139話 ご相談①
「こんにちは。遥ちゃん」
「こんにちは。舞さん。上がって下さい」
今日は舞さんが家庭訪問に来てくれた。
彼女はいつも通りのスーツ姿であり、とてもすらっとしている。
お茶を用意していると結と交流している様子もあり、私と優以外で他の人と触れ合える機会は少ないからありがたい。
そしてお茶を持って席に座ると開口一番舞さんに伝える。
「優と結婚する方針です」
「そう、おめでとう」
彼女は笑顔で祝ってくれているようであり嬉しいが、そうではないのだ。
「でもそんなのは出会ったときから既定路線なんで今日はどうでもいいんですよ」
「え? そうなの?」
結婚という人生の節目をどうでもいいと表現する人間はそういないだろう。
でも、優とはそうなることがまるでレールのように決まっていたのではないかと感じている。
とても嬉しいことだが、今日は違う。
優を遠ざけてしまったことに関しての相談だ。
手元の温かいお茶を一気に飲み干して言葉にする。
その様子を見ている舞さんと結は少し驚いているが、気にしない。
「舞さん聞いてくださいよ。優って男じゃないんですかね」
「いきなりどうしたの、一応というか彼は男の人だと思うけど。結婚が決まって早々に喧嘩でもしたの?」
予想通りの答えが返ってきた。
「いや……喧嘩ってほどでもないですけど……」
「言ってみて。力になれるかもよ」
彼女に昨日会った出来事を簡単に伝えることにする。
「昨日結とお風呂に入っていて結のバスタオル忘れたんです」
「それで? どうしたの?」
「持ってきてくれた優に私の体どう? って聞いたんです。裸ですよ。生まれたままの姿。この私のですよ」
「そう……ん、見せたがりなの? 嫌じゃないの?」
当然の質問であるが既に私は気にしなくなりつつあるし、それ以上に彼にもっと私と言う存在を認識してもらいたいのである。
「減るものではないですし、もう何回か見せてますし嫌じゃないんで」
私の発言にクスクス笑っている舞さんは上品にお茶を口に付けている。
舞さんの膝の上で心地よさそうにしている結を見ていると幸せな気持ちになるが、それを見るとやはり優と一刻も早く仲直りしたいと思わせてくれる。
「そのとき、優なんて言ったと思いますか?」
「なんて言ったの?」
「良いと思う、っていったんですよ」
「ダメなの?」
ダメというわけではないのだ。
両手の人差し指をつつき合わせながら彼女にはこう答える。
「なんか物足りなかったです。で、バスタオル本当は用意してあるけど隠してもう一回呼び出したんです。でも……」
「乙女ね。それがあなたは気に入らなかったのね」
乙女なんて言われたことなかったけれど確かにやっていることは露骨であるし、ただ褒められたいだけだからそうなのかもしれないと納得できる。
腕をうねうねと軽く動かす結を目線に入れる。
「確かに結がいます。優の頭は結で一杯なんです。私のことは結の母親として見ているのが主なんです。ですけど……やっぱり母性が出ているとはいえ女は女なんですよ……」
「彼らしいと言えば彼らしいけど。会社もでもそうね、自分の仕事を責任もって最後までやるから」
「あたりまえなんじゃないですか」
「その当たり前ができない人もいるのよ。何人も消えていったし、消した」
舞さんの顔が少しだけキリっとした。
私は舞さんの優しい大人のお姉さんの姿しか見ていないから会社員としての彼女の姿を知らない。
今まで何人もの人を見てきたからこそ言える言葉なのかもしれない。
「遥ちゃんはどうして欲しかったの?」
「もっと恥ずかしがったり目をそらしたりしてもよくないですか。長年付き合った彼氏彼女から夫婦になったんなら見飽きてたりするかもですけど……」
「あなたたちは出会って間もないもんね。ちょっとぐらい新婚気分味わいたいのね」
「そうです。親兼任新婚夫婦です。どうすればいいと思いますか?」
同性であるからこそのアプローチ方法を聞かせてくれるかもしれない。
何よりも私より少し長く生きた人間としての経験が舞さんにはある。
是非解決策を聞きたい。
そして早く優と仲直りしたいという気持ちが心のなかでより大きくなるのである。
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