#099 マロンVSブルーベルVSアリス!?

 マロンVSマスクド・ブルーベルの、アリスの姉の座を賭けた戦いの1本目はマロンの勝利だった。

 もし次もブルーベルが負ければそれで決着である。


 そんな崖っぷちのブルーベルの選んだゲームは⋯⋯。

 ファミステの電源が入るとチープなタイトル画面が映る。


『私の選んだのはこの『アーバン・ヒーロー』です!』


『これ、どんなゲーム?』


 どうやら姉の知らないゲームのようだった。


「これはどんなゲームなんだ?」

「ファミステ初の格ゲーかな? ほとんど駆け引きないけど⋯⋯」


 実は僕もあんまりしなかったゲームである。

 数回もすれば「もういいや」というシンプルなゲームなのだ。


【見たことないゲームだ】

【めっちゃ初期のゲームだな】

【これなら互角の戦いになりそう】


 そういうコメントもチラホラである。


「これなら殿下でも勝てそうか?」

「可能性はありますね」


 正直テキトーにボタン連打するだけの戦いの予感だった。

 つまりこの時点で僕はこのゲームの事をほとんど覚えていなかったのだ。


 そして戦いが始まった!


『うりゃ、うりゃ、うりゃ!』

『でりゃ、でりゃ、でりゃ!』


 うーん、互角だ。


 姉と姫の操作するそれぞれのキャラが何度も殴り合って吹き飛ばされる。


「これ確か⋯⋯リングアウト勝ち以外なかったような?」

「ライフ制ではないのか?」


「あるけど、0になっても終わらないので⋯⋯」


 たしか残りのライフは時間切れの時の判定に使われていたような?

 そうこうしているうちにブルーベルのキャラが劣勢になった!


『このままだと負ける!』

『ははは! マロンの勝ちのようね!』


 だがその時⋯⋯マロンの頭上から植木鉢が落とされた。

 それは的確にマロンに直撃した!


『なんじゃそら~~!?』

『ありがとう! 市民の皆さん!』


 応援する一般市民にも助けられたブルーベルはそこから巻き返し始めた。


 しかしマロンもなかなかしぶとく⋯⋯戦いは長期戦になっていく。

 そしてまた植木鉢が落とされる。


『もう食らうか──!』

『おしい!』


 今度はマロンの回避が成功した。

 そしてマロンの勢いが増し始める!


 このままだとブルーベルがマンホールに落とされる⋯⋯そんな崖っぷちだった。


 しかし最後まで諦めないブルーベルは時間切れまで逃げ切ったのだった。


 そして──。

 ファンファンファンファン⋯⋯。


 パトカーが現れた。

 警察の介入である。

 そして連行されたのはマロンの方だった。


『なんでマロンだけー!?』


『勝った? 勝ちました! これが国家権⋯⋯いえ! 正義の力なのです!』


 ブルーベルの信じられない逆転勝利だった。


「⋯⋯なんなんだ、このゲームは?」

「あー、そういやこんなだったな⋯⋯」


【マロン逮捕www】

【マロン有罪で草w】

【市民と国家権力を味方につけたブルべの勝利w】


『どうですかマロンさん! いつだって正しき者に勝利はやってくるのです!』


『どこが正しいんじゃ──!』


【まあそういうゲームだよこれは】

【みにくい戦いだったw】


 とりあえずこれでイーブンである。

 あとの勝負の行方は僕の選んだゲームの結果次第だった。


『うー、納得いかない』


『勢いは完全にこっちです。 この勝負もらいますね!』


 そんな2人の前には紙袋で中身の見えない僕の選んだゲームがあるはずだった。


『さて⋯⋯我々の勝負はこのアリスの選んだゲームでつけられるわけなんですが⋯⋯』


『どんなゲームなんでしょうか?』


 そのゲームがファミステにセットされて、ゲーム画面が映し出された。


 [マスクライダー倶楽部]


 そうデカデカとタイトルが映し出されていた。


『うーん、知らないゲームだ⋯⋯』

『これはマスクライダーのゲームですか!』


『なに、ブルーベル知っているの?』

『いえ全然。 でも憧れのマスクライダーのゲームなら私は絶対に勝ちますよ!』


 そう根拠のない自信をみなぎらせるブルーベルだった。


【www】

【知らないって呑気だな】

【酷いやつだアリスはwww】

【でもこれでどう決着つけるんだ?】

【せやな対戦ゲームじゃないし】


『これ対戦じゃないの?』


『そうです、昔のマスクライダーは協力して戦うんです! 決して争ったりしないんです! ⋯⋯まあ最近のはライダー同士で戦いますが』


 そんな2人はゲームソフトを入れていた紙袋の中の僕のメモに気づいたようだった。


『お? なんかアリスからのメモが』

『これがアリスの字なんですね』


 それをマロンが読み上げる。


『えーと。 10分ずつ交代で操作して協力してクリアを目指してください。 勝敗は視聴者の皆さんの投票でどっちがクリアに貢献したか? で決めます。 ⋯⋯だって』


『なるほど。 ヒーローたる者、時には敵とも手を組んで戦うという事ですね!』


 そう納得したようだ。


「そうなのか?」

「まあそうです。 これで仲直りしてくれればいいんだけど⋯⋯」


 その為なら僕が2人の共通の敵になる事も厭わないつもりであのゲームを選んだのだった。


「まあここから長丁場になるから、クッキーでも焼きながら気長に見守りましょう」

「長丁場?」


 まあ当然だがセバスチャンはこのゲームのこと知らないからな⋯⋯。


 テレビ画面を見守るセバスチャンを見ながら僕はクッキーの生地を伸ばし始めたのだった。

 そして型抜きした生地を予熱済みのオーブンに入れて後は待つだけだ。


「そろそろどうなったかな?」


 ゲーム開始から30分ほど経ったハズ⋯⋯。


「ミスタ―アリス⋯⋯。 君は⋯⋯酷いやつだな!」


 そうセバスチャンが僕のことを非難してくる。

 まあそうなるよな。

 そのくらいこの『マスクライダー倶楽部』というゲームはキツイゲームなのだった。


『おら~! とっとと金を寄越せ──!』


『マロンさん! これは正義の戦いです! 決してお金のために戦っているわけでは⋯⋯』


『綺麗ごと言ってんじゃねえ!』


 ⋯⋯どうやらもう姉には、このゲームの本質が見えたようだった。

 そうこのゲーム、何をするにも金がかかるのだ。


『あ! マスクライダー・ストロングさん! 力を貸してください!』


 どうやらブルーベルさんは味方ライダーを見つけたようだった。


『はあ? お金? 何で!? 正義の味方が金金金って!』


 ブルーベルさんは信じていたライダーの裏切りに、たいそうご立腹だった。


「そろそろかな?」


 そう限界を感じて僕はアリスのツイッターでファンのみんなに呼びかけをする。


 [アリス:今マロンとブルーベルが巨大な敵に苦戦しています。 どうかコメントで2人にヒントをあげてください!]


「これで良し⋯⋯と」


 どうやらこのマロンチャンネルの視聴者の中にも僕のフォロワーは居たようだ。

 すぐにコメント欄に変化が現れる。


【巨大な敵w】

【黒幕=アリスじゃねえかw】

【マロンとブルべを苦しめる奴が何か言ってるwww】


『あん? 君たちどうしたの?』


【さっきツイッターでアリスがヒント書くように指示してきた】


『お! ナイスアリス! いやー全然わかんないのよ、このゲーム!』


 どうやら素直に姉はコメントのヒントを見始めたようだった。


『ふむふむ、なるへそ~。 おいブルーベル! そこに入って!』

『なんですかマロンさん?』


 今操作しているのはブルーベルだった。

 そのブルーベルさんは素直に姉の指示に従う。

 するとそこはカジノだった。


『ギャンブル場ですか?』

『コメントによると⋯⋯フーフー!』


 姉がⅡコンのマイクに息を吹き込むとそのルーレットが止まる。


『な! イカサマじゃないですか!』


『綺麗ごと言ってんじゃねえ! どうせ悪の組織の資金源なんだからさ!』


『こんなのヒーローの戦い方じゃない!』


 ブルーベルさんの心の叫びがこだましていた⋯⋯。


「そろそろクッキー焼けたかな?」


 僕がクッキーの焼き加減のチェックから戻ると⋯⋯、


『ふーふー!』


『お前もイカサマしてんじゃねえか!』


『悪を叩き潰す為に手段は選んでいられないんです!』


 と⋯⋯ブルーベルさんも金の魔力で堕天していた。


【ブルべちゃんの吐息が耳に心地よい】

【これは素敵すぎるサプライズw】

【最高のASMRや】

【ありがとうアリス!】


『こら~! お前たち、マロンの息も気持ちいいだろー!?』


 始めは仲たがいしていたマロンとブルーベル。

 しかしゲーム開始から2時間が経過した頃にはもう⋯⋯、


 気持ちは1つになって手段を択ばずに敵に立ち向かう戦友になっていたのだった。


「アリス。 君はこうなると見越してこのゲームを選んだのかい?」

「さあ⋯⋯どうでしょうね?」


 僕は焼きあがったクッキーをゲームを楽しそうに遊んでいる2人に差し入れにいくのだった。

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