第6話 「告白とかしないんですか?」

 わたしの名前はサーシャ。

 この街のギルドで受付嬢をしていて今年で2年目になる。

 去年と比べると仕事は一通り覚えているので大分マシになっているけど、それでも先輩達と比べたら段取りも悪い。それだけに心身ともに疲れが溜まる。

 そんなわたしを心配してかアイネ先輩とリナ先輩。

 アイネ先輩というのは、うちのギルドのナンバーワン受付嬢。またはエースと呼んでもいい女のわたしでも見惚れてしまうくらいの美人さん。仕事中は笑みを崩さず、どんな冒険者が相手でもスムーズに受付をこなす尊敬できる人だ。

 リナ先輩はアイネ先輩と同年代でほぼ同時期に働き始めた人。アイネ先輩に劣らないくらい美人さんではあるけど、勝気な言動から冒険者からは恐れられることも。

 そんなふたりに良くしてもらっているわたしは、今日も仕事終わりに食事に連れてきてもらった。


「ぷはぁ! 生き返る~!」


 盛大にお酒を飲み干したリナ先輩。

 その姿に父親の姿が重なってしまい、言っては何だけどおっさん臭い。


「んだよサーシャ。アタシの顔に何か付いてんのか?」

「いえ別に」

「じゃあ何だよ?」

「おっさん臭いなと思ってただけです」


 普通なら先輩に対してこんなことを言うのは失礼だ。

 実際そうだとしても言うべきことじゃない。

 ただ、わたしはリナ先輩とはそれなりに親しい関係にある。

 その証拠にリナ先輩は「うっせぇ」とだけ言うとおかわりを注文した。食事を取り始めたばかりなので仕方ないけど、これはまだまだ飲むつもりらしい。


「酒は受付嬢にとって心の清涼剤なんだよ。なあアイネ?」

「それはリナだけですよ。私はこういう時にしか飲みませんし」


 確かにアイネ先輩が家で飲んだりしている姿は想像できない。

 休みの日は紅茶とか飲みながら読書。そういう感じがする。


「この良い子ちゃんめ。その言い方だとアタシが悪者みたいじゃねぇか」

「受付嬢としては、日頃後輩にあなたの口調が移ったりしないか不安に思ったりはしますよ」

「アタシは人間味のある受付嬢なんだよ。というか、お前みたいに笑顔の鉄仮面でお行儀良く話させる方が後輩たちに悪影響だわ。絶対に余計なストレスを溜める。そんでもってお前みたいに腹黒になる」

「誰が腹黒なんですか?」

「そうやってすぐ作り笑顔で威嚇してくるお前だよお前」


 口論しているようにも思えなくはないけど、何度もこの光景を見たことがあるわたしからすればじゃれ合っているだけ。

 親友だからこそ建前ではなく本音で言い合えている。そんな感じだ。

 自分にもそういう友達が出来たらと羨ましいと思う。

 その一方で、このままの空気だったらさすがにわたしも居づらさを感じてしまう。

 ふたりだけの空気とか空間を間近で感じ続けるのってそれを壊すのも気が引けるというか……何か気まずいもん。


「いいかサーシャ、間違ってもこんな奴にはなるなよ。友達なくすからな」

「リナのようになる方が友達が減ると思いますけどね」

「まあまあ、そのへんで。わたしはどう頑張ってもふたりみたいにはなれませんって」


 性格とか能力は近づけるかもしれない。

 でも根本的な部分。身長とスタイルといった女性らしさに繋がるところは絶対に真似できない。

 わたしももう少し身長が伸びてくれていたならなぁ。厚底の靴じゃないと150センチ届かないし。

 だけどこのふたりは……

 アイネ先輩は女性としては平均か少し上くらいの身長だけど、服の上からでも分かるくらい胸は大きいし形も良い。手足もすらっとしてて、腰は細くてお尻のラインも魅力的。理想的なバランスって感じがする。

 リナ先輩は高身長だから何を着ても似合う。アイネ先輩と比べると筋肉質だけど、出るところはしっかりと出てるから女性らしさは失われていない。というか、十分なほどある。何なら胸はアイネ先輩より大きいのでは?

 美人な上にスタイル良いとかこのふたりは反則過ぎる。

 だからわたしはこのことを意識する度に……


「どうせ……わたしはちんちくりんなので」

「何で内面的な話から外見の話なんだよ。急に自虐に入んなって」

「いや自虐とかじゃなくて。これは誰もが見れば分かる事実です」


 わたしも今年で20歳。

 少し前までは成長期が遅れているだけ。まだ望みはある。

 とか思ってましたけど……さすがにもう無理。ここから伸びるわけがない。


「いや、まあ……つうか、別に良いだろ小さくて。デカくても服とか困るし、頭とかそのへんにぶつけるし」

「それは大変ですね。わたしには一生分からないことですが」

「だから卑屈になんなって! お前は十分可愛いだろうが……あたしと違ってよ」


 ちょっと照れくさそうに。

 それでいて拗ねるように。

 頬杖を突くリナ先輩にわたしは可愛いと思ってしまった。


「リナ先輩って……もしかして可愛いって思われたかったり?」

「べ、別にそんなこと思ってねぇし!」

「可愛いものが好きだったり?」

「んなわけあるか! アタシみたいなデカい女にそんな要素あるはずないというか……似合わねぇだろ。冒険者に怯えられるアタシなんかに」


 いやいや、似合いますって!

 今の子供じみた顔とかすっごく可愛いですよ。これでぬいぐるみとか持って笑ってたらギャップが凄くてわたしは興奮ものです。そんな場面に出くわしたら思わず映像を納めてしまうかも。


「大丈夫ですリナ先輩! 世の中は広いですし、受付嬢やってれば出会いだってきっとあります。先輩のこと可愛いって言ってくれる人にきっと出会えますよ!」

「ばっ!? デカい声でそんなこと言うな。アタシは別に出会いが欲しくて受付嬢やってねぇよ!」


 そうなんですね。

 でもそんなに動揺してたら少しは期待してるって言ってるようなものですよ。


「……まあ。そういうのがあったらあったで嫌だとは思わねぇけど。実家に顔を出す度に恋人はいないのか? とか、孫の顔はいつ見れる? って聞かれたりするし。つうか、明日絶対言われるわ」

「そうなんですか? あ、そういえばリナ先輩って明日はお休みでしたっけ。実家に帰られるんですか?」

「そうじゃねぇけど……地元の奴の結婚式に呼ばれてんだよ。家族単位で付き合いがあるから親も呼ばれてんの。だから嫌でも顔を合わせるというか……」


 あぁなるほど。

 それは何というかご愁傷様です。


「もうマジで面倒くせぇ。結婚するとかなったら真っ先に報告するって……それまで大人しく待っててくんねぇかな」

「でも親御さんとしては心配になるんじゃないですか。リナ先輩みたいな美人の娘さんに色恋の話がまったくないっていうのも」

「仕方ねぇだろ! うちには外面だけは完璧なこいつが居んだから。バカな男共はこいつに夢中なんだよ!」


 急に悪者扱いされたアイネ先輩は、露骨に機嫌が悪そうな顔を浮かべている。

 は? それって私が悪いんですか。そっちの努力が足りていないだけでは?

 そんな風に言いたげな絶対零度の視線でリナ先輩を見ている。

 素を見せてくれるというのは信頼されているってことなんだろうけど。

 負の感情が表に出てる時のアイネ先輩って凄く怖い。それだけにこの人だけは怒らせたらダメだって思う。


「私は受付嬢として当たり前のことをしているだけです。リナがモテないのはリナが悪いだけでは?」

「んだとコラァ!」

「そういうところが悪いと言っているんです。デカい上に目つきも悪い。それでいて言葉も乱暴。そんなの威圧感が凄くて誰だって嫌でしょう」


 アイネ先輩の言うことは凄く正しい。

 でも正し過ぎてこのまま放置したら多分だけどリナ先輩が泣いちゃう。

 お酒が入っちゃってるから感情の抑制効かないだろうし、根っこは真面目というか良い人だから自分に非がある話題だと打たれ弱くなっちゃうから。

 だからここはわたしが流れを変えないと!


「アイネ先輩!」

「はい、何でしょう?」

「どうやったら先輩みたいにいつも落ち着いていて。嫌なことがあっても笑顔のままで居られて……その、理想的な受付嬢を演じられるんでしょうか?」


 ……うん?

 わたし、もしかして言葉の選択をミスったのでは?

 演じているとか言っちゃったら素のアイネ先輩が良くないって意味に取られかねないのでは!?


「そうですね……経験を積むことが最善だとは思いますが、受付嬢は仕事だと割り切ることでしょうか。正直ギルドは仲介業者、冒険者の方に文句を言われても対応できないものはありますし。そもそも、冒険者は年々増えています。高ランクのものは指名されるケースもありますし、その人にしか出来ないことだったりもするので気が大きくなるのは分かります。ですがそれ以外の場合、礼儀を弁えない人などに仕事を回してあげる義務は我々にはありません。なので……」


 怒られはしなかったので一安心。

 だけど思っていた以上に真面目な話が始まってしまった。

 多分だけど……アイネ先輩もお酒が入って普段より胸の内をさらけ出してる。

 もしかしたら日頃溜まっている鬱憤が出てくるかもしれない。そのときアイネ先輩とは思えない下品な言葉が飛び出すかもしれない。

 でもアイネ先輩の普段置かれている状況を見ると我慢していることのひとつはふたつはありそうだし。

 何が出ても受け止める覚悟だけはしとこう。驚くのは仕方がない。


「だぁもう! 飲みに来てるのに仕事の話とかするなよな。嫌なことは酒を飲んで忘れればいいんだよ」

「後輩の相談に乗るのは先輩としての義務です。誰もがリナのようにお酒で解決できるわけじゃありません」

「それはそうかも知れねぇけど。誰だってお前みたいに頭だけで考えて納得できるわけでもねぇんだよ。つうか、そういう話はふたりっきりの時にやれ。アタシは明日が憂鬱だ。だから今日は楽しむ。だからお前らも楽しい話をしろ」


 もしかしてリナ先輩、酔いが回り始めてる?

 と思いもするが、確かにみんなでご飯に来ているのだから楽しい話をする方が良い。仕事の悩みや相談は同じ職場なのだからいつだって出来る。

 それに……アイネ先輩のようになりたいとは思うけど。

 リナ先輩が言うようにアイネ先輩のように利発的に物事を考えたり、効率重視で嫌なことに目を瞑る。それがわたしに出来るかと言われると怪しいところ。

 結局はわたしがわたしなりのやり方を見つけるしかない。そういうことなんだと思う。


「横暴な……大体簡単に楽しい話って言いますけど。リナは具体的にどんな話をして欲しいんですか?」

「そりゃあ……」

「ないとか言ったら怒りますよ」

「ちょっと待てって。楽しい話、楽しい話……あたしが楽しめる話だろ? となると……」


 考えはまとまってから話せ。

 そう言いたげにアイネ先輩はリナ先輩を横目で睨む。

 ただその感情をぶつけても無駄とでも思ったのか、ジョッキを手に持ってお酒を口に運んだ。

 その直後――


「あ、あったわ。アイネ、お前ってあの人との関係進んでんの?」

「ブゥふ……!?」


 アイネ先輩は盛大に吹き出してむせる。

 それだけならわたしもそこまで興味を惹かれなかったのだが……


「きゅ、急に……な、なに、なな何を言っているんですか!?」


 これまでに見たことがないほどの動揺。

 怒りではなく羞恥によって赤面したとしか思えない顔と耳。

 そんな状態のアイネ先輩を見たらもう。リナ先輩の質問がおふざけを狙った適当なものではないことは明白。これは詳しく聞くしかない!


「いや、お前が楽しめる話は何だって言うから」

「そ、それは確かに言いましたけど。でも何でそういう話になるんですか」

「それはまあ、やっぱり親友の色恋は気になると言いますか。少しずつでも進展してんのかなって」

「だからって……やめ、やめましょう! こんな話は面白くないです。サーシャさんもそう思いますよね?」

「いえ、面白いです。この話、ぜひ最後までしましょう」


 味方してくれないんですか!?

 と、涙目になるアイネ先輩はとても可愛い。

 別にわたしは、他人をいじめて喜びを感じたりはしない。

 けど、たとえアイネ先輩をいじめることになるとしてもこの話は聞きたい。

 だって……


「日頃多くの冒険者に言い寄られているのにその全てお断りしているアイネ先輩の恋バナですよ! こんなの気にならないわけないじゃないですか。リナ先輩、その話を可能な限り詳しく!」


 ヤバい、テンション上がる。

 この話は最後まで聞かないと今日は寝れない自信しかない。

 気持ち良く寝るためにもアイネ先輩への良心は捨てないと。

 そう思ったわたしは手元にあったジョッキを掴んで一気に中身を飲み干した。

 そして、流れるように追加注文。今日ほどお酒が美味しいと思った日はないかもしれない。


「リナ、ダメ。絶対にダメだから!」

「いやいや、後輩が話を聞きたがってんだぜ。なら話してやるのが先輩の義務ってもんだろ。それに協力者は多い方が良いんだ。諦めな」


 そう言ってリナ先輩は、完全にアイネ先輩から意識を外す。

 それを見たアイネ先輩は絶望するが、根掘り葉掘り質問されるのは嫌だと思ったのか大量のお酒を注文する。

 酔い潰れて防衛しようとかアイネ先輩らしくない。

 それだけこの話はマジってことなんだ。


「サーシャ、お前はクロウって旦那知ってるか?」

「クロウ? あ、はい、知ってます。Aランクで背の高い黒髪の人ですよね?」


 最初は無愛想で怖そうだなって思ったけど、ギルドの人に対しては基本的に敬語。受付嬢になったばかりでミスが多かった時期のわたしに対しても嫌な顔ひとつ見せなかった。

 それにAランク以上の冒険者は他のランク帯と比べると数が少ない。

 それだけに覚えるのは容易だ。


「そうそう。そいつがアイネの意中の相手ってわけ」

「へー」

「んだよその反応は」

「いえ、その何というか……」


 クロウさんは背も高いし顔立ちも悪くない。

 冒険者としてもAランク。一人前以上の実力を持っているし、うちのギルドの中でもトップクラスに信用されている冒険者。

 だから別にアイネ先輩の意中の相手と言われても不思議とは思わない。

 ただ……


「あんなに色んな冒険者に口説かれてなびかないのに意中の相手は冒険者なんだな、と思いまして。それにアイネ先輩ならクロウさん以上のイケメンを狙えるのでは?」

「まあ、そこはあれだ。外見よりも中身というか」


 その考えは分からなくもない。

 だっていくら見た目が良くても浮気ばかりするような人だったら幸せにはなれないだろうし。

 アイネ先輩のように常人より相手を選べる立場にあるなら見た目より中身の方が大事。そう考えてもおかしくない……のかな。


「ぶっちゃけ、気が付いたら好きになってたって話だからな」

「物事を計画的に進めるアイネ先輩がですか?」

「そのアイネ先輩がです。ま、おかしい話でもないんだけどな。あたしはアイネより少し遅れて入ったからあれだけど。クロウの旦那とアイネって働き始めた時期が同じなんだよ。確か聞いた話だと……アイネが初めて受付した冒険者が旦那だっけ?」


 不意な投げかけにアイネ先輩は「答えません!」と言わんばかりにそっぽを向く。

 しかし、ここで否定しないのは質問に対して肯定しているようなもの。


「じゃあ、クロウさんとアイネ先輩って10年くらい付き合いがあるんですね」

「そうなるな。ただアイネが意識し始めたのは出会ってから5年くらい経った後。ふたりが一人前になってくらいからみたいだけどな。それまではこいつ、冒険者と付き合うとかありえないって今以上に冒険者なんて眼中になかったのに」


 それはそれは。

 まあでも出会ったばかりの頃はお互いにまだ子供で。

 月日が経って大人になったからこそ見えてくるものもある。

 アイネ先輩もそういう感じだったのかな。


「恋は人を変えるんですね」

「やめてサーシャさん。恥ずかしいこと言わないで。私は変わったりしてないから」

「え? じゃあ出会った頃からクロウさんのこと好きだったってことですか?」

「何でそういう話になるんですか!」

「だって……今思い返してみるとですよ。アイネ先輩って仕事中でもふとした時にクロウさんのこと目で追ってましたし。変わってないなら最初から好きってことですよ」

「ぁ…………!?」


 そんなことしてないですよね!

 と言いたげにリナ先輩を見るアイネ先輩。

 それに対してリナ先輩は「いや、してる」と言わんばかりの反応を見せる。

 そしたらアイネ先輩は……今まで以上に顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏してしまった。

 そんなことをしても事実は変わらない。

 この話が終わるわけでもない。でも羞恥で悶えているアイネ先輩は、出会ってから今日に至るまでで最高に可愛いと思った。


「告白とかしないんですか?」

「こく……無……そんなの…‥無理」

「え、でも好きなんですよね?」

「うぅ……」

「せっついても無駄だぞ。こいつ、好きだって自覚してから数年は経つのに。毎日のように顔を合わせてるってのにデートのひとつにも誘えやしない。正真正銘ガチのヘタレだ」


 ち、ちが……!

 人のこと好きになったことがないアンタに何が分かるのよ。好き勝手言わないで!

 リナ先輩を睨むアイネ先輩の声を代弁するとこんな感じになりそう。

 まあこれはわたしの主観というか、こう思ってくれていたら良いなって感じだから実際は違うかもしれないけど。


「お前さ……マジで覚悟決めて何かやらないとずっとこのままだぞ。クロウの旦那はお前が冒険者とは付き合わないって言ってたの知ってたりもするんだから」

「ここ何年かは……言ってないもん」

「そういう問題じゃねぇだろ」


 うん、そういう問題じゃない。

 問題なのは冒険者はありえないって考えを口にしていたが故に。クロウさん側がアイネ先輩は冒険者なんか相手にしないと思って、自分からアプローチを掛けてこないということ。

 それは必然的にアイネ先輩が頑張るしかないわけで。

 でもそれ以上に今のアイネ先輩マジで可愛い。『もん』とか言っちゃってる。これはとてもレア。


「はぁ……あの人は一見無愛想というか、取っつきにくいと思われそうだけど。話してみるとそうでもないし、面倒見だって良い」


 うんうん。


「冒険者としても凄腕って言える実力がある」


 うんうん。

 冷静に分析すると、クロウさんってうちを利用する冒険者の中ではかなりの優良物件。気が付いていないだけであの人のことを狙っている人が居てもおかしくはない。


「最近は訳アリな冒険者の面倒を見てるらしいけど……その中から旦那のことが好きって奴が出てきたらお前どうすんの?」

「それは……そんなこと」

「ないって本気で言えるのか? まあ言えたら言えたで、自分が好きになったのは変人じゃないと好きになれない変な奴って言ってるようなものだけど」

「………………」

「黙りこくっても何も変わんないぞ」


 それでもアイネ先輩はだんまり。

 その様子はいつも大人な姿とは違って子供っぽくて可愛らしい。

 でも将来のことを考えるなら。未来のことを見据えるなら。

 このヘタレのままでは相当に不味い。

 もしもクロウさんに恋人とか出来たら……落ち込んでミスを連発。

 いやそれくらいなら良いけど、うちのギルドをやめて遠くに行ってもおかしくない。それくらいアイネ先輩の恋愛感情は本物だ。

 どうにかしたい。どうにかしてあげたい。

 でも本人がこれじゃどうにもならない。何てもどかしくて歯がゆいんだろう。


「まあ良いけどよ。アタシはお前が頑張らないなら手伝わないからな。このまま何もせずに失恋しても慰めたりしてやらねぇ」

「……薄情者」

「どこがだよ。当たり前のこと言ってるだけじゃねぇか。というか、そういうのはまず何かしらやってから言え。見返りもなく定期的にケツを叩いてやってるんだから感謝しろ」


 ボロクソに言っているけど。

 リナ先輩はわたしよりもアイネ先輩とは付き合いが長い。

 それだけにわたしよりももどかしくて歯がゆいんだろうな。親友には幸せになって欲しいって思ってるんだろうな。

 わたしもアイネ先輩には幸せになって欲しい。

 だからこれからは出来ることはやっていこう。露骨にならない、おかしいと思われない範囲で。

 アイネ先輩の恋愛成就計画、ここに始動!



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