#032 コラボという楽しみかた
麻雀大会が終わり配信も終了した。
そして残されたのは大きな傷跡だった。
「アハハハッ! アリスケのメイド服姿!」
姉は大爆笑だった⋯⋯ちくしょう!
そして映子さんと留美さんも声を殺して笑っている⋯⋯。
「うわーねえさん、そんな肩パットのビキニアーマーとか昭和の遺産ですね。 それに映子さんのバニーはほんっと目の毒ですね!」
「ちょっと、誰が昭和のオバさんよ!」
「有介君、目の毒って何!? 傷つくんだけど!」
「それにひきかえ留美さんのセーラー服は似合ってるな、やっぱり制服は現役で着てこそですよね!」
「私たちと留美の何が違うってのよ!」
「ねえさんたちはイロモノだってことだよ!」
「イロモノって酷くない!?」
「ぐぬぬ⋯⋯このメイド風情が──!」
「ははは! 悔しかったら留美さんくらい自然に着こなしてくださいよね!」
このように僕らはみんなで醜く言い争うのだった⋯⋯コスプレしたままで⋯⋯。
「⋯⋯セーラー服。 私、似合ってるんだ⋯⋯アリスケ君こういうの好きなんだ」
そんな中で留美さんだけが余裕をもっていて、満更ではないようだった。
そして後は仲直りにみんなで記念写真を撮った。
⋯⋯コスプレのままで。
僕、メイド服。
姉、ビキニアーマー。
映子さん、バニースーツ。
留美さん、セーラー服。
⋯⋯なんだ、この集合写真は?
そして僕は思いっ切って頼んでみた。
「あの留美さん⋯⋯写真撮っても、いいかな?」
「それは私だけで⋯⋯ってこと?」
「うん⋯⋯、もちろん誰にも見せない、約束する!」
「⋯⋯じゃあ私も、
「そんな事でいいなら!」
メイド服姿の僕はよく考えずに重大な過ちを犯したのかもしれない。
こうして僕は人生終了になりかねない弱みを今後、留美さんに握られて生きていく事になった。
ほんのささやかな喜びとともに。
でも⋯⋯まあいいか、この写真の留美さん可愛いし⋯⋯。
「うちの高校はブレザーだから留美さんのセーラー服って新鮮だなー」
おまけに髪型はツインテールである!
留美さんはルーミアとして配信するときはよくツインテールにしているのだ。
「学校ではストレートだったりポニーテールだったりだから、セーラー服でツインテールなのがまるで別人みたいだ」
「おーどれどれ⋯⋯うん、可愛いよ留美。 今度この格好で学校へ行きなよ」
「さすがに学校でツインテールは恥ずかしい。 それに他校の制服だし」
うんうん、留美さんは何着ても似合うからね。
「でもセーラー服もいいですよね⋯⋯アリスケ君がこんなに喜ぶとは思わなかったけど」
なんかジト目で見られた⋯⋯。
「まあ珍しいだけだよ。 今の高校がセーラー服で、そのコスプレがブレザーだったとしても同じ反応だったんじゃないかな?」
「なるほど、いつもと違うからか」
「ねえさん達のはただのコスプレだけど、留美さんのはなんて言うか現実的で⋯⋯妙にこそばゆい⋯⋯」
「ふーん」
留美さんはなんか上機嫌だった、ちょっと照れてるのがホント可愛い⋯⋯。
「じゃあさ留美、そのセーラー服はアンタにあげる」
「え? いいんですか? 大事な思い出の服なんじゃ?」
「いいのいいの。 どうせもう私は着れないし」
「⋯⋯そういえば、あんまりブカブカじゃない? 真樹奈さんの服なのに?」
そう言えば胸のサイズがそこまでブカブカじゃないな⋯⋯。
「私の場合、高校で一気に大きくなった。 だから留美もこれからこれから!」
「へー、⋯⋯そうなんだ」
留美さんがちょっとだけ、ニヤケている⋯⋯。
⋯⋯ねえさん、留美さんに変な希望を持たせるなよ。
留美さんの胸は今はそれほど大きいわけじゃないけど、高校1年生だと思えばそれほど小さいわけじゃない。
むしろ『留美さん』という感じのナイスサイズなのだ。
スタイリッシュ&スポーティーで美しいのだ。
そんな留美さんが将来、姉や映子さんのように大きく成長してしまったら⋯⋯まあ、それもアリか⋯⋯。
姉のモノが大きかろうが小さかろうがホントどうでもいいが、映子さんの存在感には時々目が行ってしまう。
なんだかんだで僕は大きい方が好きだし⋯⋯。
⋯⋯きっとバレてるだろうけど、みんなスルーしてくれている、やさしい世界だここは。
女性はみんな大きいのに憧れるというし、まあ応援しよう留美さんのこれからの成長を⋯⋯。
「アリスケ⋯⋯、アンタなんか考えてない?」
「別に?」
いちいち鋭いな、さすがねえさんだ。
そして個別の記念撮影も終わってようやくコスプレ解除になった。
「はいねえさん、これ返すよ」
そういって僕は畳んだメイド服を姉に返す。
「どう? 女装した気分は?」
「うーん? ここでならなんかいいかと思ったけど、外では絶対やりたくない」
「ならよかった、アリスケが変な趣味に目覚めないで」
「あら、有介君は女の子になりたいんじゃなかったの?」
「そんな風に思ってたんですか映子さんは? 女の格好はVチューバーだけでいいですよ」
「そうだったんだ」
「アリスケは女に生まれた方が人生楽だったと思ってるだけよ」
「なるほど⋯⋯その声じゃね」
「アリスケ君が女だったら私⋯⋯何も勝てないんじゃ?」
⋯⋯留美さんは可愛いけど、あんまり家事が得意じゃないからそう思うのだろうか?
「みんなは僕が女だったらどう思う?」
「「「お嫁さんに欲しい!!!」」」
⋯⋯即答かよ!
嬉しいけど男としては微妙な評価だな。
「みんながもし男だったら⋯⋯、ねえさんはピッタリだし、留美さんはイケメンだし、映子さんは⋯⋯うんヤバい人だな」
「ちょっと、誰が男みたいだって!」
「へー、私のことカッコいいと思ってるんだ⋯⋯」
「ヤバい人って何よ!? ちょっと真樹奈の周りをうろついていただけで!」
結局また醜い言い争いになってしまった。
でもなんだろうな、凄く楽しい。
こんな風に思いっきり声を出して言い合える人が傍に居ることが、こんなにも嬉しい。
こんな思いは小学生のころ以来だった。
そんな事を思いながらこの日は終わったのだった。
次の日、学校から帰ると先に帰っていた留美さんが悩んでいた。
「どうしたの留美さん?」
その留美さんの前には書きかけの原稿があった。
「ジェネシック昔話の新作?」
「ええ、でもやっぱり無理があるかなって」
「無理? 何が?」
「⋯⋯全部ひとりでするのが」
「モモタロウはちょっと無理やりだったしね⋯⋯」
あの下品なババアの声が留美さんなのは、ちょっとだけショックだった。
将来、あんなふうなババアになった留美さんと一緒に居たくない。
「声優になりたいって夢は今でも変わらないから、こういうの始めたけど⋯⋯やっぱり役に無理があるのがね⋯⋯」
「じゃあ僕らも出ようか?」
「え?」
「僕だけじゃなくて、ねえさんや映子さんも出てくれないか頼んでみようよ!」
「でもこれ、私のチャンネルの事だから」
「たぶん二人は気にしないと思うけど?」
こうして話はいったん終わって、僕と留美さんとで夕飯を作った。
ビーフシチューの匂いが家に立ち込める頃に姉は目を覚まして、映子さんは自作のパンを焼いて持ってきてくれた。
それを一緒にみんなで食べた。
「おー、映子のパン美味しいじゃん!」
「ありがとー、真樹奈」
焼きたてのパンはそれだけで美味い⋯⋯しかしホントに美味しい?
「意外です、映子さんのパンがこんなに上手なんて」
「ありがと有介君。 私は海外での暮らしの方が長いから、あっちでパンはよく焼いたのよ!」
「うーん、意外な特技だな」
「このパンをシチューに浸して食べると美味しいですよね」
こうして満足いく夕飯の後、留美さんは切り出した。
「あの⋯⋯お二人に頼みたいことがあるのですが?」
「ん⋯⋯なになに」
「どうしたの、あらたまって?」
「私のコンテンツの昔話⋯⋯お二人も出てもらえませんか?」
「留美のアレ?」
「楽しそうね!」
「留美さん一人だと辛そうだったから僕も出てみようかと思ってるんだけど⋯⋯二人はどうする?」
「出る出る、面白そうだし」
「私でよければ」
「その⋯⋯ありがとうございます」
「気にしないの! 一緒に暮らしてんだから助け合わないと!」
「一緒に何か出来るのって楽しいよね!」
「⋯⋯」
「ねっ。 言ったとおりだったでしょ?」
「それで留美、今度の話はどんなの?」
「えっとですね⋯⋯」
こうしてこの日は、夜が更けるまで打ち合わせが続いたのだった。
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