真実だとは思いますよ。でも、でもですよ! 人の第一印象なんてものは中身じゃなくて見た目で決まるんです!」


 最初に良いなって思われるのかどうか。

 少なくとも「あいつだけはない」と思われないかどうか。

 そこが重要になってくるんですよ。


「わたしは多少は可愛い顔をしているかもしれませんよ。でも、誰がどう見てもちんちくりんなんです。わたしに女性らしさとか、母性のようなものを感じる殿方はいないんです!」

「そんなこと」

「気休めはしなくて結構! わたしはわたしが幸せな未来を勝ち取るためには、それ相応の覚悟と戦略を持って恋愛という勝負に挑まなければならない。そのことはわたしは十分に理解しています」


 なので良いなと思う人がいれば、あらゆる方向から手に入れるための算段を考えますよ。

 ちなみにクロウさんもアイネ先輩が狙っていなければチェックリストに入っていたかもしれません。それくらいにはあの人は優良物件です。


「だからこそ、持たざる者の代表してアイネ先輩に言ってあげましょう。あなたはもしもわたしのように己が全てをかけて、クロウさんを奪い取ろうとする女狐が現れた時、ただ黙って見ているだけのつもりですか?」


 そんなわけありませんよね?

 あなたの……アイネ先輩の。

 クロウさんに対する想いはそんなものじゃないですよね!


「サーシャさん……私、頑張ります! 具体的に何を頑張るのか現状だと言えませんが、こんなにも応援してくれる人がいると分かって以上、私も頑張ります!」

「では、その決意にわたしも応えるとしましょう」


 具体的には……


「まずは今のままだと初心過ぎてポンコツなままなので、とりあえずこれからアイネ先輩には色々と生々しい話を聞いていただきます」

「え、なま、なまなま……!?」

「拒否権はないですよ。頑張るって言いましたもんね?」

「はぃッ!」


 うん、よろしい。


「というわけなのでリナ先輩。わたしはこれからアイネ先輩改造計画で忙しいので、リナ先輩は多少ポンコツでも実行できそうな無難なデートプランでも考えておいてください」

「お、おう」


 何だかリナ先輩からこの場の空気についていけないみたいなものを感じる。

 けど、それはわたしの気のせいだよね。あのリナ先輩がこの程度の熱量についてこれないはずないもん。


「あ、アイネ先輩へのお話を始める前にひとつだけリナ先輩に聞いておきたいんですが」

「な、何だよ」

「先ほどクロウさんがアイネ先輩のこと視野に入れてない、みたいな話をしてましたけど。いつクロウさんにそんな話を聞いたんですか?」

「それは今日の昼休みに旦那に飯を奢ってもらった時に」


 あぁなるほど。

 財布忘れたとか言ってたのに元気に戻ってきたのはそういう理由だったんですね。

 おや? 何やら寒気のようなものが…‥


「リナ?」


 おっと、これは激おこな笑顔です。

 仕事中だけでなく、私生活の場面でも何度かリナ先輩相手に見せているところを見たことがあるアイネ先輩の得意スタイル。


「んだよ? 別に良いだろうが旦那と飯を食うぐらい。付き合い自体はお前と一緒ぐらいあんだから。というか、誰のためにそういう機会を利用して探りを入れてやってると思ってんだよ。文句あるならそういうのも自分でやりやがれ」


 これは正論、正論パンチの連打!

 これには日頃正論で殴るアイネ先輩は言い返せない。

 でも抑えられない嫉妬のせいでお顔がムスッとなっていく。

 そういう顔も可愛い。実に可愛い。リナ先輩、マジでナイス!


「アイネ先輩、ここは抑えて抑えて。今はリナ先輩よりも来るべきデートに備えて準備しないと」

「そ……そうですね」


 よろしい。

 では、始めるとしましょう。

 女性しかいない空間での生々しいお話を。



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