Menuさん②
コン、コンッ。扉をノックする音が響く。僕は、ドアに向かって「どうぞ~」と声をかけた。
「アオイ! 失礼する!」
血相を変えて部屋に入ってきたウサギさんは、緊迫した声でこう告げた。
「陛下が、お菓子パーティーをご所望だ! 開催日時は、二日後。これでもなんとか陛下にご譲歩いただいて確保した時間だ。すまない」
ええええええ……。お菓子は、まだ五種類しか作れないのに、お菓子パーティー? しかも、その場でまた、「ガトーショコラ食べたい」って言われたら、どうすればいいの。
ガトーショコラなんて、作れるようになるの、絶対まだまだ先だよ……。
とりあえず、動揺でリンゴジャムを焦がす前に、僕は鍋の火を止めた。
〔 承知しました。レシピスキル:『べっこう飴(葵)』『牛乳アイス(葵)』『プリン(葵)』『スフレパンケーキ(葵)』『型抜きクッキー(葵)』を確認。お菓子カテゴリーでの登録は以上です 〕
どれも単体じゃ、パーティーのお菓子として不十分だ。
でも、プリンはフルーツ等をトッピングして、豪華なプリン・ア・ラ・モードにはできる。今度は素材スキルの一覧。
〔 素材スキル:『砂糖』『牛乳』『バター』『生クリーム』『卵』『小麦粉』『サラダ油』『ベーキングパウダー』『バニラビーンズ』『紅茶』『はちみつ』『メープルシロップ』『シナモン』を確認。解放されている素材スキルは以上です 〕
考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。
アップルパイみたいに失敗している時間はない。そうなると、作ったことがあるお菓子で失敗が少ないものだ。
〔 可能です 〕
よし。紅茶のシフォンケーキなら、お母さんが好きだから自信がある。まずは、一つ目は決まりだ。それに、ロールケーキはもう昨日生地を登録しているから焼いて、生クリームと一緒に果物を巻けばいい。
スキル的にアイスクリームもストロベリーやブルーベリーならすぐに用意できそうだ。あと、パウンドケーキも何度も作っている。
ウルフさんにバナナがあるか聞いてこよう。バナナパウンドケーキは、おばあちゃんが好きだから、これも自信あり。
メインは、ショートケーキだな。スポンジケーキに、生クリーム塗ってイチゴを挟むだけだから、プロのようなデコレーション技術を要求されなければ、平気だろう。
僕が顎に手をあてたまま黙ってしまったせいか、気がつくとウサギさんが酷く不安そうな顔で、僕を見上げていた。
「……全力は尽くしますが、ガトーショコラは……というか、チョコ系は全部無理です……」
お菓子を作り続けるうちに、『チョコレート』が解放される可能性はあるけど……。
「わかった! 陛下には、アオイが作れるリストから選んでもらおう。そこは私が責任をもって実現する」
「あと、試食手伝ってもらいたいので、皆さんの手が空いた時は、ここに来てもらえるように伝えてもらえますか?」
ウサギさんは大きく頷くと、来た時同様に、大慌てて部屋から出て行った。
とにかくウルフさんのところに行って、果物は貰えるだけ貰ってこよう。スコーンはまだ作れないから、申し訳ないけど状況が状況だから許してもらうしかない。
裏庭に行くと、ウルフさんは脚立の上で、今日も果樹の手入れをしていた。
「おお。アオイ、どうした。血相変えて」
走ってきて息の切れている僕に気がつくと、声をかけてくれた。
「……へ……陛下が、『お菓子パーティー』するって言ってて……」
膝に手を置いて、息を整えながら、事情を説明する。
「リンゴのお菓子も作れてない状態で申し訳ないんですけど、果物をまたいただきたく」
ウルフさんはそれを聞いて、酷く驚いたようだった。
「事情はわかった。俺のリンゴのことは、気にしないでくれ。あとで、ひと通りの果物をアオイの部屋に持っていくから、とにかく君は準備を始めなさい」
僕の肩に手を置くと、ウルフさんは安心させるようにそう言ってくれる。僕は頷くと、また急いで部屋へ引き返した。
〔 残り三十分です 〕
寝かせる時間、三十分延長して。その間に、紅茶のシフォンケーキ作るので、材料の出力をお願いします。
僕は、
〔 承知しました。残り六十分へ変更されました。グラニュー糖の分量を〇・七倍で砂糖に置換。レシピスキル『紅茶のシフォンケーキ』の材料の出力を開始します 〕
卵黄、砂糖、サラダ油、薄力粉、ベーキングパウダー、卵白、また砂糖。レモン汁と濃いめに淹れたアールグレイ紅茶に、ケーキの中に練りこむ用のアールグレイの茶葉。茶葉は、『粉砕』スキルで砕いて、細かくしておこう。
最初に、ボウルに卵黄を泡立て器で解きほぐすと、一つ目の砂糖を加え軽く擦り混ぜた。次に、サラダ油と紅茶を混ぜ合わせ、卵黄と砂糖のボウルに投入した後、砂糖が溶けて卵黄と油がなじむようによく合わせる。
そこに先ほど細かく砕いていた茶葉を入れて、その上から薄力粉とベーキングパウダーを一緒にふるいを使って振り入れ、粉っけがなくなるまで泡立て器で手早くかき混ぜた。
ついで、別のボウルに卵白を入れると、『冷凍』スキルで表面がシャリシャリになるまでボウルごと冷やし、レモン汁と二つ目の砂糖の三分の一程度の分量を合わせて、『泡立て』スキルでメレンゲを作る。
やがて卵白がモコモコと泡立ち、白くツヤめくメレンゲへと変貌していく。数回に分けて残りの砂糖を投入し、メレンゲで作ったツノが自立できる程度の固さになったところで泡立てを終了した。
僕は、泡立て器で出来上がったメレンゲをひとすくいすると、卵黄のボウルへ投入し、素早くかき混ぜて馴染ませる。
泡立て器からゴムベラに持ち変えると、残りのメレンゲも投入し、ボウルの底からすくいあげながらメレンゲの泡を潰さないように、大きくかき混ぜ合わせた。
出来上がった生地をゴムベラですくって、シフォンケーキの型の中に入れていく。型の八分目まで入れたところで、生地の表面をならした。
〔 承知しました。『オーブン』百八十度・四十分で開始。三十分後にタイマーを設定します 〕
よし。とりあえず、シフォンケーキ完了。
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