151話 相談①

 昼食をとる時刻となった。

 当然、気が気でなく集中力は低いがやることはやったから定時に昼食とすることが出来た。


「いらっしゃい。近ちゃん。なんか顔色が右半分良くて左半分悪いぞ」

「いらっしゃい。優ちゃん。どうした、顔色が左半分良くて右半分悪いよ」


 今の心境で訳の分からない出迎えを受けてより一層疲労感が増す。

 昼食時に客一人に構っていられるほど客がいないのかと思い周囲を見渡すがやはりほとんど客はいない。

 金髪が人差し指で「好きなとこ座れ」と指示をする。

 がら空きであるから四人掛けの席を選び荷物を横に置いて座る。

 注文しようとしたその時、大将がトレーにコップ三つの水とを持ち、曽場薫がステンレス製のワゴンにうどんを三つ乗せてキーキーという金属音を響かせながら運んできた。


「へい、梅おろしシラスのりうどん」

「そんなもの頼んでいないんですけど」

「気にすんな。そんな顔して梅を五倍にしておいたから、スッキリさせな。料金は据え置きにしておいてやる」

「ここの従業員の教育はどうなってるんです? 勝手に食事メニューが決められて」

「まぁ、優ちゃんだから」


 時間も限られていることから文句はほどほどにして提供されたものを食べ始めることにした。

 彼女の言うように梅干しの酸味が今の脳の状態に効果的である。

 目の前で親子二人も営業中にも関わらず束の間の休憩なのか同じものを食べ始めている。

 折角大の大人が二人もいることだ、二人からも何かヒントを得ることができるかもしれない。


「なぁ、女の人が焦るときってどんなときだろう?」

「あっ? また同居人か?」


 曽場薫は七味唐辛子を垂直に振りながら聞いてきた。

 この親子は家に住まわせたことを知られているから多少相談することができる。


「まぁ、そんなとこだ。昨日今日あたりひどく焦りを感じているようでな。何を聞いても大丈夫だと。大丈夫じゃないのに」


 二人は啜りながら考えてくれているようである。

 体に悪そうな真っ赤に染まったうどんを一気に胃へと流し込んだ曽場はおしぼりで軽く口を拭きハッキリとした口調で言う。


「そりゃあ、あれだろ。なんか変な男とトラブったんじゃねぇか」

「薫。なんてこと言うの? そんな子じゃなかったよ」

「そんなこと言われても知らんよ。あれ以来会ったこともないし」


 目の前で口論が始まるが気にならない。

 今は俺の知らないところで人間関係のトラブルが発生している可能性を考える。

 遥は最近この町に来たし友人と言える人がいるとは聞いていない。

 出会う前のことはあまり知らないが、そうではないと思う。


「人間関係じゃない気がする。遥は過去にも今にも交友関係少なさそうだし」

「「遥?」」

「二人で何ハモってる? 仲良し親子?」

「ん、遥? 呼び捨てになってんじゃんか。そんなに仲良くなったのか」

「結婚をする方針になった」


 サラっとそう説明するとただただ二人は驚いている。

 確かに結婚という人生の変わり目とはいえ自分としては日常の一つであるから、そこまで言葉を失う出来事だとは思っていなかった。

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