第12話 魔女の彫像

「ハンナ様こちらへどうぞ」


「ありがとうございます」


 ――て、何この部屋! 広っ!そして、めっちゃ綺麗!豪華!


 ルイスさんの先導で長い廊下を歩き、辿り着いた部屋はとても広くて、如何にも高価そうな絵画や置物が至る所に配置され、中央には巨大な縦長のテーブルがあった。そして、頭上には豪奢な巨大シャンデリア。


 さすがは王国に仕える筆頭公爵家と、私は目を丸くしながら辺りをキョロキョロ。


「ハンナ様、こちらへどうぞ」


「ありがとうございます」


 辺りに視線を散らしながらルイスさんが引いてくれた椅子に腰を落とす。


 あのドラゴンの彫像は一体幾らするんだろ……って――、


 んっ?


「ルイスさん、あれは?」


 私はとある彫像を指差した。


「あぁ。あれでございますか。 あれは――御坊ちゃまが作られた『魔女』の彫像です」


 え? 嘘、待って、本当ですか? こんなの作れるなんてめっちゃ凄いじゃないですか――という感想よりも先に出たのは別の意味での驚きと疑問。


 確かに、ヴィルドレット様が作られたとされる彫像それは紛れもなく、魔女わたしだ。少しばかり美化されているようにも感じなくもないけど。


 でも、何で?


「まさか魔女がこんなにも可愛いらしい姿をしていたなんて誰が思いましょうか。そもそも魔女の姿を知る者は『大聖女イリアス』くらいのものでしょうに――」


 思わず口元が綻ぶ。


 そんなルイスさん、可愛いらしいだなんて照れるじゃないですか――って、照れてる場合じゃない。 


 そう。ルイスさんが言うように前世の私の姿を知る者は憎き『大聖女イリアスあのおんな』のみのはず。


 魔女の証『異色瞳オッドアイ』を持っていた私は、こっそり人間社会に溶け込んで暮らすなんて考えた事はない。

 そんな隠しようの無かった魔女の証のせいで人間の前に現れる事を決してしなかった私の姿を何故ヴィルドレット様が?


「おそらくは、『大聖女イリアス』が残した文献か何かを拝読でもしたのでしょう。」


 なるほど、そういう事か。そこに『大聖女イリアスあいつ』が見た前世の頃の私が書かれていたと……なるほど、なるほど。そういう事か。――そういうものか?

 文字だけでここまで忠実に再現出来るものか?それとも何? 私の肖像画でも描いていやがったのか?『大聖女イリアスあいつ


 まぁ、でも――


 前世の事なんてそんな事はどーでもいいか。 大事なのは今世だ。


 そして、今世での幸せを左右するターニングポイントがまさに今! 今に集中しろ、私!女としての幸せを掴むのだ!

 

 エドワード公爵家には何故か私が魔女だった頃の彫像がある――ただ、それだけ。細かい事は気にしない! それが私だ。


 力強く決意を新たにしつつ、私は座った巨大テーブルの真ん中で、再び辺りを見渡す。

 

 豪奢な内装に、見上げれば煌びやかな巨大シャンデリア。

 同じ貴族の括りでも、公爵家と男爵家とではやはり天と地ほどの差がある事を改めて思い知る。


 と、そこへ――


「やぁやぁ! よく来てくれたね」


 扉が開かれ、ささっと、速い歩調で入室してきたのは赤髪オールバックに同色の瞳が特徴的な渋めの男性。 多分40代前半くらいかな……


 私は立ち上がってからスカートの裾を摘み、淑女の礼をした。



『12話 恋心』から『12話 魔女の彫像』へ訂正。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る