第1章 導かれしVチューバーたち
#001 そして伝説が始まる⋯⋯かも?
「みなさんこんばんはー、アリスだよ!」
【こんばんはー】
【こんばんはー】
今、モニターの中に短い銀髪の美少女が居た⋯⋯そうボクの事だ。
ボクの名前はアリス。
ちょうど今日でデビュー1年目になるVチューバーだ。
「えーみなさん、今日が何の日か知ってますかー?」
【しらない】
【しらん】
【春の大連休だよ】
「違うよ~⋯⋯イヤ違わないけど。 今日はボクのデビュー1年目の記念日なんだよ!」
【知ってた!】
【ええーそうだったんだ(棒)】
【そいつはめでたい】
「はい! そういうわけで今日は明日までかけての記念配信! ファミステ版『ドラゴンファンタジア3』をやっていきますね!」
【王道RPG来たな】
【無難すぎるチョイス】
【あえてリメイクじゃなくオリジナルをするのかw】
「では、キャラメイク始めるよー」
そしてボクはこのゲームのキャラクターを作る。
今日の記念日にはこのゲームにするって決めていた。
それはこの『ドラゴンファンタジア3』は自由にキャラを作れて旅をするRPGだからだ。
そして今から作るキャラクターはもう決まっている。
「ボク、アリス⋯⋯勇者」
【知ってた】
【転職出来ないニートに相応しい】
「うるさいよ、キミたち~」
次に作るのは前衛キャラだ。
「姉⋯⋯武闘家で」
【おや? 脳筋戦士じゃないのか】
「ねえさん聞いてたら怒るよ~キミたち」
【お願いします、黙っていてください。 なんでもしますから】
「ん!? 今なんでもって言ったね」
【模範解答ヤメロw】
「アリス虹が見たいな~」
【100円】
【1$】
「キミたちの誠意は受け取った、ボクは何も聞かなかった。 あっ、ココ切り抜き禁止ね」
【了解しましたぁ!】
名前⋯⋯『マロン』これがボクのねえさんの名前。
大切なボクの姉だ。
「次、後衛ね。 よし! バニーガールでw」
【エロフに相応しいジョブw】
【これは賢者になってしまう】
「いやーエイミィさんはエロいから仕方ないよ」
【さすが俺たちのアリスちゃん! 話がわかる】
名前⋯⋯エイミィ、ボクの先輩Vチューバーだ。
「最後は当然、ルーミアたん!」
【おっ嫁か!】
【当然だな!】
「職業は⋯⋯白魔で」
【ええー?】
【解釈不一致】
【それはない】
「⋯⋯とうぜん後で闇墜ちしてもらいます」
【wwwですよねー】
【なるほど大魔導士か】
ルーミア⋯⋯ボクの一番好きなVチューバーの子。
ホントに可愛いんだよ、この子はさ!
こうしてパーティは完成した。
「勇者ボク、武闘家姉、バニーエイミィさん、白魔ルーたんで!」
【いつもの4人ですね】
そう⋯⋯いつもの仲間だ、ボクの⋯⋯。
僕をここまで導いてくれた、かけがえのない大切な人達。
「えーこの後の転職はお楽しみという事で!」
【一人転職しないニートが居るぞw】
【一人闇墜ちが確定してるなw】
【なんてメンバーだw】
「それでは大冒険に、しゅっぱーつ!」
この物語はコンプレックスを抱いて、一人で閉じこもっていた僕が──。
こうしてみんなに愛される、ボクになるまでのお話。
── ※ ── ※ ──
それは1年前の事だった。
僕の名前は栗林有介⋯⋯男だ。
高校に進学してもうじき2週間経つが、友達も居ないボッチだ。
別に寂しくなんかない。
初めから友達なんて作る気が無かったから。
僕はゲームさえあればそれでいい。
「あー! ここで
ドンッ!
壁ドンされてしまった。
隣の部屋には姉が居る。
何年か前に引っ越して一人暮らしを始めた姉が。
なんでも最近新しいマンションに引っ越す為に一時的に実家に戻ってきたそうだ。
姉が実家を出て数年⋯⋯そんなマンションを購入できるようになっている事に驚く。
あのズボラだった姉が⋯⋯。
それから暫くは黙って僕はゲームを続けた。
気がつくともう夜中の0時を回っていた。
トイレに行って寝よう⋯⋯そう思って部屋を出た。
すると姉の部屋から明かりが漏れていた。
「ねえさん⋯⋯まだ起きているの?」
ドアを開けたがそこには誰も居ない。
あ⋯⋯パソコンつけっぱなしだ。
「あーあ、こんなに部屋散らかして⋯⋯」
数日前までの生活感のない部屋がどうして僅か数日でこうなるのか⋯⋯。
「服脱いでそのままか⋯⋯お風呂かな?」
僕は何となく姉の服を畳む。
その時さっきまでしていたゲームのBGMを口ずさみながら、ノリノリで1コーラス歌い切ったぜ!
すると姉が戻ってきた。
「あんた何やってんの?」
「あー、何となく片づけを?」
姉は風呂上りでバスタオル1枚の姿だ。
こう言っては何だが姉はスタイルが結構いい。
⋯⋯しかしまったくエロさを感じないな、昔から見慣れ過ぎてて。
その時だった。
姉のスマホが鳴ったのは。
「はい⋯⋯え!? 切り忘れてる!」
姉はスマホを僕に投げ渡してパソコンにかじりつく。
そして無言でパソコンを切った。
「あちゃ~、やっちまったぜ」
「どうかしたの? ねえさん?」
そんな僕の顔を姉が見つめる。
「全世界デビューおめでとう、アリスケ」
「はい?」
この時の僕は何が起こったかなんて、まったく理解していなかったのだ。
翌日、僕は姉に連れられて知らないビルにやってきた。
「ねえさん? ここは?」
「えーと、私の職場⋯⋯かな?」
「何故に疑問形?」
「普段は在宅勤務だから、かな?」
「在宅勤務ってねえさん、なんの仕事してるの?」
そういえば知らなかったな、たしか数年前にコンパニオンになるとか世迷言を言っていたのは覚えているが。
「その答えも含めて教えたげるから付いてきなさい」
こうして僕は姉の職場に案内されるのだった。
「木下さん、昨夜はご迷惑おかけしました」
あの姉が頭を下げていた⋯⋯あの姉が。
⋯⋯まあ社会人だし普通か?
「おはよう栗林さん⋯⋯そしてはじめまして、アリスケさんだったわね?」
「はい有介です⋯⋯いつも姉がお世話になっています」
その人は少しだけ表情を緩めて僕を見て──。
「ちゃんと挨拶できてえらいわね、お姉さんとは大違い」
「木下さん!」
「事実じゃない」
そう姉と木下さんは笑いあっていた。
「⋯⋯ところで真樹奈、エゴサはもうした?」
「はい⋯⋯寝る前に」
そう言って姉は僕の顔を心配そうに見る⋯⋯なんだ姉よ?
「こちらのネット調査部でもエゴサはしましたが⋯⋯きわめて好意的な意見ばかりです」
「そうですか⋯⋯」
なぜか姉は半笑いで僕を見る。
「ねえさん、一体何なの? 僕なにかしたの?」
姉と木下さんは見つめ合って⋯⋯。
「姉ちゃんの仕事はVチューバーなんだ」
「は?」
「Vチューバーって知ってる? アリスケ?」
「そのくらい知ってるよ、今一番ホットな職業さ⋯⋯ねえさんが? Vチューバー?」
僕は信じられなかった。
「ねえさん、コンパニオンはどうしたんだよ?」
「いやー、ここは同じ芸能会社でね⋯⋯で、スカウトされてこっちに⋯⋯ね」
姉の職業には驚いたが⋯⋯。
「あなたのお姉さんが機材のスイッチを切り忘れててね⋯⋯それであなたの、アリスケさんの声が世界中に拡散した訳なのよ」
⋯⋯はい!?
僕のこの声が世界中に!?
僕は息が詰まる⋯⋯それは僕にとっての最大のコンプレックスだからだ。
僕のこの⋯⋯女の子みたいな声が⋯⋯。
「アリスケさん⋯⋯これを見て頂戴」
「⋯⋯」
それは何かの掲示板のログだった。
【誰これ?】
【マロン様と一緒に住んでるだと?】
【たしか妹が居るってマロン様言ってたな⋯⋯】
【じゃあこれが妹君のお声か!】
【歌ってるの『ラブソングを求めて』じゃないかw】
【まさに天使の歌声⋯⋯】
そんなログが延々続いていた。
そうか⋯⋯僕の声が、そしてあの時のノリノリで歌っていた歌声が世界中に⋯⋯。
⋯⋯なんでだよ!?
「ねえさん⋯⋯どうしよう?」
「⋯⋯」
姉は答えてくれなかった。
しかし⋯⋯。
「ねえアリスケさん? もしも興味があるならウチからデビューする気はない?」
「木下さん! それってアリスケをVチューバーに!?」
「そうよ! リアル姉妹のVチューバーなんて話題になって、きっと売れるわよ!」
だがその一言だけは聞き逃せなかった。
「あの⋯⋯木下さん。 僕は男なんですが⋯⋯」
「⋯⋯え?」
「弟なんです、アリスケは⋯⋯」
「アリスケ⋯⋯君?」
「はい⋯⋯」
「⋯⋯その声で、男の子?」
「恥ずかしながら⋯⋯」
なぜこんな生き恥をかかなきゃいけないのか⋯⋯。
しばらくフリーズしていた木下さんは話を続けた。
「あなたの声は才能よ! それは生かすべきよ!」
「才能?」
そんな事言われるなんて思わなかった。
中学に入って周りの友達がみんな声変わりしていって、自分だけこんな声で馬鹿にされて⋯⋯。
いつの間にか誰とも外では話さなくなった、僕のこの声が才能?
出歩く時の私服は、ボーイッシュな女の子だと思えるようなのをワザと選んでいるような僕の声が!?
「ねえアリスケ君。 あなたVチューバーにならないかしら?」
それは突然僕の前に現れた人生の転機だったのだ。
そして⋯⋯伝説が始まる⋯⋯かも?
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
このたび『ホロガーデン』からデビューすることになりました、
新人Vチューバーの『アリス』です。
これからのボクの活躍を見守ってくれるお兄さんやお姉さんはそこの『フォロー』を押してください。
そしてボクの事を応援してくれた分だけ『☆☆☆』を押してくれると、ボク嬉しいです!
これからもよろしくね、お兄ちゃんお姉ちゃん!
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