#126 マキマキ速報とゲストの姫殿下
「それでは今後もこの事件の進展がありましたら、このマキマキ速報でお知らせしたいと思います」
こうして私、Vチューバー風巻みどりは配信を終えた。
── ※ ── ※ ──
「まったく何してくれてんのよ!」
この怒りはVチューバー風巻みどりのものというよりは、歴戦ゲーマの緑川まどかとしてのものだった。
それだけ楽しみにしていたのだ、この新作ゲームの発売日が!
アリスやネーベルやルーミアたち若い子と遊べるこの機会が遠のいたことに、これほど憤りを感じるなんて。
「まったく犯人め、目にもの見せてやる! ジャーナリストをなめんじゃないわよ!」
その時、電話が鳴った。
「⋯⋯まったく誰かしら」
その電話の相手は坂上マネージャーからだった。
⋯⋯さっきの配信でなにかやらかしてましたっけ?
そういう事は、まあよくある事である。
「もしもし、みどりです」
『みどりさん。お疲れ様です』
「坂上マネージャーもお疲れ様です」
⋯⋯小言という雰囲気ではなさそうだった。
『みどりさんにはいきなりで申し訳ないんですが⋯⋯マキマキ速報に出演したいというゲストの方が居ましてね』
「ゲスト? なんですか、その人?」
まあ無い話ではない。
私のVチューバーチャンネルは基本1人で運営しているが、たまにゲストを招いてのインタビューなんかもあるのだ。
『⋯⋯ブルースフィア王国のお姫様です』
「⋯⋯⋯⋯はい?」
何かの冗談か? いや坂上さんはそういう冗談は言わないタイプだ。
「なにかの隠語でしょうか?」
『いえ、正真正銘のお姫様なんです。 ブルースフィア王国の』
「なぜそんなやんごとなきお方が私のチャンネルなんかのゲストに?」
『さっきのマキマキ速報でみどりさん翡翠党について言及していたじゃないですか』
「しましたね」
『その翡翠党の本拠地がそのブルースフィア王国なんです。 そしてその姫様は『翡翠党・特別捜査官』なので、言いたいことがあるからマキマキ速報に出たいと言い出しましてね』
「は、はあ。 ⋯⋯ヘー、ソウナンデスカ」
なんの冗談だろう?
この私があろうことか、どこぞの王族と関わる事になろうとは⋯⋯。
「それ、拒否権ありますか?」
『あるわけないでしょ、みどりさん』
「デスヨネー」
『まあそういうわけなので、すぐに本社の第5スタジオへ来てくださいね』
「今から本社で収録するんですか!?」
『まさかみどりさんの自宅にお連れするわけにもいかないので』
「ソウデスネー」
チラッと私のまったく掃除されていない自宅を見る。
『ではみどりさん、お待ちしてますね』
そして電話が切れたのだった。
「⋯⋯まじかー」
Vチューバーになってからもいろいろ危険な橋はわたって来たつもりだったが、今回はひときわ危険な匂いがプンプンするぜ。
「でも⋯⋯クビになる時は思いっきり前のめりよ、みどりは!」
こうして私はヤケクソで本社へと向かうのだった。
1時間後私はポラリス本社ビルに来ていた。
ポラリスには大きなスタジオが他にもあるけど、私の番組収録程度の規模ならこの本社のスタジオで十分だ。
こんど大きなVRスタジオが完成するらしいが、そこに私も出演できる事を祈るばかりである。
なにせ今日は、どこぞの姫様を怒らせてクビになる可能性もあるのだから⋯⋯。
そんな事を考えながら私は第5スタジオの控室へ行くのだった。
そこで私は馴染みのスタッフたちに挨拶しながら体に小さな機器を何個も取り付ける。
これはいわゆるモーションキャプチャーの装置である。
この動きを特殊なカメラでトレースして画面内の3Dグラフィックアバターが動く仕組みなのだ。
そしてスタジオは緑色一色に染まっている。
これは合成画像用のブルーバックなのだ。
「さて⋯⋯どうなる事やら」
そう思っていると、なんか顔を隠した少女がやって来た。
よくある顔をベールで隠すタイプの帽子を被っている。
⋯⋯お姫様だし、身バレ対策かな?
そしてそのお姫様らしき人は、椅子に座ってマイクなどの調整をしていた。
お付きには金髪の、これまたイケメンの男が付き添っている。
「あんないい男を侍らせて⋯⋯羨ましい身分ね」
そんなお姫様は私の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、こっちを見て呑気そうに手を振っていた。
「⋯⋯まあいいや」
そしてすべての準備が終わって収録開始である。
さあ、みどり! 行くわよ!
── ※ ── ※ ──
「はい、みなさんこんにちは! マキマキ速報の時間です。
今回はなんと特別ゲストをスタジオに招いての収録となっております!」
【おー珍しい】
【ゲストって誰だ】
そういったリスナーのコメントが、そこのモニターに映し出されていく。
私のマキマキ速報はただ一方的にニュースを伝える番組じゃなくて、このライブならではのリアルタイムな視聴者の反応も取り込むスタイルだった。
「それではゲストの方、自己紹介をお願いします」
『マキマキ速報のリスナーの皆様、こんにちは。
私はブルースフィア王国・第三王女のリネット・ブルースフィアと申します』
なお、お姫様の声は機械による加工が施されている。
これも保安上の対策なのだろう⋯⋯たぶん。
「こちらはなんと本物のお姫様なんです!
ブルースフィア王国というのは大西洋に浮かぶ島国の国家であり、その国の姫殿下であらせられます!」
【まじか!】
【ほんとにそんな国があるみたいだ】
【ぜんぜん知らん国だったw】
【とんでもないゲストで草】
『ふふ、日本の皆様が知らないのも無理はありません。
我がブルースフィア王国はとても小さな国ですので。
しかし実は日本からも多くの観光客の訪れる国ですので、この機会に知って頂けると私は嬉しいです』
なんか自国のアピールしているわ、この姫⋯⋯。
【どんな国なの?】
『そうですね、中世ヨーロッパの街並みが未だに残っているとても美しい島なんです。
それに空と海も綺麗で素晴らしい観光地ですので、是非皆様もお越しくださいませ』
【ドラファンみたいな感じかな?】
【ワイ行った事あるで! マジでドラファンの世界や】
『あら? リスナー様の中に来てくれた人も居たようですね。 嬉しいですわ』
そうコメントを拾ってリスナーと会話していた。
⋯⋯この姫様、配信に慣れている?
しかしそんな事を考えている場合じゃない!
「えっとそれでお姫様は、なぜこのマキマキ速報にご出演されたのでしょうか?」
【え? みどりん知らないの?】
【なんでだよwww】
ホントなんでなんでだろうね!
私の人生一寸先は闇だよ、まったく。
『実はですね、私はこの9月から日本に留学するために既に来日していて、偶然ですが先ほどのマキマキ速報を拝見しました』
「⋯⋯見てたんですか? お姫様が?」
なんでお姫様が私のゴシップチャンネル見てんだよ!
【この姫様なんなんだよw】
【みどりん良かったなw】
【これでマキマキも世界レベルかーw】
じゃかましいわ!
『はい、見てました。
そして先ほどのみどり様のニュースの中で翡翠党に関して発言されてましたね』
「⋯⋯ええ、まあ」
『その翡翠党が今回の事件の声明を出したとの事ですが⋯⋯。
その翡翠党は何を隠そう、我が国の愉快犯である秘密結社なのです』
【マジで!】
【どーなってんの!?】
「そうなのですか⋯⋯」
『そして私は、その翡翠党と長年にわたり戦ってきました!
その立場から彼らについて話したいことがあり、この場に馳せ参じたわけです!』
【なんで姫様が秘密結社と戦ってんだよwww】
【意味わからんw】
【この姫なんか変w】
⋯⋯来るなよな!
「へー、ソウダッタンデスカー⋯⋯」
【みどりんが引いてて草】
【かつてない異常事態www】
【もしかしてマキマキピンチなのかこれw】
『先ほどの番組内でみどり様は翡翠党をただの悪党だと言ってましたが、それは違います。
⋯⋯少なくとも私が見てきた彼らがこんな事件を起こすとは思えない。
なのでこの場を借りて私自らが翡翠党の紹介をしたいと思います!』
そう熱く語る姫だった。
⋯⋯てか姫さん、おしとやかそうな感じだったのに完全に騙されたわー。
私のチャンネルどうなるのよコレ?
そしてブルースフィア王国の姫様の独演会が始まるのだった。
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