140話 ご相談②

 目の前にいる舞さんはうーんと唸りながらいろいろと考えてくれている。

 自分のことを見て欲しい、という問いの答えはきっと私しか知らないはずだ。


「まぁ、お父さんらしくて良いんじゃない。養父と娘って気にするでしょ? お母さんとしては。色々あるじゃん、世の中」

「ああ、私は全く気にしてなかったです。でも、もし私から見て、結に対しての優の行動言動に不安を覚えたら自分のことを捨てていいって。そんな親は永遠に牢屋にいていいって。そもそもそんな親はこの世から消えていいって言ってました。その子の辛さや痛みの分を味わうべきだと思う。だから俺は結が傷つくようなことは絶対しないです、と述べていました」


 彼女の言いたいことは理解できる。

 親からの虐待や性犯罪があることは日々の報道で既知である。

 養父から娘への犯罪も報道されることから、彼女の言うような心配がある人は多いのであろう。

 それは養母からのケースもあるだろう。

 ただ、報道されない、あるいは他人が気が付かずに埋もれてしまっているだけなのかもしれない。

 私はそういう犯罪に対して性別は関係ないとは言えないが、女だから加害者にならないとは限らないと思う。

 それこそ埋まってしまっているのだろうから。

 だから優が男だからという理由でそういうことを気にするのは違うと思うし、優はそんなことしない。

 だから結を任せられるのだ。


「そう。良かったね」

「それはそれ、これはこれです。私という人間をもっと深く深く見て欲しい。前に言ってたかもですけど子供ができてら夫に見られるのも嫌っていうケースもあるって分かってますけど……私は優のことを愛してますから……もっと……母親としてじゃなくて素の私を知ってほしいって思うんですけど」


 再び顎に指を当て考える彼女の下でいつの間にか寝ている。

 結の舞さんに対する好感度は高いことを示している。


「解決策は……二人きりでお風呂に入る。彼も男性だから湯気の中で水が滴る遥ちゃんを目にしたらね、興奮の一つもあるんじゃないの?」

「二人きり?」

「近藤君の結ちゃんフルコース脳をその瞬間だけでもあなた一色の脳にしたいってことでしょ。だから二人だけで裸の付き合いでもすればいいんじゃないの? 遥ちゃんって完全に見せたがりみたいだから、恥ずかしくないでしょ?」

「見せたがりって……」

「違うの?」

「優の前だけですよそんなことするのは。まぁ……もう全然恥ずかしくはないですけど」


 考えたこともなかった。

 二人きりでお風呂に入るということを想像するとすごく楽しい。

 体を洗って貰ったりおしゃべりしたり。

 お風呂だから電気もついているし狭いから私の肉体は目に入るだろうし、意識せずにはいられない状況であろう。

 色々な妄想が頭に浮かびとてもドキドキする。


「赤ちゃんとはいえ十五分、二十分ぐらいは一人でも大丈夫じゃない? まだ歩いたりすることもないし。今がチャンスよ。歩き始めたりしたら目を離せなくなるでしょ?」

「確かにそうですね。機会があったらやってみます」


 とても有益なアドバイスをもらった。

 ただこの喧嘩はそういうことをせずに自力で仲直りしたいと思う。

 優もきっと悩んでくれているだろうし、いろいろ考えてくれた上での言葉だったと思う。

 舞さんに相談して良かったと思う。


「ありがとうございました」


 笑顔の舞さんはいつの間にか起きていた結の腕を上下にしながら「いえいえ、良かったよ」と答えた。

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