138話 相談
遥は今日の朝は昨日のことでやはり機嫌があまりよくなかった。
「……行ってらっしゃい」
「……行ってきます」
「あああ、ううう」
普段通りの結笑顔が眩しく、早く遥と仲直りしなければならない。
しかし、どうすればいいか分からないまま午前の業務が終わり昼食の時間となった。
食欲があまりないが例によってうどん店に足を運ぶ。
「いらっしゃい、優ちゃん」
「今日はまた落ち着いた雰囲気ですね」
「そうなんだよ。なんだか人の入りが急に止まって」
お昼時とは思えないほどの静けさである。
大将は笑ってごまかしているが飲食店としては笑えない状況である。
「冷たいざるうどん小を」
「小でいいの? 今作るね」
シンプルなものであるからかすぐに配膳され、大将も目の前の空席に着席した。
それを食べながら彼は優しい声で話しかけてきた。
「優ちゃんなんか元気ないね。食欲もないみたいで」
「えっと、まぁ、そうですね」
「相談に乗ろうか?」
彼に俺の悩みを伝えるのは少し恥ずかしい。
しかし第三者の年上からの見解を聞くことはきっとこの悩みを解消する一助となる。
「部下の男性社員に相談されたことなんですけど。対処法を聞かれたけど分からなくて困っているんです」
「そっか。おじさんに聞かせて」
俺の悩みだが架空の人物をでっちあげるよくある手法で話を進めることにした。
彼はそれを気が付いているかは分からないが自分のことと正直に言うよりはハードルが下がり言葉がスルスルと出そうだ。
「その彼はもうすぐ結婚するらしいです。相手には子供がいて。奥さんになる女性に自分ってどう見えているのか聞かれたようで」
「うん。よくあるよね」
「裸で」
「えっ? 裸?」
彼から驚きから裏返った声が出た。
彼の反応から自分がどう見えるかという問いはよくあるのであろうが素っ裸で問われることは稀であるということが分かる。
「で、子供もいるから踏み込んだこと言えなくて小さい喧嘩が発生したようなんです」
「そうだね。理解できるよ」
「その彼女からは色目使っていいと言われているし、実際綺麗な人だからドキドキすることもあるようです」
遥は凄く可愛いし美人だ。
見た目だけではなく性格も合うし一緒にいて楽しい。
「普通のときは可愛いとか綺麗だとは適宜伝えているようなんですが、真っ裸で迫られ、いざどうかと聞かれると困るようです」
「まぁ、そうだね。その部下の人も大変だね」
大変なんです。
そうすればいいのか分からないし、どうしてあげることが彼女の為なのかヒントが欲しい。
彼は手を顎に当てて考えてから自信に満ちた顔で言葉を出す。
「解決策としては、引かれるぐらいに褒めることかな。褒められたいから聞いているんだろうし」
「良いと思うとは言っているらしいですよ」
「なんかもっと具体的に言ってあげないと。透き通る肌だね、とか」
「言ったことあるんですか?」
その場から立ち上がり調理帽子をかぶり直した大将の返答を聞く。
その顔は見たことのない笑顔で期待ができると思ったがそうではなかった。
「ないよ」
「ないんですか」
「ま、何とかなるさ。夜の準備するから戻るね。頑張って、優ちゃん。おじさん、応援してる」
建前上は自分のことではなく部下のことということにしてあるが、彼はきっとわかっているのだろう。
少し恥ずかしいがヒントは得た気がする。
「どうも。参考にします」
残りの麺をサッと食べ、再び仕事に励むのである。
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