#127 緊急特集! これが翡翠党だ!
『──私と翡翠党の因縁は幼稚園時代から始まりました』
そう姫様が語り始めた。
『その頃、我がブルースフィア王国の空軍に廃棄予定だった形遅れな戦闘機がありました。
それを翡翠党が奪ったのです!』
【大事件やん!】
【悪党だな】
『しかし、事もあろうに翡翠党はその奪った飛行機を当時私が通っていた幼稚園の園庭に着陸させたのです!』
【意味不明すぎる】
【何考えてんだ?】
【たしかに愉快犯だな】
『そしてそのまま翡翠党は逃げ去り、その後飛行機を回収しようとしたのですが⋯⋯。
その幼稚園に通う園児たちの大反対によってその飛行機は武装を解除したうえで、そのまま残される事になりました。
その戦闘機は10年たった今でもその幼稚園の遊具として愛されています』
【www】
【わかる子供が大好きな奴だそれw】
【怪盗スカイスクレイパーみたいな話だw】
「その事件はその後どうなったのですか?」
『どうもこうも、元々廃棄予定だった飛行機一機を幼稚園に寄付した扱いなので実質損害なし、ということです。
しかしここから私と翡翠党の因縁が始まったのは確かです』
【因縁かな?】
【この姫様ならその飛行機で遊んでそうw】
『たしかに私は園児の頃その飛行機のコクピットを誰よりも堪能しましたが、それとこれとは別です』
【www】
【喜んでて草】
「聞いてる限りそれほど悪人っぽく無いですね?」
『こんな事件もありました。
あれは私が小学生だった頃の遠足の時です。
その遠足での目玉は遊覧船による島の一周でした。
しかし、その楽しい遠足を翡翠党は海賊行為で踏みにじったのです!』
【ナンダッテー!】
【翡翠党⋯⋯信じてたのに】
【海賊とかサイテー】
「それ、大丈夫だったのですか?」
『この事件では、私のクラスメートだったカタリナちゃんが人質になり攫われました』
【大事件じゃん】
『ええ! ですので、私が自らカタリナちゃん奪還作戦を決行したのです!』
【だれか止めろよこの姫様www】
【だんだん姫の方が問題児に思えてきたw】
【カタリナちゃんどうなった!】
『ご心配なく。 カタリナちゃんは私と当時のクラスメートのカルロス君と協力して取り戻しましたので』
【強いw】
【姫おかしいけどそのカルロス君も凄いなw】
「私はその時の遠足で友達をいっぱい作りたかったのに、結局この事件のせいで計画は失敗。 しかもカタリナちゃんとカルロス君がカップルになってしまい、私の初恋まで終わったのです!』
【姫の初恋!?】
【スキャンダルですよ姫様!】
【くそーカルロス君羨ましい!】
『あ、私の初恋はカタリナちゃんの方でしたので』
【www】
【百合でしたかw】
【これは無罪www】
『当時の私はちょっと男の子っぽい性格だったので、好きになる人は男じゃなくて女の子だったんですよね』
【当時⋯⋯ね】
【なんか今も変わりなさそう】
「あのー、時間も押してますしそろそろ翡翠党について⋯⋯」
『ああ! ごめんなさい! それでは次で最後にしますね。
あれは私の中学生の修学旅行でした。
私たちの乗ったバスに爆弾が仕掛けられたのです!』
【マジか!】
【翡翠党そんなことするの!?】
【おもしろい人達だと思ってたのに】
「⋯⋯いえ。 爆弾を仕掛けたのは翡翠党ではありません。
当時世間を騒がせていた麻薬密売組織『ガーネット』という組織です』
【あーちょっと前にニュースで見た!】
【たしか一斉検挙検されたんだっけ】
『そうです。 しかしその残党がメンバーの釈放を要求するために私が乗ったバスに爆弾を仕掛けたんです!』
【姫を人質にか⋯⋯】
【悪党め⋯⋯】
【許せん】
『この時、王女である私自身が人質だった事もあり我がロイヤルガーディアンは手も足も出せませんでした』
【大ピンチじゃん!】
『⋯⋯それを救ってくれたのが翡翠党だったのです』
【なんで?】
【実はいい奴?】
『どうなんでしょうね? 実は私にも翡翠党が何を考えているのかわかりません。
⋯⋯ですが、彼らにもなにか譲れない使命感のような美学があるのでしょう。
事件が終わった後の翡翠党からのメッセージはこうでした。
[いずれこの国は俺のものになる。 その未来をになう若き者たちを脅かす卑劣な輩を許せなかっただけだ]
⋯⋯という事らしいです』
【なんかカッコいいな翡翠党】
【見直したで】
【今日からファンになります!】
『ああ⋯⋯やっぱりそういう反応ですよね。
そうなんです、だから彼らは我が国の⋯⋯とくに子供に大人気で困っているのです。
でもですね! 何が「この国はいずれ俺のものになる」ですか!
我がブルースフィア王国の未来の王は、私のお兄様のラズリアス・ブルースフィアをおいて他に居ません!』
【姫おちつけw】
【この姫ブラコンかなwww】
『な⋯⋯たしかに私はお兄様が大好きですけど、けしてブラコンなどではありません!』
「落ち着いてください、お姫様!」
『⋯⋯失礼、取り乱しました。
そうです、今日私がお伝えしたかったのはこの翡翠党が子供を大切にしようとするカッコつけの愉快犯だという事なのです。
だから彼らが子供たちの楽しみであるゲームを台無しにするとは私には思えないのです』
【うーんどうかな?】
【もしかして冤罪か?】
【犯行声明は騙りだってことか!】
【ワイは翡翠党を信じるで!】
『もちろん私も全面的に翡翠党の無実を主張する気はありません。
ですが腑に落ちないのも事実。
よって私はここに宣言します!
我がブルースフィア王国は、今回の『日天堂ゲームサーバーハッキング事件』の解決に全面的に協力すると!
そしてこの事件は国境を越えた犯罪組織の関与の可能性が高いめ、国際警察機構にも強く呼びかけて行きたいと思います!』
【おおおおおお】
【姫様かっけー】
【なんだこの姫は!】
【ワイも応援するで!】
『ありがとうございます、みなさん!
私は子供たちの遊びの安全と安心を取り戻すべく、この事件の真相を明らかにします!』
【パチパチパチパチ】
【パチパチパチパチ】
【パチパチパチパチ】
「⋯⋯⋯⋯本日は、ありがとうございました」
── ※ ── ※ ──
「はいカットです! 収録終わりました!」
「⋯⋯なんとか無事に終わったか」
スタッフの合図でどっと疲れがこみ上げる私だった。
どうすんのよ、これ?
それというのも、この姫様が私なんかのチャンネルに来たせいだった。
一言くらい文句を言ってやりたいが怖いからしない。
『今日はありがとうございました、みどり様』
「殿下、ボイスチェンジャーを付けっぱなしです」
『ん⋯⋯ああ、失敗失敗。
──これで良し」
──え?
そのボイスチェンジャーを切ったその声に聞き覚えがあった。
でも⋯⋯誰だっけ?
私はその声の持ち主であるお姫様を見つめる。
すると姫様はその帽子とベールを外して──!
「こうしてみどり様の番組に出るのは夢でしたので、今日は嬉しかったです!」
そのなびかせた長い銀髪の美少女は、この前会ったばかりの女の子だった。
「あ⋯⋯あなた、リネット!?」
「そうです! ある時はブルースフィア王国の第3王女リネット! しかしてその正体は、正義のVチューバー『マスクド・ブルーベル』だったのです!」
そのノリノリのお姫様の声は確かに私の同僚のブルーベルの声で⋯⋯。
ってことは、ブルーベルがリネットでお姫様だって事!
「かんべんしてよ⋯⋯」
めっちゃ疲れた⋯⋯。
「みどりさん、お疲れ様です」
そこにはマネージャーの坂上君が居た。
「知ってて黙ってたわね、坂上君」
「申し訳ありません、どうしてもサプライズするとブルーベル様が聞かなくて⋯⋯」
「サプライズ成功です!」
ああ⋯⋯まったく騙された。
こんなのがブルーベルの正体だったなんて、そりゃ今まで一度もコラボできなかったハズだわ。
そんな私にブルーベルが近づく。
「みどり様。 こうして直接会えて光栄です! 今後は私たちの力を合わせて悪に立ち向かいましょう!」
そしてその正義の味方とは思えない華奢な手を差し出す。
「⋯⋯やっと会えて嬉しいわブルーベル。 一緒に頑張りましょう!」
こうして私はその手と握手した。
「それはそうと⋯⋯ふざけんじゃないわよ!」
「ごめんなさ~い!」
私がお姫様を怒鳴りつけるのをイケメン執事君は黙って見ていたのだった。
後に今回のアーカイブは、世界中からアクセスが殺到するとんでもない再生回数を叩き出す大記録になるのだった⋯⋯。
そしてそれはインターポールの重い腰を上げさせる原動力のひとつとなり⋯⋯。
予想以上の早さでこの事件は解決に向けて動き出すのだった。
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