152話 相談②
「は?」
「だから、結婚することになった」
「「…………」」
暫くの沈黙が店内に訪れた。
この静かな空間では自由に飲食することも憚れる。
そして沈黙を破る者が現れた。
「優ちゃん……おめでとう……でいいのかな?」
彼はおしぼりで額の汗を軽く拭いて自然な笑みで語り始める。
「いや、なんとなくいつかは二人がくっつくとは思っていたけど、ずいぶん早いな……と驚いただけ。おめでとうございます。そうか……結婚か……」
「ご丁寧にどうも」
彼はただスピードに驚いていただけであるようだ。
本人と面識もあるから彼女の人間性も知っての事だろう。
机に着くほど頭を下げて祝いの言葉を受けて嬉しくなった。
一方で、曽場は爪楊枝を咥えて頬杖をしている。
「近ちゃん大丈夫か? 騙されてんじゃねぇか?」
「大丈夫だと思う」
彼女の懸念は理解できる。
突然現れた人間と一か月そこらで婚姻をしようというのは創作の世界であり、現実ではなかなか聞かない。
「まぁ、今時一度や二度の離婚なんて当たり前の時代だからな、ははは。な、親父?」
「薫が一番心を抉ってるよ……」
快活な笑顔で離婚前提の結婚について自分の父親に同意を求めているが、それを聞いた彼はひどく落ち込んだ。
具体的な内容は知らないが彼は一度離婚を経験している。
「親父。気にすんなって」
「心配してくれてんの?」
「その結果仕事に支障が出て、私の仕事が増える。二度手間だ」
一気に暗くなった彼のことはさておき、話を続ける。
「ま、近ちゃんの結婚なんぞ、私には関係ないからな……」
「ん。了解」
「で、なんだっけ? 最近悩みがありそうだって話だっけ? 人間関係じゃないなら金じゃね?」
「お金?」
横で意気消沈していた大将が顔色を戻し、俺の肩を掴む。
「そうだよ。優ちゃん。女の人はお金がかかるんだよ。このバカ娘も、洋服代やら、ゲーム代やらなんやらって毎月クレジットカードの支払いに追われてるんだよ。全く母親にそっくりだ……」
「自分で自分の心を抉ってますよね?」
「ま、親父の言う通り、十中八九、金だろ。借金とかしてたんじゃないか。怪しいとこから借りて取り立てとかな」
遥は今までお金に困っていた話をしていた。
自分のお金に関してあまり口にしたことはなかったから知ることも少ない。
危ないことに一人で首を突っ込む前に止めないとならない、そう決意する。
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