ウサギさん

ウサギさん①

 ここは、どこだろう。

 見渡す限り白い。

 足元に床がないのに、僕は落下したりしない。

 

 泡立て器とボウルを持ったままの間抜けな僕。眩い白い光に目が慣れてくると、目の前にいる変なモノに気がついた。一言で表現するならば、デカい灰色のウサギだ。


 そのウサギは、二足歩行で立っていて、執事のような服を着ていた。体長は長い耳までいれると、身長百七十センチある(と、友達には言い張っているけど、本当は少しだけ足りない)僕の胸のあたりまであるから、百三十センチくらいだと思う。


 有名なイギリスの絵本に出てくるウサギに似ている。


「すまない」


 ウサギさんの声、姿に似合わずカッコいい低音ボイスだった。声変わりしたのに、ちょっと高めの声の僕からしたら、すごく羨ましい……。


「君に『菓子職人パティシエ』を全てインストールしようとしたが、ほとんどのスキル項目にロックがかかってしまった」


 大きな足の片方をパタパタと動かして、顎に手を当ててウサギさんは何やら悔しがっている。


「こちらの世界に着いてしまったら、私はほとんど君の力になれない。そして、向こうで会っても私は君のことを知らないフリをするだろう」


 だんだんと、ウサギさんを白い光が包んでいく。


「でもどうか忘れないで欲しい。全ては君の中にあるということを」


 ウサギさんは一方的に色々言うと、光とともに消えてしまった。


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