#020 挑戦者現る!?

 映子さんの襲撃から3日が過ぎた。

 その日の学校から帰るとマンションの前にその映子さんが居た。


「あれ? 映子さんじゃないですか」

「⋯⋯こんにちは『アリス』」

「その名をリアルで呼ぶのはちょっと⋯⋯」

「そうね⋯⋯ごめんなさい。 有介君」


 この間とはまるで別人の様におしとやかな態度であった。


「それで今日は何の用です? 上がって行きますか?」

「⋯⋯いいの?」

「別に、お客様としてなら大歓迎ですよ」

「そう⋯⋯」


 こうして僕は映子さんを招待したのだった。


「あら? 映子じゃない。 いらっしゃい」

「真樹奈! ⋯⋯入っていいのかな?」

「いいわよ、気にしないで」


 こうしてこの部屋には僕ら姉弟と映子さんの3人になった。

 ちなみに留美さんは今日は買い物当番である、帰ってくるのはまだ先だろう。


「どうぞ」

「ありがとう」


 僕は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してソファーで座ってるみんなに配った。


「それで映子、今日は何の用? 別にただ遊びに来てもいいけど?」

「今日は私⋯⋯勝負をしに来ました! 有介君と!」

「え? 僕と?」


 僕の事を真剣な目で映子さんは見ていた。


「それで勝負とは?」

「有介君の得意なゲームで決着を付けましょう」

「決着って何よ?」


 姉さんはやや呆れたように聞いた。


「決まっているわ。 私と有介君、どっちがここに住むのか勝負で決めましょう!」


 無茶苦茶な提案だった。


「映子⋯⋯あんた。 追い出すのはアリスケなの? 留美じゃなくて?」

「⋯⋯あれから調べたわ。 ルーミア⋯⋯留美さんは家が無くなっちゃったんでしょ? それにお母さんも入院中で⋯⋯それを追い出すなんて酷すぎて、私には出来ない⋯⋯」


「僕を追い出すのはいいのですか?」

「有介君は実家があるじゃない。 そこからでも学校は通えるし配信も出来る⋯⋯」


 たしかにその通りだ。

 実家の姉さんの部屋を使えば僕はそこで配信も出来るし学校へも通える。

 ただ今の環境からすればデメリットしかない。


「映子、あんた馬鹿な事言ってる自覚ある?」


 姉さんの声は冷たかった。


「⋯⋯酷い事言ってる自覚はある。 でも、私もここに住みたいの⋯⋯」


 どうやら映子さんも思い詰めてはいるらしい⋯⋯。


「はー、賭けにならないわね。 アリスケは負けたらここを追い出されるのに、勝ってもメリットが無い」


 問題はソコなの? 姉さん?


「じゃあ! 有介君が勝ったら私の事、好きにしていいから!」


 さらに爆弾発言が飛び出した──っ!


「⋯⋯アリかしらね?」

「おーい、姉さん?」


 マジマジと映子さんの身体を見つめて真面目に何言ってんだ、この姉は⋯⋯。


「なるほど確かに、ここを出ていくか映子を自由にできるかの二択ならアリね⋯⋯」

「アリじゃねえよ!」


 僕は思わず叫んでいた。


「あーごめんごめん。 アリスケは映子みたいなおっきい子じゃなくて、留美くらいのちっぱい子が好みだもんね!」


 ゴトンっ!

 その時何かが落ちた音がした──。


 僕らの背後にはいつの間にか帰宅していた留美さんが居た⋯⋯。

 その手に持っていたハズの買い物袋が落ちている⋯⋯さっきのはその音か⋯⋯。


「留美さん⋯⋯お帰り」

「⋯⋯ただいま」


 それだけ言って留美さんは黙って自室に籠るのだった。


「ちょっと、姉さんが変な事言うから誤解したじゃん!」

「えー! だってアリスケ私の下着姿に何も感じないのに、留美の風呂上りとかチラチラ見てるじゃん!」

「姉さんの下着姿とか今更何とも思うわけ無いだろ!」

「じゃあ留美のは良いんだ!」

「そ⋯⋯それは。 ⋯⋯留美さんをそんな目で見るのは失礼だよ」

「ふーん。 ⋯⋯マセガキ」

「このガサツ姉が!」


「ぷっ⋯⋯あはははははっ」


 突然、映子さんが笑い出した。

 まるで付き物が取れたように──。


「帰る」

「「え?」」


 突然の映子さんの変化に僕ら姉弟はついて行けない。


「心配して損した。 真樹奈と男が一緒に住んでると思っていたら居てもたってもいられなかったのに⋯⋯真樹奈、弟に女扱いされてないじゃない!」


 そう言って映子さんは腹を抱えて笑い始めたのだった。


「じゃあね⋯⋯真樹奈」


 そう言って帰ろうとした映子を僕は引き留めた。


「待ってください映子さん」

「⋯⋯なに有介君? さっきの事は取り消すし謝るわ」

「それはもういいです。 きっと映子さんも思い詰めていたんでしょうし⋯⋯なんか姉さんが全部悪いんです」

「ちょっとアリスケ!?」

「そうね、全部真樹奈が悪い!」


 そう言って僕と映子さんは笑いあった。


「ちょっと何よ、二人して!」


 自覚のない姉の声だけが空しく響いた。


「映子さん、さっきの勝負しましょう」

「やっぱり有介君⋯⋯私の身体に興味あるのかしら?」

「無いです」

「ハッキリ言うわね⋯⋯じゃあなんで?」

「僕も映子さんと仲良くなりたいからです、それにはゲームが一番です」


 僕にとってゲームは孤独を紛らわす物だった。

 でも⋯⋯人と人を繋ぐ力だってあるんだ。


 そして映子さんはUSBメモリを取り出して──、


「受けて立つわ『アリス』」

「勝負です『エイミィ』」


 こうして僕らの勝負が始まったのだった。


 それはそれとして。

 みんなで夕飯を作って食べた。

 正直もうこれだけでも仲良くはなれた気がしたが⋯⋯。


 でも食事が終わるまで留美さんは僕に一言も口をきいてくれず目も合わせてくれなかった⋯⋯。

 なんかすごいショックだった。




 そして夕食の片づけは姉さんと留美さんがして、その間に僕は今夜の配信の準備を始める。


「さて⋯⋯エイミィさん。 この中から好きなゲームを選んでいいですよ?」


 僕はこの箱の中の全てのゲームソフトなら全部クリアできるくらいの腕がある。

 好きなゲームをエイミィさんに選んでもらうのは、せめてものハンデだ。


「うわ⋯⋯いっぱいある? 100個くらいあるかな?」


 元は全部父さんのレトロゲームコレクションなんだが、全部僕がこっちに持ってきてしまった。

 その代わり父さんは最新式のゲーム機でレトロゲームのダウンロード版を買ったり、リメイク作品にも手を出して最近ハマっているらしい。

 くそ⋯⋯これが経済力の差おとなのちからか⋯⋯。


 来月、Vチューバーの初給料が出たら僕も『ファミステ・スイッチ』を買おう。


 そんな事を僕が考えているうちに映子さんは1本のゲームソフトのカセットを選んだようだ。

 そのソフトの名は──。


「この『スパイ&スパイ』での対戦を希望する。 最近スパイ漫画にハマっていてね⋯⋯」

「グッド、いい勝負をしよう!」


 そう言って僕らはお互いに笑いあった。


 どうやら映子さんは漫画が好きな人らしいな、こういう小ネタにも反応するし。

 ちなみにこのゲームの『&』はアンドではなくて何故かバーサスと読む。

 このせいで当時間違って覚える子供が多かったとか⋯⋯。


 こうして僕のパソコンに映子さんのUSBメモリが繋がれて『エイミィ』のアバターがインストールされた。


 今夜の配信まであと⋯⋯5・4・3・2・1⋯⋯0!


「みなさんこんばんはー『電遊アリスちゃんねる』の時間ですよー」


 こうしてボクとエイミィさんの負けられない決闘が始まったのだった!


◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆


エイミィで~す⋯⋯。

ねー聞いてよ、お客様ぁ!

最近マロンがコラボしてくれないのよ~!

ど・ぼ・じ・で~~!? 私なにかしたっけ?


⋯⋯え? 最近マロンの妹がデビューした?

ちょっとそれ詳しく!


コイツのせいでマロンが! 私のマロンがぁ!?


⋯⋯とりあえずこのアリスのチャンネル登録はしておくわ。

敵をまず知るところから始めないとね⋯⋯。


マロンにフラれて傷心の私のチャンネルのフォローと☆☆☆への高評価をお願いします。

いいでしょ! ☆☆☆くらいくれたってさ~! (台バンッ!)


https://kakuyomu.jp/works/16817330649840178082/reviews

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