#031 決着!『着衣麻雀』勝負!

 ボクらの麻雀勝負は姉の『燕返しオープンリーチ』で始まった。

 そして次順、エイミィの自模は⋯⋯。


【これがエイミィの手か】

【なんか荒れてね?】

【これは農業で深刻なダメージをwww】


 いや⋯⋯エイミィさんの手荒れの原因は、最近始めた料理の練習と管理人業務のせいだからね。

 けしてファーマーのやりすぎで荒れたわけではない。


 そして何事もなくエイミィは自模した牌を切った。

 次はルーミアだ。


【綺麗な手だな】

【これがルーミアのお手て】

【すべすべの若さw】


 まあ15歳の高校生だからね⋯⋯、いちおう中の人は20歳以上というフリをしているが。

 そのルーミアは自模った牌を残して、手牌から切った。


 そしてボクのターン!

 ここでボクのイカサマ発動!

 不要な牌を握ったまま自模に行く!

 そしてそれを置いてきて2牌取る!

 これぞボクの奥義『握り込みギリ』だ!


「あ!」


 姉は気づいたようだったが、もう遅い!

 持ってきた牌は既に手牌に溶け込んでいて、証拠はもうない。


【アリス容赦ねえw】

【ひどいイカサマを見たwww】

【手慣れてて草w】


 そしてボクは手牌から切ってターンを終わる。


「さあ⋯⋯次どうぞ、ねえさん」

「くそ⋯⋯さっきからアコギな真似を⋯⋯」

「ねえさんが普通にしてたらこっちもヒラで打ってたよ」


 ボクと姉がやたらイカサマが上手いのは家族の影響だった。

 我が家では家族麻雀をよくやっていた。

 しかし⋯⋯あまりにも母が強すぎた。

 そのため努力した結果がコレなのである。


 言っとくけどこれだけやっても母の方が強いんだからね⋯⋯。

 お年玉を守るために手段は選べなかったのだ。


「くそ⋯⋯、致し方ないか」


 そう言いながら姉は自模る、無駄とわかっていても。

 そう、今から姉が自模る牌はボクが置いてきた牌だ。

 当然ハズレである。

 仕方なく姉はその牌を自模切った。


「あ! それポン!」


 ルーミアが鳴いた。

 ルーミアの手が伸びて姉の河から牌を拾う。


 この時、影が出来た。

 ボクは手牌の中の『中』を王牌の端っこと交換した。


 そしてルーミアが切って、またボクのターンである。


「ボクの番ですね」


 そしてボクは山から牌を取ろうと──、

 ガシッっと、姉がボクの手を掴んだ!?


「ふっふっふっ。 その手を開けなさいアリス!」


 しかし開いたボクの手の中に牌は無い。


「え──! なんで?」

「そんな、マロン姉さま。 ボクがインチキするはずないじゃないですか?」


【くっそカマトトぶってるw】

【どの口が言うのかw】


 くっくっくっ⋯⋯全て読み通り!

 このタイミングで姉がボクのイカサマの証拠を掴もうと動くことは読んでいたよ!


 ⋯⋯まあリスクはある。

 このターンの姉の自模をいじれないのだから、上がられる可能性がある。

 だけどそれは低い⋯⋯ならここは賭けだった。


 イカサマをしていなかったボクは堂々と自模って⋯⋯手牌から切った。

 ⋯⋯これでテンパイ!

 でもリーチはかけないよ、事故が怖いからね。


「でもこの牌は操作されてないハズだから⋯⋯南無さん!」


 だが無情にも姉の自模は無駄自模だった。


【ここでもしもマロンが引いてたら終わってたのに⋯⋯】

【やっぱり駄目だなマロンじゃ】


「では次、私の番です」


 そう言ってエイミィが牌を自模ると⋯⋯表情を輝かせる。


「あら4枚目! カン!」


 エイミィさんは牌を4枚倒してから嶺上牌に手を伸ばす⋯⋯。


「おおっ!? また来た! あンた背中が煤けているぜ! またまたカン!」


 ⋯⋯あ!

 エイミィさんはさっきボクが王牌に混ぜた『中』を含む4枚をカンしたのだ。


「これでマロンは上がれない!」


 エイミィさんはご機嫌だった。


「⋯⋯ねえアリス、いいんだよねコレ」

「うん⋯⋯国士だしアリ」

「はい、それ! ロン!」

「えっ!?」


 ⋯⋯やっちまったなエイミィさん。

 麻雀には槍槓という役があるのだ。

 つまりこのカンで姉が上がることが可能なのだ⋯⋯暗槓でも国士無双に限っては。


「エイミィさん⋯⋯やっちゃいましたね」

「さようならエイミィさん」

「うわーい! 勝った!」

「え──!? 何でよ?」


【エイミィ槍槓知らなかったのかw】

【レア役だしな槍槓は⋯⋯】

【ハウスルールだしw】


「はい! エイミィ役満直撃で飛び! さあ、着替えのお時間だ!」

「いやああぁ──!」


 そして姉はエイミィを引きずって別室に籠った。


「みなさま、悲しいお知らせです。 エイミィさんが姉の毒牙にかかってしまいました⋯⋯」

「槍槓を知らなかったばかりに⋯⋯プッ」


【ルーミア笑ってて草w】

【ルーミアも飛べw】


 そして暫くたって──。


「これは恥ずかしいわよマロン!」

「おー、よく似合ってるよエイミィ」


「えー皆様、エイミィさんは今ナース服に着替えて出てきました」

「なかなか公序良俗に反するミニスカナースですね」


 そうボクとルーミアが状況解説をする。

 その横で姉は⋯⋯。


「それじゃあハイチーズ!」

「ええ!? 写真はやめてよ!?」

「大丈夫。 顔は映らないように撮るから⋯⋯それでいいでしょ?」

「うーん、まあそれなら⋯⋯」


 どうやら姉のスマホで記念撮影のようだった。

 手で顔を隠したエイミィさんのコスプレナース写真はかえってエロくなった気がする⋯⋯。


【その写真アップしてくれ!】


「だーめ! これは私だけのだー!」


【えー!】

【ひどい生殺しだ】


「えーと、ここで重大発表があります!」


【なんだよマロン?】


「エイミィのブラのカップは何と!」

「きゃ──っ!? やめてマロン!」


【ほう⋯⋯続けて】


「というのはシークレットですが、今夜私たちがしたコスプレはアバターの新衣装になります!」


【つまりエイミィはエロナースになるのかw】

【なんてすばらしい企画だ!】

【ついていくぜマロン様!】

【頼んだぜ俺たちのマロン!】


「という事はボクたちも負けたらあられもない姿に⋯⋯」

「これは負けられないわね」


 ボクとルーミアは戦慄する⋯⋯。

 こうして修羅の夜は始まったのだった──。


 そして──。


「ロン! リーチ一発タンヤオ三暗刻の満貫!」


 ボクはルーミアにワザと振り込んだ。

 姉の手がヤバそうだったからだ、しかし⋯⋯。


「ドラは無しだから8000止まりで⋯⋯って、あれ!?」


 そこにあったドラ表示牌がスリ替わっていた!?


「くっくっくっ⋯⋯、呆けたのかアリスよ⋯⋯」

「っく⋯⋯やりやがったな、ねえさん⋯⋯」


 姉がドラをスリ変えたのだった、しかも⋯⋯。


「あっ裏も乗った⋯⋯これでリーチ一発タンヤオ三暗刻のドラ8の数え役満ね」


 ルーミアの暗槓4枚すべてが、ドラと裏ドラにすり替えられていたのだ、姉によって。

 チーン。

 振り込んだボクは飛んだ。


「さーて、お着換えの時間よ。 アリスぅ~」

「いやだ──、離せ──!」


【アリスが堕ちたw】

【マロンっもやりおるなw】


「さて⋯⋯、アリスはどんな姿で出てくるのかしら?」

「ちょっと楽しみね」


【ルーミアお前もこうなるんだぞw】

【エイミィ普段の恨みがこもってるw】


「はーい! アリスのコスはこれだ──!」


 ルーミアとエイミィは大爆笑である。


「くそ⋯⋯、こんな辱めを受けるなんて⋯⋯」


【いったいどんな格好なんだ?】

【教えろ早く!】


「えー、アリスは今⋯⋯『セーラー服』で──す!」

「これ、ねえさんの若いころのじゃん! まだ持ってたの!?」

「いやー思い出だから⋯⋯捨てなくてよかったわー」


 これは姉の高校時代のセーラー服である。

 ⋯⋯サイズが合ってしまうのが悔しい⋯⋯もっとボクは身長が欲しいな。


【マロンの若いころwww】

【やっぱマロンババア確定www】

【この姉妹年齢差あるんだ】


 エイミィは指さして笑っている。

 そしてルーミアはこっちを何度もチラ見しながら笑い転げている。

 ⋯⋯ちくしょう。


 この時ボクの中で何かがキレた⋯⋯復讐してやると。


 そこからのゲームは泥沼展開になった。

 裏切りやイカサマのオンパレードで酷い有様だった⋯⋯。


「はい、ロン!」

「ボクもロンです! ダブロンアリですよね、もちろん!」

「当然よ!」

「いや──!?」


 こうしてルーミアも飛んだ。

 目的の為ならボクは姉と手を組むことも辞さない。


「さてアリス。 どんな衣装がいい?」

「こんなのある? ねえさん?」


 ボクはヒソヒソと姉に耳打ちする。


「おーいい趣味じゃん! あるある、任せて!」

「あのマロンさん! あんまりエッチなのは⋯⋯エイミィさんみたいのは嫌なの!」

「ちょっとルーミア! これのどこがエッチなのよ! ただのナース服じゃない!」


 まあエイミィさんが着たら何でもエッチだよなあ⋯⋯。

 こうしてルーミアも別室送りとなり──。


【ワクテカ】

【アリスのリクエストか⋯⋯信じてるぞアリスw】


「ボクはそんな服まで持ってるねえさんが怖いよ」


【マロンの趣味全否定で草www】


「はい! 完成!」

「いや──! 恥ずかしいわよコレ!?」


【いったいどんな格好を?】

【おいアリスはよ言えよ】

【早く】

【いかんw心を奪われているなwww】


「⋯⋯はっ!? みなさんすみません。 ちょっとルーミアの可愛らしさに放心してました!」


 隣ではエイミィさんがバンバン台を叩いて笑っていた。

 そして顔を赤らめているルーミアの衣装は⋯⋯。


「魔女っ子ですよ! みなさん! 魔女っ子ルーミアですよ!」

「嫌ぁ──!? 言わないで──っ!」


 普段のルーミアの衣装は魔女のローブ姿だけど、そこは本格派なシックな感じである。


「普段と違うフリフリのゴシックロリータな感じが素敵です、ルーミア!」

「さーて、記念写真よ!」

「やめて、撮らないで──!」

「それボクにも下さい、お姉さま!」

「おっしゃ任せろ!」

「アリス! あなたって──!」


 こうしてボクらの麻雀大会はグダグダのコスプレ大会になった。

 最後に姉が飛ぶまでに──、

 ボクは2回。

 ルーミアは3回。

 エイミィさんは5回着替えたのだった。


 そして最後にようやく着替えた姉の姿は⋯⋯。


「いや──! ビキニアーマーとか無いわー!」

「じゃあ持ってなきゃよかったのに⋯⋯」

「だってエイミイに着せたかったんだもん!」

「そんなに言うなら後で着てあげても⋯⋯」


【エイミィがw】

【変なとこで喜ぶなw】

【てぇてぇw】


 こうして最後までカオスに盛り上がって『着衣麻雀』大会は幕を閉じたのだった。

 そしてラストにイカサマ禁止で半荘1回だけコスプレしたままのエクストララウンドを行った。

 その結果は⋯⋯姉の優勝だった。


 やっぱりあの化け物母さんとやり合ってきた猛者なだけはあるな。

 ボクは辛うじて2位でルーミアが3位。

 そして最下位ドベはエイミィさんである。


 優勝者の権限で姉はそんな敗北者エイミィさんの記念写真を撮っていた。

 うーん、バニーガール姿のエイミィさんの写真か⋯⋯ちょっと欲しいけどルーミアの目が怖いから黙っとこう。


 収録の最後に今回ボクらのしたコスプレ衣装の中から、アバターの次の新衣装のアンケートを取って終了したのだった。


 いろいろ恥ずかしい思いをしたが終わってみると楽しかった。

 それに⋯⋯セーラー服姿のルーミアを見ることができたしね!

 そんなボクの今の姿はメイド服なのだった。


 このくらいの犠牲は安いもんだよ⋯⋯たぶん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る