147話 普通
「じゃじゃん、買って来たよ。スマホを」
真新しいスマートフォンを高く掲げる遥はまるで小学生。
しかし小学生が起きているには遅い二十三時。
深夜テンションの彼女はそのスマホでパシャパシャと寝ている結の写真を撮る。
真夜中にモデル業をする結も大変だ。
「優、連絡先を交換しよう」
「ん」
電話番号、メールアドレス、無料通信といった連絡ツールを一通り交換しながら様子を見るとご機嫌にご機嫌を掛け合わせたような具合の遥がいる。
スマホを触っている様子は現代の中高生のようなスムーズさで若々しさがより顕著になる。
「やっと、優と連絡先交換できる。嬉しい」
「俺らって順序がめちゃくちゃだ。普通は出会ってからまずは連絡先交換から始まるのにな」
「私たちに普通はないよ。現に私たちは普通の出会い方じゃないし」
普通の出会い方、学校や職場で出会う事だろうか。
多様な出会い方がある中でも稀有な出会い方だ。
それでも楽しく暮らせているから普通じゃないのも悪くないだろう。
「そうだな。でも楽しいよ」
「うん。ありがと」
そう言うと手に持ったスマートフォンを大切そうに触れている。
「ねぇ、写真撮らせてよ」
「写真?」
「電話帳に個人の写真付けられるでしょ」
「いいよ」
彼女はスマートフォンを俺の方向に向けてシャッターを押す。
しかし、満足いくものを撮影することができていないようで一度画面から目線を外した。
「そんな普通の感じの写真? ほら、背筋の伸ばして少し横向いて」
「なになに? スパルタ?」
「いいから、いいから。もっと顔上げて、腕組んで」
こうして出来上がった一枚はまるでスポーツ選手の名鑑にでも載っていそうな構図である。
「うん、納得。プロ野球選手みたい。バシッと決まってるよ」
「納得してくれてよかった」
「明日、結が起きているときに三人で写真撮ろうね。家族写真だよ、家族写真」
「そしたらスーツ着るか」
「会社に行くときすら来ていないのに。普通の感じでいいよ」
三人での写真は今までなかったから記念の一枚になるだろう。
それは明日にするとして、時計を見ると日付が変わりかけていた。
長い一日というのはいつもであるが楽しく締めることができたのであれば幸福なことだ。
「寝よっか。優。今日はありがと。おやすみのちゅー、いる?」
返答する前に彼女は接近して唇を重ねてきた。
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