ショコラティエ・クエスト ～女神様がガトーショコラを食べたいからって異世界に召喚されてしまいました（涙）～

ウルフさん③

　さて、メレンゲ作りから行きますか。

　まずは、『凍結』スキルで、卵白をシャリシャリになるまで凍らせる。それから、『泡立て』スキルを使うと、卵白の表面が波うって、やがて高速で回転し始めた。ハンドミキサーもいらないなんて、本当にスキルシステム万歳！

　砂糖の片方を数回に分けて、泡立て中の卵白へ加える。どんどん卵白のカサが元の数倍に膨れ上がり、やがて微かに銀色の光を帯びた雪のような泡の塊へと変貌した。

　僕は、泡立ち具合を確認するために、ボウルを傾ける。泡がボウルの中でまだ動くので、もう少し泡立てよう。フライパンで焼くわけだから、もっと泡立てないと。メレンゲが、ボウルをひっくり返しても落ちなくなるまで、しっかりと泡立てた。

　次は、卵黄。鍋に『ボイル』スキルで、湯を沸かす。少し水を加えてぬるめのお湯を作ると、卵黄の入ったボウルを湯せんにかける。

　そこに残った砂糖を加え、泡立て器でかき混ぜて、砂糖を溶かす。その後、湯せんから外し、『泡立て』スキルを使用して全体がマヨネーズのような白っぽいクリーム状に変化するまで混ぜ合わせた。

　あ～、お酢があればマヨネーズ作れるのになぁ。ウルフさんにブロッコリー作ってもらって食べたいなぁ。お菓子ばかり作っているので、口直しが欲しくなる。

　そんなことを考えつつ、続いて、この泡立てたクリーム状の卵黄を、メレンゲと合わせていきたいけど、卵黄のボウルが少し熱い。メレンゲ潰れたら嫌だし、粗熱とるか。こんな時、『冷却』スキル便利～。

　粗熱が取れてから、ゴムベラでメレンゲをひとすくいすると、クリーム状になった卵黄のボウルへ入れて、泡立て器でよく混ぜた。

　それから、メレンゲを半分ほど投入し、ゴムベラでメレンゲの泡をなるべく潰さないように、ボウルの底から上に大きく混ぜ合わせる。残りのメレンゲも同じように合わせた。

　ふるいに薄力粉を入れると、卵黄とメレンゲを合わせた生地の上から振りかけていく。泡をなるべく潰さないように生地と薄力粉を切るように混ぜる。

　最後に、粗熱をとったバニラビーンズの風味が付いた牛乳をなるべくボウルの端にかかるように回し入れた。牛乳を泡立て器でさっくりと混ぜあわせてビスキュイ生地の完成。

　レシピスキルって上書きできたよな。Ｍｅｎｕ（メニュー）さん、ここまでの工程を登録お願いします。

〔 レシピスキル：『ロールケーキ用ビスキュイ生地（葵）』を新規登録しました 〕

　生地ができたので、パンケーキを作って行こう。

　フライパンを熱してサラダ油を薄く引く。そして、直径十センチほどの円柱状の底のないタイプの金属型にもサラダ油を塗ると、フライパンの中に置いた。フライパンを熱している間に、濡れた布巾を調理台に準備する。

　焼きむらを防ぐために、十分に熱したフライパンを一度コンロから外して、濡れた布巾の上にフライパンの底を押し当てる。ジュゥウと音を立てた。

　その後すぐに、コンロにフライパンを戻し、弱火に変えて、金属型の中に先ほど作ったビスキュイ生地を盛っていく。金属型の六、七割まで生地を入れて、金属型の枠外のフライパン部分に少量の水を入れると、フタをして蒸し焼きにした。

　とりあえず、五分で様子を見よう。

〔 五分が経ちました 〕

　Ｍｅｎｕ（メニュー）さんのお知らせを聞いて、蒸し焼きにしていたフライパンのフタを外す。

　スポンジ生地はふっくらと膨らみ、表面はひっくり返せるくらいには乾いているようだ。円柱状の金属型と生地の間に竹串を刺して、ぐるりと型の周りを一周させ、型と生地の間に隙間を作る。

　緊張しつつ型を外すと、多少重力でスポンジ生地は横に広がったが、概ね高さは保っていたので安心した。フライパン返しで、ひっくり返してから、また少量の水を加えてフタをする。

　次は、三分くらいで様子を見るか。丸椅子に座って、ぼんやりしていると、扉がノックされてウサギさんが入ってきた。調理台の上を見て、ウサギさんは目を丸くする。

「昨日今日と少し見ない間に、なんだか見違えたな」

　ウサギさんにも、もう一つの丸椅子を勧めると、ピョンと少しジャンプして座ってくれた。

「牛乳アイスとプリン作れるようになりましたよ～。プリン食べますか？」

「それは楽しみだ。いただこう」

　レシピスキルで、プリンを一つ出力する。僕もウサギさんが魔法使う時みたく、レシピスキル使うときはカッコ良く指でも鳴らそうかな。でも上手く指鳴らせないんだよなぁ。僕の指、湿っているのかも。

〔 三分が経ちました 〕

　ウサギさんにプリンをスプーンと一緒に差し出すと、僕はフライパンの前に戻った。フライパンのフタを開け、フライ返しで皿にスフレパンケーキを乗せる。火から下した後もパンケーキの高さはそこまで縮んではいない。

　さて、味見しよう。フォークで真ん中から半分に切る。中まで火が通っていたので安心した。

　断面も大きな気泡もなく、きめの細かいスポンジだ。一口大にフォークで切ると、次に味のチェックをする。モソモソしてないし、しっとりフワフワでこれはかなり上手くできたのではないか、と自画自賛した。

　残りのパンケーキにバターを乗せ、先ほど作ったばかりのブルーベリージャムを上からかけてみる。試食してみたが、何かが足りない。

　何だろう。ジャムだけで食べてみる。ジャムは普通に美味しいな。次にバターだけ口に入れてみた。

　なんだろう。このバター、なにか物足りない。もしかして、製菓用の素材スキルだから、これ無塩バターなのか？

　Ｍｅｎｕ（メニュー）さん、有塩バターって作れる？

〔 可能です。素材スキル『有塩バター』の情報を開示。『有塩バター』取得条件：素材スキル『バター』『食塩』の取得。現在、素材スキル『有塩バター』の作成が可能です。作成を開始しますか？ 〕

　僕は開始を選択する。だいぶ使い慣れてきたとはいえ、やはりまだまだ色々手探りだ。有塩バターとブルーベリージャムでパンケーキを食べてみると、今度は、かなり美味しかった。

　スフレパンケーキの登録お願いします。トッピングは毎回違うと思うので、パンケーキ部分だけの登録にしてください。

〔 承知しました。レシピスキル：『スフレパンケーキ（葵）』を新規登録しました 〕

〔 『取得条件：卵白からメレンゲを作る』をクリア。調理製造スキル『オーブン』が解放されました 〕

　ウッシ！　ついに念願のオーブン、ゲットだぜ。

〔 シークレットミッション『パンケーキを作る』を達成。ボーナス素材スキル『ベーキングパウダー』が付与されました 〕

　ですよね～。知ってた～。

〔 ジャムの登録はどうされますか？ 〕

　ジャムはもう少し寝かします。

〔 承知しました 〕