#072 配信終了。 そして現実へ⋯⋯
23時をすでに回っていたボクは今日のゲームはここまでにする。
明日は学校だしね、早く夏休みになって欲しい。
どうやらルーミアもボクと同じタイミングで今日は終了のようだった。
どうやらシオンとみどりさんの学校行かない組はまだ続けるみたいだ。
うらやましい⋯⋯。
「それでは本日の配信はここまでで、明日も18時くらいから再開する予定ですので!」
【おーたのしみ】
【ゆっくり休んでね】
【明日も楽しみです】
【早くワイもやりたい】
「そうですね、本当に楽しかったので製品版ではみんなとも一緒に遊べたらいいですね」
これは別にリップサービスという訳ではない。
このゲームは個人がギルドを作ったり加入することで進める『ギルドクエスト』もあるのだ。
なので各Vチューバーがそれぞれのギルドを率いての対抗戦という企画もあったりする。
そんな予定を楽しみつつ今夜の配信は終わったのだった。
── ※ ── ※ ──
配信が終わり僕はトイレに行く。
すると留美さんも部屋から出てきてタイミングが重なった。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
⋯⋯気まずい、でもここはレディーファーストだ。
それに男の僕の方が耐えられるし⋯⋯。
「先どうぞ」
「ありが⋯⋯いえ、アリスケ君から先に!」
一瞬トイレに入りかけた留美さんが止まった。
「え? いいの?」
「いいから早く!」
なんかわからないけど留美さんの必死の剣幕に押されて先に済ませることになった。
まあ男の僕の方が早く終わるし⋯⋯留美さんの合理的判断だと言える。
「ふー終わったよ、留美──」
最後まで言い切れずに僕を押しのけて留美さんがダッシュでトイレに籠ったのだった。
⋯⋯留美さんも限界だったんだろう、それなのに先を僕に譲るなんて⋯⋯。
でもトイレから出てくるところを見られるのは気まずいだろうし、僕はこの場を離れるのだった。
── ※ ── ※ ──
「私が使った直後にアリスケ君が入るなんて、絶対イヤだし⋯⋯」
私はそんななけなしの乙女の意地が決壊せずにホッとしていたのだった。
── ※ ── ※ ──
朝起きた僕はいつもより簡単なお弁当を作って朝食は昨日のカレーで済ませた。
なお姉と昨夜も泊まった映子さんは今も爆睡中である。
こっちはほっとこう⋯⋯構うと遅刻するし。
今日は留美さんと一緒の時間に登校する。
その通学路でスマホで昨日の配信のエゴサーチをする。
「けっこう評判よかったね」
「そうね」
留美さんも自分のスマホを見ていた。
どうやら同じ記事を見ていたのだろう。
[ルーミアとアリス、同じベッドで一夜を共に過ごすw]
という記事を見てお互いなんだか気まずくなった。
「あははは! シオンの奴。 あれから5時間もレベリングするとか、よくやるよねー」
なんだか不自然な話題だった。
「⋯⋯アリスケ君は、ゲームに詳しいネーベルさんと一緒だと楽しいの?」
「え? 楽しいけど?」
「⋯⋯そう」
あれ? どうしたんだろう留美さん?
でもそうこうしているうちに通学路は分岐に差し掛かった。
ここは右に行っても左に行っても学校までの距離は変わらない。
なので僕らはここで別れて別々に校門を通るのがこれまでの習慣だった。
「じゃあ今日は僕はこっちに⋯⋯」
その時留美さんが一緒について来た!?
「⋯⋯今日からは私もこっちにする」
「どうして? 一緒のところ見られると⋯⋯」
「困る? アリスケ君は? 私は構わないよ」
「⋯⋯まあ留美さんがそれでいいのなら」
僕みたいな陰キャが一緒のところ見られて留美さんの名誉が傷つかないか心配だが⋯⋯でも優しいな留美さんは。
こうして今日から僕たちは一緒に校門を通るようになったのだった。
── ※ ── ※ ──
「!? ⋯⋯留美と栗林君!?」
私は見てはいけないものを見てしまったのかもしれない⋯⋯。
「おはよー智香」
「智りんおっす」
「おっ⋯⋯おはよう由愛、華恋!」
「あれ驚かせた?」
「智りん慌ててちょーウケる」
「えーナンデモナイヨ」
「なんでカタコト?」
「怪しいな言え!」
「えっと急がないとダアーッシュ!」
私はその場を逃げ出した。
「なにあれ?」
「あやしい」
うー、やっぱり隠した方がいいよね?
でも留美は隠す気あるの?
どうしたらいいのよ、私は!
キンーコンーカンーコンー!
そして予鈴が鳴るのだった。
── ※ ── ※ ──
「ふわあぁ~、 ⋯⋯眠い」
結局、昨夜寝たのは0時を回ってからだったからな⋯⋯。
帰ったら配信前に少し仮眠を取るか?
そんな事を考える学校での休み時間、僕はさりげなく留美さんの方を見る。
そこには完璧な美少女が居た。
⋯⋯絵になるよな⋯⋯留美さんって。
黒髪のロングヘア―とか地味な髪型だろう。
でも今の時代ではかえって絶滅危惧種かも?
それと相成って留美さんのピシッとした所作とかが加わり⋯⋯なんか美しかった。
オーラってやつなのかな? 自然と人を引き付けるスターの資質を感じる。
そんな美少女と同居していることになんだか世間に対して申し訳なさまで感じてしまう。
正直⋯⋯今朝一緒に登校出来て嬉しかった。
でも周りの視線が僕に集まらず留美さんに寄っている事にも気がついている。
僕では留美さんに釣り合わない。
「はあぁ~」
ため息をつくとなんだか眠くなってきた⋯⋯なぁ⋯⋯。
── ※ ── ※ ──
「⋯⋯アリスケ君寝ている?」
でも今は休み時間だし、このまま寝かせてあげよう。
昨日も遅かったし今朝だって私よりも早く起きて朝食の支度とお弁当まで作ってくれたのだ。
⋯⋯寝ているアリスケ君って可愛いな。
元々整った顔だし⋯⋯こうして無防備だとなおさら無邪気に見えてしまう。
そんな風に私はずっとアリスケ君を見つめ続けていた。
── ※ ── ※ ──
「確定かな? これは⋯⋯」
留美と栗林君とクラスメートである私はそんな感想だった。
「どういう関係? いつから?」
私は思い出す⋯⋯しかし栗林君の記憶は不自然なほどなかった。
その反面留美の記憶は入学当時から鮮明に残っているのだが⋯⋯。
バスケの時の応援や差し入れから考えて⋯⋯それ以前からのお付き合い? なのだろうか?
でも⋯⋯。
「完全に留美の片思いって感じだよねえ⋯⋯」
それなのに栗林君が留美を気にかける理由がわからないのだ。
⋯⋯ある仮説を除いて。
私はほとんど栗林君の声を聴いたことが無い、だから確信できないのだ。
でもそんな事ありえるだろうか?
もしも栗林君の声が私の
あの留美が! ルーミアちゃんだって確定してしまう!
⋯⋯あの留美が。
⋯⋯語尾に「にゃん♪」とか言ってるんだよ!
だめ⋯⋯そんなの耐えられない⋯⋯。
私はそんな疑惑を確かめたいような知りたくないような、複雑な気持ちだった。
「もう少しだけ⋯⋯様子を見よう」
結局私もヘタレだった。
── ※ ── ※ ──
下校時間になった。
僕はざっと冷蔵庫の中身を思い出し、今日はまだ補給の必要はないと判断して直帰することにした。
留美さんはなんか買い物したいとかで別行動だ、一緒に行けばよかっただろうか?
うちの学校では緊急連絡もあり得るため、スマホの持ち込みは許可されている。
ただし使用許可は休み時間だけだが。
それ以外は校内では使用禁止だったため校門を出たところで僕はスマホのチェックを始めた。
「シオンのヤツ⋯⋯寝ているな、コレは完全に」
Vチューバーのネット記事によると朝方までレベリングしていたらしいし。
こうしてシオンからまったくラインが入っていないことを確認していると──、
着信があった!
相手は⋯⋯木下さんだった?
「はい、有介です」
『有介君? 今どこ?』
「下校中です、今校門を出たところ」
『それならちょうどよかった、そのままそこで待機していて!』
それだけ言って切れた。
⋯⋯なんだろう?
まあいいかとその場で木下さんを待つことに、すると1分もしないうちにあの特徴的なV8エンジンのサウンドが聞こえてくる。
僕の目の前で木下さんの真っ赤な外国製のスポーツカーが止まった。
相変わらずカッコいい車だ、やかましいけど。
それを乗りこなす木下さんもカッコいいキャリアウーマンだ、独身だけど。
木下さんは車の窓を開けて手招きする。
「乗ってちょうだい、 有介君!」
「はい」
家まで歩けば10分くらいなんだけど⋯⋯まあいいか。
そして僕は車に乗ってシートベルトを締めると──、
木下さんは急発進した!
0から制限速度まで一瞬で加速する早業だった⋯⋯。
このGは⋯⋯たまらん!
そして1分に満たないドライブが終わってマンションの前に着いた。
まるでジェットコースターだな⋯⋯。
「ありがとうございました」
「有介君、これを持って行って」
「⋯⋯? 何ですかこれは?」
それは1個のUSBメモリだった。
「ほんとはそれを直接マンションまで持っていくつもりだったけど、ここで渡せて時短になったわ」
「そうですかそれは⋯⋯ご苦労さまです」
「今夜から
「使う?」
最近の木下さんは忙しそうだからなポラリスとのコラボも増えて。
こうして僕は木下さんをここで見送ってから、マンションに入るのだった。
この『贈り物』が何なのか、まだ知らずに⋯⋯。
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