ウルフさん④

 さてと、オーブン使えるようになったし、次はクッキーかな。早く生クリームをゲットしたいところだなぁ。


「大丈夫か?」


 どうやら顎に手を当てたまま、ブツブツと独り言を言っていたようで、プリンを完食したウサギさんが心配そうな目で僕を見上げていた。


「ああ! 大丈夫ですよ! 次は何を作れるかなって考えてました。スキルがどんどん解放していくので楽しくて」


 食べ終わったプリンの器をウサギさんから受け取ると、流しに置いた。


「それにしてもスキルにロックがかかるとは前代未聞だ。こちらに来る際に何かあったのか?」


「やだなぁ、ウサギさんが言ったんじゃないですか。『インストールに失敗した』って」


 僕の発言に、ウサギさんは本当にビックリしたように「え?」と声をあげた。


「ウサギさん、僕と二人の時まで、知らないフリ続けなくても」


 笑って僕がまた「やだなぁ」と繰り返すと、ウサギさんはより深刻そうに、顎に手を当てた。それから、彼は椅子から立ち上がる。


「少し確認することができたので、今日はこれで失礼するよ」


 ウサギさんはそう言い残すと、足早に部屋を出て行ってしまった。


 えぇぇ……めちゃくちゃ不安になるんですけど……。僕、本当にちゃんと帰れるのかな……。



 不安な形で、ウサギさんを見送ることになってしまったが、聞いたところでどうせ答えてくれないだろうし、まぁいいか。


 あの人(ウサギ?)、万事が万事、思わせぶりなことを言っては、肝心なことは何も教えてくれないし、イギリスの有名な名探偵みたいだよなぁ。


 母は「探偵って、仲間と報連相しないせいで、事態が大変なことになりがちよね」とミステリードラマを見て、いつも言っています。僕もそう思います、お母さん。報連相は大事です。


〔 レシピスキル:『イチゴジャム(葵)』『ブルーベリージャム(葵)』『ラズベリージャム(葵)』を新規登録しました 〕


 寝かしてあったジャムの味を確認し、一旦この状態で登録する。僕はジャムをフタつきの瓶に鍋から詰めると、使用していない扉付きの戸棚にしまった。


 Menuメニューさん、この戸棚の中を『冷却』スキルでずっと冷たいままにすることは可能ですか?


〔 可能です。冷却スキルの継続使用を設定しました 〕


 うんうん。いいね。冷蔵庫代わりになる。


〔 『取得条件:一つジャムを作る』をクリア。素材スキル『はちみつ』が解放されました。続いて、『取得条件:四つお菓子を作る』をクリア。素材スキル『メープルシロップ』が解放されました 〕


 おお~。ジャムとバターだけじゃ寂しいなぁと思っていたので、これは嬉しい。



 コンコンと、扉が叩かれる。扉を開くと、訪問者はウルフさんだった。


「調子はどうだい?」


 出来上がったジャムをウルフさんに味見してもらう。


「果実の良さがでてるし、甘すぎず美味しいね」


 フッと笑うウルフさん、やっぱカッコいいなぁ。ダンディだ。僕もここを目指したい!


〔 …… 〕


 なんだよぉ。Menuメニューさん、なにか文句あるわけ?


〔 否定します 〕


 どうせ、僕には無理ですよぉ~だ。


〔 回答不能です 〕


 え? 酷くない? Menuメニューさん。


 僕が脳内でMenuメニューさんとバトっていると、ウルフさんが僕の目の前で掌を動かした。急に黙ったから、何かあったのかと心配してくれたようだ。


「ごめんなさい。まだスキルの使い方に慣れてなくて、操作に集中すると、こうなっちゃって」


「そうか。ヨージも似たようなことを言っていたが、異世界人は、毎回同じこと繰り返さないといけなくて、大変だな」


 この世界に生まれた彼らからすると、呼吸みたいに自然に扱えるシステムなんだろうなぁ。


「それはそうと、早めに来てくださって、ありがとうございます!」


「ああ。どうせなら、庭で食べたらどうかと思ってな」


 あのブリディッシュなガーデンでお菓子を食べるなんて、よく映画で観るアフタヌーンティーパーティーじゃん! めっちゃお茶会っぽい。


 僕は「お願いします!」と元気よく答えた。

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