#073 二つの贈り物

「ただいまー」


 僕が家に戻るとそこには⋯⋯。


「あら、おかえりなさいアリスケ君!」


 ミニスカメイド姿の映子さんが居た。


「映子さん、その恰好は?」


「えへへ、真樹奈がどうしてもって言うから! くるん♪ どう? 似合うかしら!」


 ⋯⋯確かに似合っている、でもいろいろアブナイメイド服だった。

 前にメイドの遊美さんが遊びに来て以来姉は⋯⋯、


「メイドさんっていいよね」


 と、すっかり気に入ったらしい。

 それで映子さんにメイド服を着せて遊んでいるのだろう。


 こういう改造メイド服も良いが、やはり僕はクラッシックなノーマルメイド服の方が好みだ。


 やはりメイドは職業だと思うからだろう、なので今の映子さんのようななんちゃってメイド服からはただのコスプレという印象しかない。


 ⋯⋯まあ似合ってて、エロかわいいからいいんだけど。


「おーアリスケ、おかえりー」


 そこにはミニスカメイドの映子さんを眺めて楽しむダメ姉が、ゴロゴロ寝転がっていた。


「楽しそうだね、ねえさん」

「うん、私はいつも楽しい」


 まあわからんでもない、メイドは男のロマンだからな⋯⋯姉は女だけど。


「そうそう、もうすぐ木下さん来るみたいよ」

「さっきそこであったよ⋯⋯もう帰ったけど」


「帰った?」

「うん、コレ渡すためだったみたい」


 そう言って僕はさっき渡されたUSBメモリを見せる。


「なんかのデータ?」

「今夜から使ってって言われたけど?」


「使うってアンタまさか⋯⋯えっちい画像とかじゃないわよね?」

「木下さんがそんなの持ってくるはずないだろ⋯⋯」


 なに考えているんだ、姉は⋯⋯。


「ところでアリスケ、あんたが学校行っている間にコレ届いたんだけど?」

「コレ?」


 見るとそこには大きな青色の花束があった。


「ほい! メッセージカードも付いてたよ」

「⋯⋯なにこれ? まさかストーカーじゃないだろうな?」


 僕はストーカーを連想して前科のある映子さんを何となく見る。

 するとそこには機嫌よさそうに夕飯の支度をしている映子さんの姿があった。

 その為にメイド服に着替えさせたのか?


「映子さん、夕飯作ってくれているんですか?」


「ええそうよ、しばらくアリスケ君忙しいからって真樹奈に『君の料理が食べたいんだ、ハニー』⋯⋯なんて言われちゃってね!」


「ふ⋯⋯バラすなよ映子、恥ずかしいだろ」


 いやかっこつけても恥ずかしいままだぞ姉。


「なんで映子さんに頼んだの? まだカレー残ってるだろ?」

「カレーは2日目よ、でも3日も続くのは嫌」


 我儘だな姉は⋯⋯。

 それよりもこの花束だ、問題は。


「それは安全よ、ポラリスさん経由での届け物だし坂上マネージャーにも確認とったから」


「よく坂上マネージャーの連絡先知ってたね」

「紫音ちゃんから聞いた」


 すっかり仲良しだなシオンと姉は。

 この二人は生活習慣が自堕落なところが気が合うのかもしれない。


 そんな事を考えながら僕はメッセージカードを開く、すると──、




 [たとえ集う星が違えど、あなたが正義を愛する心の持ち主だと知って嬉しいです。 こんどお話しましょう!

 正義の使者『マスクド・ブルーベル』]




「⋯⋯なに、これ?」

「見せて」


 僕は姉にそのメッセージカードを見せる。

 この手紙の相手『マスクド・ブルーベル』さんは知った名前である。

 シオンやみどりさんと同じ『ポラリス』所属のVチューバーなのだから。


「そっか⋯⋯この花が『ブルーベルの花』なんだ」


 スマホで検索してみたら綺麗な青い花だった。

 花言葉は『謙虚な心』か⋯⋯。


 そしてシオンに電話してみる。


「もしもし、シオン?」


 けっこうコール数が多かった、寝ていたんだろうか?


『ごめん待たせて! 何、アッ君?』


「あゴメン、まだ寝てた?」

『いや今はシャワー浴びてただけ』


 ⋯⋯じゃあ今は裸なんだろうか? 気まずい⋯⋯。


『ところで何?』

「いやさっき『ブルーベルさん』から花束が届いて⋯⋯仲よくしようって?」


『ああそれ⋯⋯私も貰ったことある』

「シオンも?」


『ポラリスのVチューバーが揃ってデビューした時だったかな? 私たちみんなその花束貰ったよ』

「そっか⋯⋯シオンはそのブルーベルさんの事詳しい?」


 僕はほとんど知らないのだ、他社のVチューバーだし。


『ヒーローオタクのいい子だよ』

「うん、それは知っている」


 虹幻ズ公式ホームページによると⋯⋯、


 遠く離れた国のプリンセス! 沢山のヒーローが集うこの日本に憧れて来日した。

 目指すは青い空に輝く正義のいちばん星!

 マスクド・ブルーベル! ただいま参上!


 ⋯⋯と、なっている。


『うーん、でもリアルでは会ったことも無いし、コラボもしたことないからな⋯⋯』

「シオンは引きこもりだし、最近までほとんど誰ともコラボもしてなかったからなあ⋯⋯」


『ごめんね役に立てなくて⋯⋯そうだ、みどりんに聞いたら?』

「なるほどみどりさんか、ありがとなシオン」


『じゃあそろそろ切るよ、服そろそろ着たいし』

「あ⋯⋯ごめんな」


 そう言ってシオンとの電話を切った。

 ⋯⋯やっぱり裸だったのか。


 僕にはシオンが女だという感覚がほとんど無い。

 小学生の頃と同じノリで会話できるからだ。


 ⋯⋯でも女だったんだよなあ、こういう時それを強く意識してしまう。

 そんな雑念を振り払って僕はみどりさんに電話する。


『あらアリスちゃん! お電話くれるなんてお姉さん嬉しいわ!』


 ⋯⋯この人、どうもかなり年上っぽい。

 コラボで会話した時かなり古いゲームの事知ってたし⋯⋯。


「えっと、ブルーベルさんの事聞きたくって⋯⋯さっき花束が届いて」

『あら、アリスちゃんはベルちゃんに気に入られたようね』


「気に入られた?」


 一体なぜ?


『たぶんアリスが動画内で「ヒーローになりたかった」って言ったから同族だと思ったんでしょ、ベルちゃんヒーローかぶれだから』


「⋯⋯そんな理由で?」

『悪い子じゃないから仲良くしてあげてね、アリスちゃん』

「はい、わかりました」


 こうしてみどりさんとの電話も切った。

 何かみどりさん⋯⋯母親とか先生みたいな感じだな、やっぱり年長者だなきっと。


 まあVチューバーなんだし中の人の年齢はどうでもいいか。


「なんかわかったの?」

「どうやら僕はヒーロー仲間だと思われているらしい⋯⋯」

「なにそれ、面白すぎる⋯⋯」


 姉は腹を抱えて笑っている、ちくしょう。


「まあ今はブルーベルさんの事は置いとこう。 それよりもこのデータだ、なんだろ?」


 僕は自室のパソコンにそのUSBメモリを差し込む。

 そしてその中身は──!?


「これは⋯⋯凄いや!」


 僕の声に開けっ放しだったドアを通って姉と映子さんまで見に来た。


「どれどれ⋯⋯これは! ⋯⋯やっぱりエッチな画像じゃん!」

「センシティブ! センシティブよ!」


 姉たちは大ウケだった。


「エッチなのは映子さんじゃないですか! コレはエロくない!」

「がーん! エッチって言われたあ~!」

「アリスケ! 映子にホントの事いうのやめてさしあげろ!」


 そしてUSBメモリの中にメモがあったので開いてみると⋯⋯、




 [アリスちゃんへ! 昨日は嬉しかったよ、だからママがんばっちゃった、てへっ。 今日からの配信はこの服を着てね! あなたのママ、オシロンより♡]




 ⋯⋯この人は断じて僕の母親ではない、僕の母は実家で父さんと暮らしている。


 この人は『アリスのママ』だ。

 要するにアリスのキャラデザをしてくれた絵師様である。

 業界ではこういう関係を『ママ』と呼ぶらしい⋯⋯。


「⋯⋯今日からこのアバターで配信するのかー」


 嬉しいような恥ずかしいような。


 突然贈られてきた二つのプレゼント。

 はたしてこれからどうなる事やら⋯⋯。

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