149話 電話②

 着信があったスマートフォンを恐る恐る耳元に当てる。


「あっ、やっとつながった。第一病院です。何度も連絡したんですよ。出産費用が支払われていないようなんですけれど」


 病院から出産費用の督促電話が来たのだ。

 いままで音信不通にしていたから、少し語気が強い。

 医療事務の人と思われる女性の声が耳の奥まで響く。


「す、すみません……理解しています……」

「もう二か月以上になりますので。払ってください」

「えっと……その……」

「こちらとしてもこれ以上は待てませんので。速やかにお願いします」

「わ、わかりました……」


 通話を切ると久しぶりにぶわっと汗が噴き出した。

 数分の通話だったはずが何時間も経っているような気がした。

 今まで目を背けていた現実を突きつけられる。

 この家に居て欠如していた緊張感がこの一瞬で現れた。


「ど、どうしよう……」


 これから私がしなければならない事を自身に問う。

 それはただ一つ、お金を支払う、それ以上でもそれ以下でもない。

 そして今の現実はどうだろうか。

 今いる南関東から東北地方は宮城県、距離的な問題。

 新幹線でも夜行バスでも使えば何でもない距離かもしれないが今の自分の置かれている状況ではかなり遠距離に感じる。

 そして本題の金銭的な問題。

 纏まったお金はないし、働いているわけでもないから今の現状から増えることもない。

 そもそも財布に入っているお金は全額近藤優が稼いだお金である。

 信用してもらっているからある程度は好きなことに使っても嫌な顔はしないが、額が違う。

 そもそも近藤優には関係のないことだ。

 優に関係があるとすれば結が生まれてから一か月が経った時点、私たちが出会ってからだろう。

 だから、出来ることなら、いや絶対頼りたくない。


「しかし、どうしようか……」


 今回ばかりは逃げることも、先延ばしすることもできないことが焦りを産む。

 結は私に何が起こっているか理解することはもちろんできずただこっちを見ている。


「……働こう。短期間でも。お金が必要だ」


 そう決意して買い物に出ることにした。

 もう一回心の中で「優には頼らない」と唱えて家を後にした。

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