148話 電話①
私はとうとうスマートフォンを手に入れることができ、連絡手段を得ることができた。
もちろん優にお金を出してもらって買ったものだ。
出掛け先で何かあっても電話をすることができるというのは心強いものである。
日中の優がいない時間はやはり不安は不安である。
「優に電話してみる? 今は忙しいかな?」
寝ころんでいる結は言葉を理解しているとは思えないが腕を上げて振るような動作を見せた。
つまり、やめなさい、と言うことを伝えたいのかもしれない。
「大人だな、結は。わがまま言っていいんだよ。寂しいから早く帰ってきてとか」
そう思っているのは私である。
結の方がよっぽど大人であるが、これが私と言う人間の面倒な部分である。
それを受け入れて、一生付き合ってくれる人間が近藤優である。
そう思いを馳せているときに握っているスマートフォンが大きな音を鳴らした。
「……ギャー……」
「ご、ごめん。大大きい音だったね」
不意な大音量に驚かせてしまい結はギャン泣きになってしまった。
その間にも鳴り続けている電話を消して、音量を下げてから彼女をあやす。
背中をさすってもゆりかごのように揺れても彼女が泣き止むことはない。
元々私は結をあやすのは得意ではない。
こういうのは優が得意だし結も彼の方が合うらしい。
このことに関して寂しくもないし悔しくもない、むしろありがたいものだ。
彼が大きい買い物や洗濯風呂掃除といったことをしているからワンオペ感覚はない。
私がやると二度手間になる可能性があるから彼が初めからやったほうが早いのかもしれないが。
ただ、今は私しかいないから私が何とかするしかない。
「よしよし……落ち着いて……」
「ギャーギャー」
「……」
泣き叫ぶ彼女を見て私がすることは一つである。
スマートフォンを手に取って迷うことなく電話をする。
「もしもし?」
『ん? どうした?』
「今は電話して大丈夫なの?」
『大丈夫だよ。戻ったほうがいい?』
「いや。ただ結が泣き止まないから」
『電話越しでも聞こえる。そういうときはゆらゆらしたり、歩き回ったり……』
「そんな定番で泣き止むのは優だけだから。だから電話したんだよ。何か裏技ないの?」
『裏技? あれ、遥が一番好きな歌。あれ聞かせたら泣き止むことあるよ』
「そ、そうなの? やってみる。ありがとう」
電話を切ったあと早速曲を流してみると今までのギャン泣きが嘘のようにご機嫌になった。
「……キャッキャ……」
「よ、よかった……」
結局一人では自分の子供を満足にあやすことすらできていないが、これが私の精一杯である。
電話があると直ぐに優に頼るようになってしまうかもしれない。
でも一度自分の頭で考えて、やってみてから頼っているから許してくれるだろう。
ホッとして思わず笑みがこぼれ、彼との通話歴を見ると背筋が凍り付いた。
優との電話歴の一つ前、結がギャン泣きした原因となった電話。
その番号を見ていると次の瞬間再びその番号からの着信があった。
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