Menuさん
Menuさん①
翌朝。相当疲れていたのか、昨夜は夢も何も見なかった。
起きてから顔を洗い、歯を磨く。寝間着から服を着替えて、エプロンの紐を締めると、調理台へ向かった。簡易冷蔵庫からジャムとリンゴのコンポートを取り出す。
〔 承知しました 〕
ボウルに生クリーム、小皿に砂糖が出力される。砂糖をスプーンですくうと、三杯ほど生クリームへ入れた。『泡立て』スキルを使用して、生クリームを泡立てていく。
全体的にドロッとした緩めのクリーム状になったところで、泡立てをやめる。それから、皿の上にスフレパンケーキを二枚出力し、泡立てた生クリームをかけた。
アールグレイの紅茶を淹れ、朝ご飯代わりに、スフレパンケーキへ寝かせていたジャム三種類をトッピングして、食べ比べをする。うん。昨日よりもジャムの味が馴染んでいる。
〔 レシピスキル:『イチゴジャム(葵)』『ブルーベリージャム(葵)』『ラズベリージャム(葵)』を上書登録しました 〕
生クリームも甘さ控えめで美味しい。パンケーキ用として、こちらも登録もしておこう。
〔 レシピスキル:『パンケーキ用生クリーム(葵)』を新規登録しました 〕
順調。順調。ようし! 今日は、パイ生地だ!
〔 レシピスキル『アップルパイ用パイ生地』の材料の出力を開始します 〕
薄力粉、強力粉、バター、水。意外と、材料少ないな。
とりあえず、薄力粉と強力粉を合わせて、ふるいにかけよう。そして、バターを包丁でサイコロ状にカットして、薄力粉と強力粉の中に投入した。
ゴムベラで切るように混ぜながら、ある程度バターと小麦粉が合わさったあたりで、少しずつ水を入れてまとめ上げた。
正直、この時の僕はなんでもお菓子が作れる気になっていたんだと思う。だから、失敗した。
僕は、緊張しながらオーブンの扉を開ける。バターのいい匂いはしてはいるが、すでに通算三回目の挑戦だ。今回のアップルパイも上手く膨らまず、焼き縮みしている。また、食べると、パイのサクサク感はない。
〔 アップルパイを分解回収します 〕
一口食べて、ため息をつきながら首を振った僕に、
パイ生地は、僕にはまだ早かったようだ……。丸椅子に座って、自分の思い上がりに少し落ち込む。
確かに、いつもは冷凍の出来上がったパイ生地シートをスーパーで購入していたし、自分で作ったことはなかった。素人には難しい素材なのだろう。
ウルフさんにリンゴのお菓子作るって約束しちゃったのになぁ……どうしよう。
何度もアップルパイの試食をしたせいで、甘くなった口の中をリセットすべく、僕はゆで卵をかじりながら考える。
よし、これ以上落ち込まないためにも、何度も作ったことがあるお菓子で気分転換しよう。僕は頬をパシッと自分で叩いて、気合を入れると立ち上がる。
スフレパンケーキを作った際に、ジャムが三種類に、はちみつやメープルシロップも獲得した。あと、リンゴのコンポートも潰して煮詰めてジャムにしちゃおうかな。
生クリームも今日はあるし、パンケーキのようにトッピングで楽しめるお菓子がいいかも。
僕は、しばらく調理台を見つめてから、スコーンを作ることに決めた。
〔 承知しました。グラニュー糖の分量を〇・七倍で砂糖に置換。レシピスキル『スコーン』の材料の出力を開始します 〕
薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩、バター、牛乳に卵黄。僕は調理台の下から、カードのような形をしたスケッパーを取り出す。
調理台の上を布巾で拭いて綺麗にすると、薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩をまとめてふるいにかけた。バターは『冷却』スキルで少し固めに冷やし、一センチほどのサイコロサイズに切った。
ふるいによって築かれた粉の山頂にバターを置いて、バターをスケッパーで切りながら、粉と混ぜ合わせて山を崩す。
バターの塊が小豆大の大きさになったところで、もう一度『冷却』スキルで粉ごとバターを少し冷やした。
今度は、スケッパーを使用せずに、自分の手の指で小豆大のバターをすり潰しながら、粉類と合わせていく。やがて粉チーズのようなそぼろ状になった。
僕は、そぼろ状になったスコーン生地をもう一度スケッパーでかき集めて、調理台の上で山を作り直す。
作り直した山の山頂にくぼみを作って噴火口のような形にすると、噴火口に牛乳と卵黄を投入した。指で卵黄を潰し、くぼみの中で牛乳と混ぜ合わせていく。
ある程度、牛乳と卵黄が混ざったところで内側から山を崩しながら、粉類と液体を混ぜ合わせた。何度か山の下からスケッパーで粉を上に乗せて、生地を練らないように注意しつつ、一つの塊にまとめ上げる。
クッキー生地同様に、最後は調理台に擦り付けるように生地を手の腹で滑らかにしてから、濡れた布巾で包んでボウルに入れ、簡易冷蔵庫へ投入した。
〔 九十分後にタイマーを設定します 〕
その間に、リンゴのコンポートをジャムに変えてしまおう。
〔 レシピスキル:『リンゴのコンポート(葵)』を新規登録しました 〕
僕は、鍋にあるコンポートのリンゴを木べらで潰し始める。リンゴの形状を半分くらい潰したところで、再び火を加えて、焦げないようにかき混ぜながら水分を飛ばした。
ふと、時計を見ると、もう昼近くだった。アップルパイで結構、時間使ったもんなぁ。その上、失敗だったし。あとでスコーンを持って、ウルフさんへ謝りに行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます