第5章 青い空と海の島から来た正義の姫君

#090 それは新しい冒険の始まり

 7月15日の朝、それはアリスケが16歳になった朝だった。


「起きて! 起きなさいアリスケ君!」

「ふわぁ!? ⋯⋯留美さん?」


 僕を起こしたのは母親ではなくて留美さんだった。


「早く用意しないと遅刻するわよ!」


 僕はあわてて時計を見たらもう7時を回っていた!?


「ヤバい、早く学校の用意しないと!」


 幸い学校の用意は昨日のうちに全て終わっているので後は朝食くらいである。

 僕と留美さんはリビングに出た。


 ⋯⋯そこはまさに阿鼻叫喚な乱痴気騒ぎの後だった。


「うわあ⋯⋯」

「私が起きた時にはもうこうなっていたわ⋯⋯」


 昨夜、深夜に同じVチューバーをやっているシオンとみどりさんがやってきて、それから僕の誕生日パーティーとなった。


 だが僕と留美さんは今日も学校があるので2時半くらいで休ませてもらった。

 しかし残りのメンツは意気投合して朝まで麻雀大会だったはず⋯⋯。


「⋯⋯シオン、生きてるか?」


 そのへんでうつ伏せになって寝ているシオンを起こすが⋯⋯、


「うへへ⋯⋯もう駄目だよ、エッチなのはさあ⋯⋯」


 そう寝言を寝て言うシオンだった。


 そんなシオンは今は学生服姿だった。

 きっと麻雀での罰ゲームの結果なのだろう。


「そういやシオンは母さんにボコられてたな⋯⋯」


 むかし記憶を失う前の紫音少年は僕の家で麻雀をしたことがあったが、母に何度も振り込んでいたのだった。


「⋯⋯麻雀弱かったのを忘れてたんだな」


 きっとこの学生服までに何度もエロいコスに着替えさせられたんだろうシオンは⋯⋯。


 ⋯⋯あとで姉さんに見せてもらおう!

 姉の事だから絶対スマホで写真撮ってるハズだからな!


 他にもビキニアーマー姿の映子さんや、バニーガール姿の緑川まどかさん。

 あと⋯⋯メイド服の姉⋯⋯。


 それらを放置して僕と留美さんは冷凍ピザの残りとかを食べて朝食を済ますのだった。


「じゃあ行ってきます!」

「行ってきますね!」


 そんな僕らに返事を返せる人は誰も居なかった。

 みんな爆睡中だったので⋯⋯。


 通学路で僕と留美さんは⋯⋯。


「留美さん眠くない?」

「わりとすっきりしている。 ⋯⋯でも休み時間には寝る」

「だよね。 ⋯⋯僕も寝よ」


 こうして今日はスマホでエゴサなどしないまま、なんとか授業をやり過ごすのだった。




 そして辛い授業を終えて家に帰還すると⋯⋯。


「ただいま。 ⋯⋯あれ? 誰も居ない?」

「でもみんなの靴はあるわね?」


 見るとまどかさんやシオンはまだ在宅しているようだった。

 家の中に入ると⋯⋯、


「あれ? 姉さんの部屋、配信中になってる?」


 それでスマホでニコチューブを見てみると、どうやら姉のチャンネルでマロン・エイミィ・ネーベル・みどりの4人でコラボしていることがわかった。


「⋯⋯邪魔しちゃ悪いか」


 そう思ってとりあえず「ただいま」のラインだけ送った。


 そして留美さんがシャワーを浴びている間に僕は夕飯の支度をしておく。

 今日は6人分か⋯⋯。

 大変だがやりごたえはある仕事だ。

 今日の夕飯のメニューはシチューにムニエル、そしてご飯をいっぱい炊いておくことにした。


 シチューを煮込みながらご飯を炊いてる頃に留美さんもお風呂上がりだった。

 最近こうしてお風呂上がりの留美さんを見るのがたまらなくドキドキする!

 年頃の少年には致し方ないのである。


「アリスケ君、なにか手伝おうか?」

「そうだね、後は魚に火を入れるだけだからもう少しだけゆっくりしてて」

「わかった」


 今日の僕と留美さんはどちらも配信はお休みだった。


 ロールプレイング・アドベンチャーワールドのベータ版の配信はとりあえずひと段落したし。

 あそこから先のストーリーはまだ解禁されていないのだった。

 後はいくつか残っているフリークエストの実況くらいである。


 僕と留美さんは宿題を片付けながら話す。


「いい宣伝になったかな?」

「えーと、さっき見た木下さんからのメールだと大反響だったみたいよ?」


 僕は留美さんのスマホを一緒に見せてもらう。


 あ⋯⋯近い、留美さんの顔が!

 それに風呂上がりのいい匂いが!?


 そのスマホにはベータ版実況の成果がどのくらいかを書かれたメールが映っていた。

 ⋯⋯てか留美さんのスマホを見せてもらわなくても自分のスマホを見ればよかったじゃないか!


「⋯⋯ごめん留美さん、女の子のスマホ覗き込むなんて失礼を」

「べつにいいけど? アリスケ君に隠すようなスマホじゃないし?」


 ⋯⋯とりあえずスマホにぶら下がっている黒猫のストラップと、待ち受け画像の『ボクのメイド服姿の写真』は留美さん的には恥ずべきものではないらしい⋯⋯。


 そんな雑談をしながら勉強をしていると⋯⋯。

 シオンが姉の部屋から出てきた。


「あ、おかえりアッ君にるーちゃん」

「ただいまシオン」

「こんにちは」


 てか知らない間にシオンのやつ留美さんを『るーちゃん』呼びだと!?

 ⋯⋯う⋯⋯羨ましい!


 僕も配信ではアリスとしてなら『ルーちゃん』と平気で呼べるが、私生活で気楽に『るーちゃん』とはとても呼べない。


 その壁をいともたやすくシオンの奴は⋯⋯まあ同性だし、その辺の垣根は低いんだろうなきっと。

 やっぱり女の子に生まれればよかった、などとちょっとだけ思う僕だった。


「ところでシオン、まだ学生服着ているのか?」

「それウチの学校の制服よね?」


 姉がいつの間にか購入したコレクションだな。

 ⋯⋯いい歳してなに買ってんだか。


 まあ目的は映子さんに着せるつもりで買ったんだろう。

 あの映子さんのナイスバディで見慣れたウチの制服もいかがわしいものに変るからな。

 当然いつもの留美さんの制服姿は健全です。


 そんな制服は少しばかり体の小さなシオンにはブカブカだった。

 でも袖のところは指先がちょこんと出ているいわゆる『萌え袖』であり悪くない。


「もしも事故に遭わなければこうして普通に学校に通ってたのかな? とか思ってね」


 なんだかんだでシオンの奴は学生気分を楽しんでる様子だった。

 なら姉のコレクションも無駄じゃなかったな。


「そうね、紫音さんは私たちの先輩だったのかもね」

「そうだぞ、私は君たちのお姉さんなのだ!」


 その身長は僕や留美さんより低いけどな。

 ⋯⋯でも胸は留美さんより大きい。


 そうこうしていると姉たち全員が部屋から出てきた。


「おかえりアリスケ、るみるみ!」

「ただいま姉さん。 配信は終わったの?」

「とりあえず前半は!」

「⋯⋯? 前半?」


 なんかのイベントでもやってたんだろうか?


「桃鉄やってた」

「ああ、『桃色の人生鉄道ゲーム』か⋯⋯」


 通称『桃鉄』というこのゲームは、4人までプレイできるスゴロクの人生ゲームである。

 別名『友情儚いゲーム』とも呼ばれる裏切りの人生ゲームである。


「で⋯⋯だれが『キングビンボー』なの?」

「⋯⋯私よ」


 手を上げているのは、お客様の緑川まどかさんだ。

 Vチューバー風巻みどりさんの中の人である。

 昨夜突然やってきて仲良くなったばかりの人である。


「たく⋯⋯マロンもエイミィもしっかり協力しやがって! もっと裏切りあえ!」


 うわ⋯⋯人生のダークロードに堕ちているな⋯⋯。


「どんな状況なのシオン?」

「私はとんとん、マロねえとエロフさんは組んでて、みどりんはビンボー」


 うわあ⋯⋯やりたくねえ⋯⋯。

 てかシオンの奴『マロねえ』とか『エロフさん』とか呼んでんの?


「ちょっとネーベル! 私の事を『エロフ』と呼ばないでよ!」

「だってそんなにおっぱい大きいエロいエルフなんだし、仕方ないじゃん」


「だったらネーベルだってロリ巨乳じゃない!」

「ロ、ロリじゃないもん! ⋯⋯おっぱいは大きいけど」


 ⋯⋯さて、そろそろ魚を焼くか。

 何となく危険を察知して僕は逃げた。


 僕は大騒ぎな人々から目を背けて夕飯の支度に戻るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る