#033 ルーミアのジェネシック昔話 その2「真説 シンデレラ」

 その国では毎年王子様が婚約者を探す、舞踏会が催されていました。

 そしてそんな舞踏会が行われるお城が見えるお屋敷で、一人働くメイドロボが居ます。

 そのくすんだみすぼらしい見た目から、灰かぶりの人形『シンデレラ』と呼ばれていました。


「今日も一人でボクはお屋敷のお掃除⋯⋯ああ、あのお城の舞踏会。 一度でいいから見てみたいです」


 そんなシンデレラに叱責が飛びました。


「あらシンデレラ! 掃除もせず止まって何をしているのかしら? まったく油でも切れたのかしらね!」

「ボクの動力は油ではありません、お嬢様。 こう見えても古代の技術の永久機関内蔵です」


「だったら砂漠で400年くらい働いて、緑化推進でもしてきたらどうかしらね! 好きでしょあなた農業が!」

「ボクは趣味でガーデニングはしてますが、けしてファーマーではないのです」


 このようにお嬢様はこのメイドロボに辛く当たります、なにか嫌なことでもあったのでしょうか?


「まあいいわ。 これから私はお城で王子様とダンスをするの! そして玉の輿よ!」

「それは⋯⋯おめでとうございます」

「でもアンタは連れて行かないわ、だってロボットだもんねアナタは」


 こうしてシンデレラに嫌味を言ってお嬢様は、お城へと向かうのでした。


「行ってしまいましたね、お嬢様は。 さあ、お掃除お掃除」


「くくくっ。 古代のオートマタがそんな埃を被って、嘆かわしい」

「誰です! あなたは!?」


 突然シンデレラの前に怪しげな魔女が現れました。


「私は魔女だよ、ピチピチの17歳のね」

「いやそんな情報はどうでもいいです、それよりなんで勝手にお屋敷に侵入しているんですか? 警察呼びますよ?」

「そいつは待ってくれアバロンの姫よ!」

「⋯⋯あなた、何を知っているんですか?」


「かつて栄華を極めた古代文明アバロンに機械の国があった、その最後の生き残りのオートマタがまさかこんなところで働いていたとはね」

「それがあなたと何か関係あります?」


「実は私はかの国にはお世話になったことがあってね、その恩を返したい⋯⋯どうだ? 何か私の魔法で叶えてやるが?」

「そんな大昔から生きてるんですか? ピチピチの17歳じゃなかったんですか?」

「おだまり! 体はこの若い17歳のまま歳を取っていないんだ! だから17歳なんだよ!」

「まあ別にいいですけどね、どうでも」


「はあはあ⋯⋯それで、何か望みはあるかい?」

「うーん、そうですね。 じゃあお城の舞踏会を見てみたいです」


 そして魔女はニンマリと笑いました。


「お安い御用だよ! チンカラホイ!」


 するとシンデレラの着ていたみすぼらしいメイド服が、真っ白なドレスに変わったのです!

 しかもくすんでいた灰色の髪の毛も、鮮やかな白銀に戻っていました!


「これはロールアウトされた頃のボクの姿!?」

「ひっひっひ。 ちょいと魔法で時間を戻しただけさ」


 今までぎこちなかったシンデレラの動きが良くなりました。


「体が軽い、まるで新品に戻ったみたいです!」

「そいつはよかった⋯⋯(時間遡行魔法の実験は成功だね、あとは微調節だが⋯⋯)」

「じゃあ行ってきますね!」

「ちょっとお待ち!」


 シンデレラは魔女が止める間もなく、お城に向かって走り出しました。

 しかし転んでしまった。


「いててて⋯⋯靴が壊れてしまいました」

「あんたの強力なダッシュ力に耐え切れず、溶けて燃えたんだね⋯⋯それ!」


 魔女の魔法でシンデレラの足にガラスの靴が現れたのです。


「その靴はガラスで出来ている。 ガラスの溶解温度は高いから耐えられるだろう」

「なるほど、そのためにわざわざ材質をガラスにしたんですね!」

「それでもお城まで歩いていくなんて、格好がつかないだろ?」


 さらに魔女は魔法でその辺のネズミを御者に、カボチャを馬車に変えたのです。


「これで大丈夫! さあ、行っておいで」

「ありがとう魔女さん!」


 こうしてシンデレラは一人お城まで向かったのでした。


「くくく、今夜12時が楽しみだね⋯⋯」


 その魔女の呟きは、誰も聞いていませんでした。




 シンデレラがお城に着くと、そこはまるで夢のような世界でした。

 楽団の奏でる音楽、豪華な食事、大勢の貴族たち、それらを照らすシャンデリアの輝き。


 しかしシンデレラはオートマタです。

 貴族にも食事にも興味はありません。

 でもその素敵な音楽だけはシンデレラの心を虜にしました。


「ああ、なんて素敵なワルツの調べ⋯⋯今にも踊りだしてしまいそう」


 シンデレラはそう言いながら、体は勝手に踊り始めていました。

 古代アバロン仕込みのクワドラブルなステップです。

 たちまち周りから注目を浴びてしまいました。

 周りから拍手が降り注ぎます。

 シンデレラはちょっと恥ずかしかったのでした。


「これは素晴らしい舞姫だ。 リトルマイプリンセス⋯⋯私と、一曲踊ってはもらえないかな?」


 あたりがざわめきました!

 その相手はなんとこの国の王子さまだったからです。

 しかしシンデレラはそんな事知りません、興味も無かったのです。


「き──ぃ! なんであんな小娘なんかを王子さまは!」

(あれは⋯⋯お嬢様? どうも王子さまには選ばれなかったみたいですね⋯⋯ざまぁw)


 でもダンスを踊る事には興味がありました。


「では、お相手よろしく⋯⋯王子様」


 この時、静寂に包まれていた会場に王子様のフィンガースナップが響き──、

 楽団の演奏が始まったのです。


 その曲名は、くるみ割り人形より『花のワルツ』です。


 それは夢のような時間でした。

 永遠に続く、まるで時が止まったような時間。

 王子様のリードにシンデレラは合わせます。

 二人の心がまるで一つになったような素敵な時間でした。

 それを見る観客たちも次第にそのダンスに魅了されていきます。

 しかし永遠はない、やがて曲が終わり二人の時間も終わりました。




「キミ⋯⋯素敵だったよ。 今夜のお相手はキミに決めた。 この後、私の部屋まで来るがいい」

「ごめんなさい。 そろそろ帰らないと、お嬢様が帰って来た時のヤケ食い用の夜食の準備をしないと!」


 王子様の引き留めに一瞥もなく、シンデレラはその場を後にしました。


「待ってくれ! 私のリトルプリンセス!」

「ええい、コレもう邪魔! 走れない!」


 そう言ってシンデレラはその場にガラスの靴を脱ぎ棄てて、走り去ってしまいました。

 ⋯⋯全力で。


 その後、舞踏会はお開きになりました。

 なぜなら王子様の婚約者は決まったからです。


「キミを絶対に手放さないよ、マイプリンセス⋯⋯。 必ず探し出して見せる」


 その王子様の手にはシンデレラが残していったガラスの靴が、抱きしめられていたのでした。




 翌日。

 城下町は大騒ぎになりました。

 なぜなら王子様の指揮のもと、シンデレラの捜索が始まったからです。


「街を封鎖する、それぞれの門をマイプリンセスが通った形跡はない。 つまりまだこの街に居るのだ!」


 シンデレラを逃がさないと王子様の執念は燃え上がりました。


「そうだ! この街の女全員に、このガラスの靴を履かせればいいんだ!」


 この王子様の突飛な発想に街中大騒ぎです!


 こうして街中の女たちが広場に集められて、ガラスの靴を履くための列を作りました。

 なお見ただけで違うとわかる女にはガラスの靴を履く事は許されませんでした。

 列を作るのは王子が厳選した少女たちだけです。

 その中にシンデレラも居ました。


「⋯⋯王子様。 そんなにボクの事を必死になって探して」


 何とも言えない感情がシンデレラに生まれます。


「こんなにもボクの事を想ってくださるなんて⋯⋯」


 けっこうまんざらではないシンデレラは案外チョロかったのです。

 シンデレラの乙女回路が胎動を始めました。


 しかし一方、靴の試着の列はドンドン捌けていきます。

 なぜならシンデレラの足のサイズはかなり特殊なサイズだからです。


「ジェットの噴射口のあるボクの足ピッタリなガラスの靴が、人間にピッタリなはずないのです!」


 シンデレラは余裕でした、自分以外選ばれるハズないとたかをくくっていました。


「あと一人でボクの番⋯⋯フフフ、これでボクはお姫様かー」


 そう思っていたその時でした!


「おー! ピッタリだ!」

「なんで!?」


 王子の声が広場に響きました。

 見るとシンデレラの前に居た少女の足にピッタリと、あのガラスの靴が履かれていました。


「そんな⋯⋯あの靴をボク以外が履けるなんて⋯⋯」


 その時シンデレラは気づきました。

 目の前のガラスの靴を履いて、勝ち誇った少女が誰なのかを⋯⋯。


「あなた⋯⋯魔女さん?」

(くくく⋯⋯気がついたようだなシンデレラよ)


 シンデレラの脳内アンテナに魔女の電波が受信されました。


(魔女さんいったいなぜ?)


 二人は声を出さずに電波で会話します。


(シンデレラよ、お前のその容姿なら必ず王子が食いつくと確信していた。 そしてお前が王子様の部屋に招かれた夜の12時に、私とアンタが入れ替わる算段だったが⋯⋯まさかお前が帰ってしまうとは計算外だったよ)

(そんな事考えていたんですか、魔女さん!? 一体何のために!)


(決まっているだろう! この王子とベッドインして既成事実を作って、この国の王妃になるという壮大な計画さ)

(そんな事、企んでいたなんて⋯⋯)


(まあ計画通りではなかったが、これで私が王子の花嫁さ! ご苦労だったねシンデレラ!)

(くっ⋯⋯)


(ほーほっほっほっほ──)


 シンデレラの電子頭脳にウザい魔女の勝ち誇った声のエコーがかかります。

 シンデレラはどうするのでしょうか?


(⋯⋯よくよく考えるとボクは別に王子さまとそれほど結婚する気はないし、どうでもいいのでは?)


 こうしてシンデレラは黙って事の成り行きを見守ります。


(魔女さん、後で口止め料くださいね)

(OKOK! お安い御用よ!)


 そんな舞台裏など気づかずに王子は一人盛り上がります。


「さあ一緒にお城へ。 リトルマイプリンセス⋯⋯?」

「どうしましたか王子様?」


「⋯⋯違う」

「え?」

「違う! 貴様は私のプリンセスではない! 誰だ! 正体を現せ!」


 こう見えても王子さまだって多少の魔法の心得があったのです。

 すると魔女の偽りの姿は元に戻りました。

 そこにはロリ幼女の魔女ではなく⋯⋯自称17歳の美少女魔女が居ました。


「ああ、私の真の姿が⋯⋯でもいいでしょオ・ウ・ジ・サ・マ。 あんなチンチクリンよりも、こっちのボン・キュ・ボンの方が──」

「近づくな! 汚らわしい!」


「⋯⋯⋯⋯あ゛」


 魔女のドスの聞いた声がにじみ出てしまいました。


「そんな醜い脂肪のカタマリを私に近づけるな! 私のプリンセスはどこだ!?」


 なんと王子はロリコンだったのです。

 これが理由でした、王子様が毎年舞踏会を開く事の。

 幼女を愛でる事が真の目的だったのです。


「そんな!? 私の事プリンセスって言ってくれたじゃない!」

「そうか! お前は7年前の女か!」


「たった1年で私を捨てた王子様。 でも私、あなたの為に年齢固定魔法を習得するまで頑張ったのよ! これから若返りの魔法も会得するから!」


「うるさい近づくな、加齢臭が移る!」

「加齢臭⋯⋯ですって?」


「そうだ! 一度歳を取れば人はもう戻れんのだ! あの頃の純粋さに! 魂が老いるからだ!」

「そんな⋯⋯」


 魔女は泣きながらその場に崩れ落ちました。


(魔女さん⋯⋯古代人というのは嘘だったんですか?)

(そうよっ! アンタを騙すただの設定よっ!)


「ふん⋯⋯」


 そして王子とシンデレラの目がバッチリと合ってしまいました。


(ヤバいですね、この人は⋯⋯)


 そう思ってシンデレラは逃走しようとしましたが、捕まってしまいました。


「キミの名前は?」

「えっと⋯⋯シンデレラです⋯⋯」


「そうか! シンデレラか! いい名だ! よし帰ろう!」

「ちょっと、離してくださいよ!」


 そのまま王子に捕獲されたシンデレラは、お城までドナドナされたのでした。


「今日から君が私の新しいリトルマイプリンセスだ⋯⋯」

「ええ⋯⋯」


 シンデレラはその王子にドン引きでしたが、意外と待遇はよかったのです。

 なのですっかりシンデレラはお城の生活に馴染んでしまいました。


 そして王子の毎年の奇行に頭を悩ませていた王と王妃の悩みも解決したのです!

 なぜならシンデレラは歳を取らない、古代アバロンのオートマタだからです。

 けして老いることのない永遠の存在を、ロリコン王子が手放す事は無かったのでした。


「シンデレラ⋯⋯私の永遠のプリンセス」

「⋯⋯まあいっか」


 なんだかんだでシンデレラも、お城の贅沢な暮らしに馴染んでしまいました。

 そして王子さまとシンデレラは、いつまでも一緒に暮らしたのでした。




 死が二人を分かつまで⋯⋯。




 その後、この国の女王になったのはシンデレラでした。

 なぜなら王子はシンデレラだけを愛したために、王家の血を残さなかったからです。

 王子は真実の愛を貫いた筋金入りのロリコンだったのです。


 それから255年後──。


 女王だったシンデレラは自ら退位し、この国は共和国になったのでした。


 その後のシンデレラは女王の重責から離れて、300年来の友となったあの魔女と一緒に世界を旅していたそうです。

 いろいろあったのですが二人は共に永遠を生きる同士⋯⋯仲良くなっていたのでした。


「シンデレラ。 君はどこへ行きたい?」

「すべての場所へ⋯⋯。 ボクたちには時間はいくらでもありますからね」


 魔女とオートマタの旅は永遠に続く⋯⋯。


 おしまい。


 ── ※ ── ※ ──


 原案『シンデレラ』

 脚本:ルーミア


 声の出演

 シンデレラ:アリス

 王子様:ルーミア

 魔女:マロン

 お嬢様:エイミィ

 語り部:ルーミア


 監督:マロン

 AD:アリス

 BGM作成:エイミィ

 企画・制作:ルーミア

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