第11話 魔女が棲みつく心
「お目覚めになられましたか、御坊ちゃま。婚約者であるハンナ・スカーレット男爵令嬢様がお見えになられました。現在、旦那様が応対しておりますが花嫁を待たせるなど言語道断と、大変お怒りで御座います。 急ぎ、応接間までお越し頂くようお願い致します」
そんなに睨むなよ……
「あぁ、分かった。すぐ行く」
やれやれ……したくもない結婚を強いられる俺の身にもなって欲しいものだ。
結婚に対して消極的な俺は重い腰を上げ、気怠そうに着替えを始める。
俺はヴィルドレット・エドワード。 25歳。
この国の筆頭公爵家の嫡男であり、剣聖であり、近衛騎士団長でもある。
そんな俺に言い寄って来る令嬢達は数多く、これまで数々の縁談を持ち掛けられては、俺はそれを
かつて猫だった俺と魔女が共に暮らしていたのは今から400年も前の事。
いつまでも
今は
だが、俺の中の魔女がそうさせてくれない……死んでくれない……魔女を求めてしまう。自分に抑止が効かず、どうしても魔女以外を愛せない。
どうする事も出来ない。俺には俺の責務があるというのに……
その責務を果たす為、持ち掛けられた縁談に対して俺なりに向き合おうとした時期もあった。だが、やはり駄目だった。
どんなに美しく魅力的な女性が相手でも魔女の面影を重ねてはどうしようもない虚無感に襲われる。 やはり駄目だ。愛せない……と。
愛の無い結婚――
百歩譲って俺はそれでも良いかもしれない。しかし相手方はどうだろう?
女性にとっての『結婚』とは幸せの象徴だ。
愛する事をしない結婚は相手を不幸にする事と同義である。そう魔女を見て学んだ俺にそのような真似は出来ない……出来ないのだが、年齢的にもいよいよ結婚から逃げ回る事も敵わなくなり、半ば強引に進められた此度の縁談。
近頃ではそもそも持ち掛けられる縁談自体が無くなってしまっていた為、俺を取り巻く人間達のこの縁談に賭ける思いはひとしおだ。
「さて、行くか」
寝間着から平服へと着替えを済ませた俺は、俺の花嫁候補が待つとされる応接間へと足を向ける。
―――――――――――――――――――――
作者から
後の展開と『第2話 破滅の魔女』の内容の一部との齟齬が生じた為一部箇所を訂正しました。(11/29)
※訂正箇所は『第2話 破滅の魔女』の最後辺り、『あれほどもう会わないと、一人で生きていくと、そう心に決めたはずなのに……。』から最後にかけてです。
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