パンサーさん

パンサーさん①

 楽しかったお茶会も終了し、ウルフさんからお土産にリンゴやそのほかの果物をたくさんもらって自室に戻ってきた。


「さすがに今日は疲れたなぁ」


 まだ夕方の五時前だったが、連日の疲れも相まって、少し眠たく感じる。ベッドに腰かけると、睡魔をより強く感じた。


 Menuメニューさんと今後の作るお菓子の相談もしたいのに……。


〔 一時間後にタイマーを設定します 〕


 Menuメニューさんは、優しいなぁ……。


〔 おやすみなさい、アオイ 〕


 その声で僕は眠りに落ちた。


◇◇◇


 星空の絨毯の上を僕は漂っていて、とても暖かくて気持ちがいい。


 フワッと身体の向きを変えると、そこには美しい何かがいた。何かはよくわからないけれど、それが美しいことはわかる。


 美しいもののある方へ、僕は手を伸ばすと、その美しいものは形を取り始めた。しだいに美しい女性の形へと変貌する。


 その女性は星空の絨毯の中で、一際、星が集まっている場所から星々を手ですくうと、それらを両手でまとめ上げて綺麗な星の球を作り出した。


 彼女は、その球を愛おしそうに抱きしめている。一生懸命に僕が手を伸ばしていたら、ようやく僕に気がついてくれて、僕へ手を差し伸べてくれた。


 その差し伸べられた手がとても大きくて、僕は彼女の手のひらに乗る。


 ああ、『陛下』は、女神さまなんだと……僕はとても安心して、彼女の手のひらで丸くなった。


◇◇◇


〔 一時間が経ちました 〕


 ――ハッと、僕は目を覚ます。


 変な夢を見ていた気がするけれど、よくわからないや。ただ、なんだかとても心地よくて暖かかったな。僕は、「んー!」と思いっ切り背を伸ばす。


 少し寝ただけだけど、かなりスッキリした! ヨシ、今日はもう一つ、お菓子を作ろう。オーブンも使いたいし。


 ただ、始める前に目当ての素材をゲットすべく、Menuメニューさんに質問をする。


 Menuメニューさん、『生クリーム』の取得条件を教えてください。


〔 素材スキル『生クリーム』の情報を一部開示。『生クリーム』取得条件:素材スキル『牛乳』及び調理製造スキル『■■■』の取得 〕


 その調理製造スキル『■■■』のヒントは貰えたりしますか?


〔 調理製造スキル『■■■』の情報を一部開示。『■■■』取得条件:五つお菓子を作る 〕


 えっと、今のところ、べっこう飴に牛乳アイス、プリンにスフレパンケーキ。僕は指を折って数えていく。合計四つ。じゃあ、あと一つだ!


 調理台の上のリンゴを見て、「アップルパイ」とも思ったが、熱々のアップルパイには、やはり生クリームか、バニラアイスクリームを添えたいところ。となると、別のお菓子でここはクリアして、明日にアップルパイ作りがベストかも!


 調理台の下の棚をガサゴソと、何かいいアイデアがないかと探る。手前のボウルやザルを取り出すと、その奥から可愛いクッキー型がでてきた。


 クマ、ネコ、これはオオカミかな? ハートに星の形。お、ウサギもある。


 どうせ、また部屋の掃除にネコさんがあとで押しかけてくるだろうし、クッキーならサッと手渡しできるので、受け取ったら、すぐに帰ってくれるかもしれない。


 よしよし、今日はこの作戦で行くぞ。対ネコさん用お菓子は、クッキーだ。


 Menuメニューさん、型抜きクッキーの材料をお願いします。


〔 承知しました。グラニュー糖の分量を〇・七倍で砂糖に置換。レシピスキル『型抜きクッキー』の材料の出力を開始します 〕


 バターに、砂糖、卵黄、薄力粉。今回は工程も少なめだ。おっと、確認事項を忘れていた。


 Menuメニューさん、オーブンのスキルの使用時って、余熱時間はかかりますか?


〔 余熱は不要です。即時、設定温度へ上昇します 〕


 やはり、スキルシステム素晴らしいなぁ。オーブンってお菓子作っている途中で、余熱完了時間を逆算して、余熱スイッチいれないといけなくて、なかなか難しい。


 僕は、バターをボウルに入れると、クッキー作りを始めた。ボウルの中のバターは、柔らかくて泡立て器で混ぜやすい。お菓子作りを始める数時間前に、バターを冷蔵庫から出して常温に戻しておくのを忘れて、何度カチカチのバターと戦ったことか。ビバ! スキルシステム!


 バターがクリーム状になったところで砂糖を投入し、さらに白っぽいクリームになるまで泡立て器ですり合わせる。次に、卵黄を投入し、卵黄とクリーム状のバターをよくかき混ぜた。


 この上から薄力粉をふるいで、振り入れる。ゴムベラで、ボウルの底から生地をすくい上げながら大きく切るようにして、ひとまとまりのクッキー生地になるように合わせていく。


 ある程度、生地がまとまったところで、僕は生地を打ち粉のしてある清潔な調理台の上に乗せた。


 あんまり手でこねすぎると、小麦粉のグルテンによってクッキーのサクサク感がなくなってしまうので、こねないように注意しつつ、手のひらを台にこすりつけるようにして生地のキメを細かくする。


 クッキー生地がキレイにまとまって、ツヤッとしたところでボウルに戻した。


 さてと、この生地もジャムを冷やしている簡易冷蔵庫に乾燥しないようにラップをしてから入れて、数時間寝かせたいところだけど。そのラップがない……。


 どうすればいいんだろう。生地の乾燥を防ぐ方法について知恵をしぼる。おばあちゃんが栗ご飯やおはぎ作ってくれた時は、濡れた布巾で、もち米包んでいたよなぁ。


 あとこの前、パン作った時も生地を発酵させる間に濡れた布巾で包んだことがある。


 よし、これだ! 僕は、『ボイル』スキルで湯を沸かすと、綺麗な布巾を煮沸消毒した。冷却で湯を冷まし布巾を固く絞る。この布巾でクッキー生地を包んで、簡易冷蔵庫へとしまった。


 とりあえず、二時間かな。


〔 二時間後にタイマーを設定します 〕


 さてさて、次は、明日のアップルパイの下準備だ。まずは、まな板と包丁を用意し、レモンを半分に切って搾り、レモン汁を作った。


 レモン汁は必需品なので、レシピ登録しておこう。


〔 レシピスキル:『レモン汁(葵)』を新規登録しました 〕


 Menuメニューさん、アップルパイの中身の煮リンゴ用の砂糖って出力できますか?


〔 リンゴの重量を測定。グラニュー糖の分量を〇・七倍に置換し、レシピスキル『リンゴのコンポート』の材料の出力を開始します 〕


 コンポート! オシャレな言い方! 僕ずっと煮リンゴって呼んでいたよ!


 僕はリンゴの皮をむき、八分の一にカットした後、厚さが五ミリ程度になるようにスライスしていく。


 切ったリンゴを鍋に入れて、上から砂糖とレモン汁を加え、木べらで全体を軽くかき混ぜると、水分が出るまで少し置いておくことにした。


 なかなか、いい調子。パイ生地も今日のうちに準備しちゃおうかな。それとも、ネコさん来るまでに、先にシャワーを浴びちゃおうかな。


 綺麗に掃除をしてもらったあとで、すぐにバスルームを汚すのって、ちょっと気が引けるし。


 僕は、やはり先にシャワーを浴びることにして、エプロンを外し、寝室へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る