#096 夏休みの始まり。 王女殿下の来襲!
今日から僕と留美さんは待望の夏休みだった。
留美さんは自由な時間が取れるとのことで全国大会に向けたバスケ部の練習相手に学校へ行った。
きっと体を動かすのが好きなんだな留美さんは。
そして僕は絶賛引きこもりのゲーム三昧に突入するつもりだ。
そんな僕といつも自堕落ライフな姉のところにポラリスのマネージャー坂上さんがやって来た。
「本日はお時間いただき、ありがとうございます」
「いえ坂上さんようこそ、暑いでしょ? 中に入ってください」
こうして僕は坂上さんをリビングに案内した。
「おはようございます、坂上マネージャー」
「おはようございます、栗林さん」
そんな挨拶しあう2人に僕は冷たいレモンティーを出す。
そして僕も座って今後の話し合いが始まった。
「昨日ブルーベル様が日本へ来ました」
「ほう⋯⋯」
「ほんとに海外に住んでたんですね、ブルーベルさんって」
「それでマロンさんとの対決を承諾していただきました」
「ほう受けたか、少しは見どころあるわね」
上から目線だな姉は⋯⋯。
「それで対決内容は私に一任で、ほんとによろしいのですか?」
「いいんじゃないの?」
特にこだわりがない姉だった。
「では私の立てた企画は『レトロゲーム対決3本勝負』です」
「⋯⋯ゲーム勝負?」
「はい。 アリスの姉を決める戦いです、ここはゲームで決めるのがよろしいかと?」
「⋯⋯そうね」
いま姉さん困ってるだろうなー、姉さん言うほどゲーム得意じゃないし⋯⋯。
「ところで坂上さん、どんなゲームで勝負させるんですか?」
僕も気になって聞いてみる。
「ここにはアリス君のコレクションがたくさんあるんだろ? それを使わせてもらおうかと? 構わないだろうか?」
「べつにそれは構いませんが⋯⋯」
ほんとは父さんのコレクションなんだが⋯⋯。
「それで坂上さん! 勝負の日程はいつ!」
「ブルーベル様の都合で明後日以降ならいつでもいいと」
「明後日ね! よしOK。 ⋯⋯で、どのゲームにするの?」
⋯⋯姉さん今から特訓する気だな、セコイ。
「ここは公平性を出す為にマロンさん、ブルーベル様、そしてアリス君が1本ずつ決めるのはどうでしょうか?」
「私が決めていいの?」
「僕も決めるんですか?」
「ええ、ブルーベル様にも決めてもらうので後で候補になるコレクションの種類を見せてもらっていいかな?」
「ええ、いいですよ」
この後僕は坂上さんに100本以上あるファミステのソフトを見せるのだった。
そしてそのコレクションを姉も見て──、
「あ⋯⋯私コレにするわ」
そう1本のソフトを選んだ。
「
「うん、やったことあるし」
たしかに姉はゲームがそれほど得意じゃない。
でもまったくしなかったわけでもない。
なぜか姉は気に入ったゲーム数本だけを延々やり込むタイプだった。
その選んだソフトはその中の1本である。
「久々だし練習したい、あとで相手してアリスケ」
「OK姉さん」
そして話はまとまった。
日時は明後日。
場所はここだった。
つまりブルーベルさん本人がここへ来るという事だ!
「それでよろしいでしょうか?」
「いいわ」
「それでは、よろしくお願いします」
こうして簡単な打ち合わせが終わって坂上さんは帰った。
「よーし! あの覆面女を迎え撃つわよ!」
「まあ頑張ってね、姉さん」
「おう!」
つまり勝敗は僕とブルーベルさんの選ぶゲームに掛かっている。
⋯⋯なんにしようかな?
この後僕は、いろいろ検討するのだった。
そして久々に姉とゲームで真剣勝負したが⋯⋯うん、やっぱ卑怯だよ姉さんは!
最初はトントンだった勝率だが勘が戻って来た姉に圧倒されるようになる。
「よーし! このゲームでならアリスケにも勝てるし、これは勝ったな!」
⋯⋯なんだろう?
このまま姉を勝たせていいのか悩む僕だった。
そして2日たった。
今日はこの家にブルーベルさんが来るのだ!
一応留美さんと映子さんには席を外してもらっている。
今日はこの僕たち姉弟だけでブルーベルさんと会うのだ。
「で⋯⋯アリスケは会うの?」
「うーん⋯⋯やっぱり会うのが礼儀かなと?」
「まあアンタがそれでいいなら、それでいいけど」
そんな話をしていたら坂上マネージャーから電話があって、すぐに来るとの事だった。
「⋯⋯なんか緊張してきた」
相手はなんか外国の女の人なのだ。
ニコチューブでの動画で見たら日本語は完璧だから心配は要らないけど⋯⋯。
ピンポーン!
「来た!」
「来たか」
姉はデンっとソファーに座っているので僕が玄関を開けた。
そこにはいつもの坂上さんと⋯⋯金髪のイケメン男が居た!?
「ようこそ⋯⋯いらっしゃいませ」
「今日はよろしくお願いします」
そう言って坂上さんは連れてきた人たちを紹介する。
「こちらはブルーベル様の付き人の──」
「セバスチャンだ」
そう気負うことなく普通に自己紹介する金髪の男だった。
⋯⋯カッコいい男の人だな。
なんていうかザ・執事という感じである。
そして男たちの陰に隠れていた女性が挨拶する。
「初めまして、私が『マスクド・ブルーベル』です」
その女性の姿に思わず息を飲む。
確かに外国の人だとは聞いていたけど⋯⋯銀髪だ!
リアル銀髪を始めて見た!
こうして見ると確かにアリスの姉っぽい。
アリスより髪の毛が長いせいでお姉さんっぽいのだ。
「⋯⋯どうぞこちらへ」
「ありがとう」
そう言ってブルーベルさんは僕たちの家に入ったのだった。
僕はみんなをリビングに案内する。
「アンタがブルーベルなの? ⋯⋯今日は覆面はしてないのね」
そう姉が聞く。
あんな覆面いつもしていたらただの不審者だし⋯⋯。
「⋯⋯謝罪をするのに顔を隠すというのは無礼かと思いまして」
⋯⋯てことは普段もマスクしてるのか、この人?
「マロンさん。 この度は貴方様の妹のアリスに失礼して、申し訳ありませんでした」
そう謝罪したブルーベルさんだった。
「⋯⋯真樹奈よ。 私の名前は栗林真樹奈。 アリスの姉です」
「私はリネット・ブルースフィアと申します。 真樹奈さん」
そしてリネットさんは姉に促されてようやく席に着いたのだった。
「あの⋯⋯貴方たちも座ってください」
そう僕が勧めたが⋯⋯。
「いや結構。 私はリネット殿下の執事。 このままでいい」
そう完璧な執事ムーブで返してきた。
「殿下? そういうキャラなのリネットは?」
実は姉も僕もブルーベルさんの事は詳しくない。
動画アーカイブからわかるのは重度のアニメや特撮オタクだという事くらいだ。
一応ブルーベルのキャラ設定では、天空の城の天使のお姫様だから『殿下』という愛称がファンから付けられている、と⋯⋯この時まで思っていた。
「キャラといいますか⋯⋯王族なんです。 地球の裏側の大西洋に浮かぶ小さな島国のですが⋯⋯」
「「⋯⋯は?」」
僕と姉は坂上マネージャーを見る。
「そうだったんだ⋯⋯私も最近知ったばかりなんだ」
そして執事のセバスチャンさんがドヤ顔で宣言する!
「その通り! このお方こそ我がブルースフィア公国第三王女、リネット・ブルースフィア殿下であらせられる!」
「そうなんです」
やや困ったように説明するリネットさん⋯⋯いやリネット姫だった。
「「⋯⋯マジ?」」
僕と姉はさすがに固まる。
「ああ、気にしないでくださいね。 こんな他国で王権を振りかざす気はまったくありませんから! 私たち同じVチューバーですから!」
どうするんだろう姉さんは?
こんなのに喧嘩売って⋯⋯?
さすがに僕でも不安になる。
しかし姉さんは⋯⋯。
「アンタがどこのお姫様か知らないけど、そんなのは関係ない。 アリスの姉として負ける気はないわ!」
そう堂々と啖呵を切る姉だった。
「⋯⋯私だって負ける気で来たわけじゃありません。 真樹奈さん、正々堂々とお互い『アリスの姉』として今日は戦いましょう!」
そう僕の前で2人は握手を交わすのだった。
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