136話 やっぱり私は

 抱き着いている状態のまま優に聞く。


「やっぱりさ、優さんも若いから……そういうことに興味持ってたり……するでしょ。正直に言ってよ」


 頭を起こして彼の顔を見ると少し恥ずかしそうにしている。


「う~ん。まぁ、人並みに……って答えたら正解かな?」

「正直に言ってくれてありがとう。優となら楽しくできるかも、そういうことも。あんまり聞きたくないかもしれないけど、前の人とそういうことしてたときに激痛で激痛で。楽しいなんてもんじゃなかったよ」

「痛かったの?」

「本当に痛かった。スポーツしていたし肉体労働系の仕事だったから力が強くてね。掴まれたりするとホント痛かった。もちろんその直接的なことでも痛かった」


 あまり思い出したくないし口にしたくないが過去の思い出は変えられない。

 痛いというマイナスな感情が強かった思い出だからこそ頭から離れない。


「優はスポーツとはあまり縁ないから力もそれなりだろうし、ゆっくりと優しくしてくれるよね」

「何をどうしていいかわからないからね。勉強するよ」


 こういう話も無下にしないで親身に聞いてくれる。

 あなたとならそういう時間も楽しく過ごせるかもしれない。

 もし痛くてもきっと工夫してくれるだろう。

 マイナスのをゼロではなくプラスにできるぐらいの楽しい思い出にしたい。 

 私のことをちゃんと見てくれているあなたが大好き。


「私は優に何かをしてあげることもあんまりできてないけど、ありがとう」


 優は私の抱きしめてきた。

 体が自分のものと思えないほど熱くなり、心がドキドキとする。


「いえいえ。結婚相手を探す必要が無くなって幸運だから。あんまり自分を追い詰めないで」

「そうだね、優はラッキーだよ。こんなにも可愛くて美人で性格が良い女の人と結婚することになって」


 私以上にいい女性と巡り合う事なんて造作もないことだ、と思っていた。

 でも今、優と話していて、彼に合う女は私しかいないという自信が生まれた。

 全世界に何億人といる女性の内、優が心の芯まで理解したいと思える女は私だけだろう。

 自惚れではなくそれぐらいの強い自信なのだ。

 彼と目が合い続ける。

 この時間が幸せだ。


「それに、普通だったら男の人は相手の親にド緊張で汗をダクダク流しながら挨拶するんでしょ。それがない優は本当にラッキーだよ」

「確かに。胃が痛くなるイベントだろうね」

「義両親との付き合いもしなくていいなんて最高でしょ。帰省も介護もいらないんだよ」


 背中をポンポンと優しく撫でる。

 まるで普段結がやってもらっているように。

 とても安心するし、心地よくて眠くなる。


「そうだね。だから、遥は何も気にすることないからね」


 やっぱり私には優しかいない。

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