11月26日土曜日
私は
***
11月25日金曜日の夜のこと
「今日寒いね〜。お昼はシチュー?」
「あおちゃんシチュー好きだもんね」
今日のお昼はシチューだ。寒くなると、私の家はシチューかカレーが定期的に出るようになる。
「去年カレー食べた時、紅葉を道行ったよね。近くの深山神社に。」
「あおちゃん、よく覚えてるね」
「だってカレーフェア行こうって言ったのに、紅葉ばっかり見て。結局家でもカレー出してもらったじゃん」
「ごめんね、あの時は紅葉が本当に見頃だったのよ。今もしっかり色づいてるんじゃ無いかしら」
「紅葉…深山公園って歩いて10分も無いよね?」
「そうよ。商店街抜けて、深山小学校の近く。」
「明日、紅葉見に行こうかな。」
「いいね〜。お父さんに一眼レフのカメラ買ってもらったんでしょ!それで綺麗な紅葉撮ってきたら後で見せて」
「うん!!」
私の目が見えなくなるまでに写真を撮ると言ったら、いつのまにか一眼レフのカメラをくれた父。
明日は一眼レフのデビュー日だ!!
***
11月26日土曜日
お天気も味方してくれて、ついに深山公園へ出発!!
家のすぐ前にある大通りを渡ると、風情あふれる商店街。魚や肉、野菜とかなんでも美味しかったなぁ。今はシャッター商店街なんて呼ばれてるけど、私からしたら思い出溢れる立派な商店街だ。
商店街を抜けると、土曜登校の小学生たちが体育の授業をしているようだ。グラウンドから町全体に子供達の元気な声が響き渡る。
この声はこれからも聴くことができる。でも、この太陽の下で芝生を元気に走る子どもの姿は見ることができない。撮りたいと思いながらも、小学生を無断で撮るのはダメだから心のフィルムにしかと刻んでおこう。
深山公園内に入ると、家族連れで賑わっていた。
「そういえば、今日は土曜日か。」
紅葉目当てのお客さんが私以外にもこんなに。
いつもは閑散としているが、紅葉にはこれほどまでのパワーがあるとは…と、紅葉パワーに連れてこられた張本人が言ってて笑っちゃう。
少し進むと紅葉の絨毯が見える。まだ木はないけど、風で飛んできたのかな。何層にも重なり、ふかふかな紅葉。雪みたいに踏みしめて、紅葉の木へ急ぐ。
***
遠くに紅葉の木が見える。紅葉の木に走って駆け寄る。
紅葉の木はとても大きく、豊かな色合いだった。
子供の頃、父の肩車から見ていた頃と何一つ変わっていない温もりある木。
よくバスケの試合に負けた時、この木の下でお母さんに励まされたなぁ。
「パシャッ」
ここで1枚。
「晴れたるや 太陽背にし 紅葉狩り
落ちる葉と風 追いかけ探す」
んー、なし。短歌は似合わない。
太陽にピントを合わせてまた1枚。
午後からは雨が降るらしいからそろそろ帰ろうかな。
***
「ただいま。シチューできた?」
「できたわよ。今から準備するね!」
シチューの匂いを感じながら今日撮った写真を家のプリンターでプリントする。
「お母さ〜ん。プリント開始しないよ?」
シチューの準備を中断し、プリンターを調べる母。
「あぁ〜あおちゃん。カメラのデータWi-Fiに繋いでないからその設定してくださいだって。」
「どうやってわかるの?」
「この電源ボタンの横が赤く光ったから。このプリント初めて繋げるカメラ機器はいちいち繋がないといけないのよね」
赤く、光ったら。もう右目でしか赤く光ったかどうかはわからない。取り扱い説明書だって読めない。当たり前が当たり前じゃなくなる。これからこのような壁にぶち当たるのか…
***
シチューを食べながら、写真をノートに貼り付ける。
色ペンで日付と天気、場所を書いてひとこと感想。
「紅葉を楽しんだって感じより、紅葉を見て思い出すものに楽しんだっと。」
短歌の才能がないことは隠しておこうかな。
そっとノートを閉じる。
目を瞑ってシチューの匂いを脳まで味わう。
明日は何を見よう。シチューに脳が独占されて考えられないまま、明日を迎える葵であった。
つづく
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